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ふうけい(T.Kちゃん)

この記事は2020年8月9日にホームページにて掲載したものです。

Tちゃんの挑戦と成長の記録として。

なんども話しているけれど、Tちゃんはとても器用だ。おまけに想像することも得意だし、それをクリエートしていく力も持っている。

器用な人というのは、つまり応用力が長けているのだと思う。
初めて体験することでも、他での経験を活かして、まる知っていたかのように、わけなくこなす。
要点を見つけるのも上手い。
チャーハンの作りかたを知っていれば、やったことがなくてもピラフくらい簡単に作ってしまう。
野球をやったことがあるのなら、ゴルフだってすぐにうまくなるだろう。


絵だってそうだ。

器用な人は、自分の目指す表現に対して、その画力を持っていなくても、他の力を応用して(または違う表現に置き換えて)作品を作ることができる。


だけど、だけどね、僕なりのおせっかいを言わせてもらうと、それではダメなんだ。

いくら器用にできたとしても、いや、器用にできてしまうということが、時として弱点にもなる。

海老で鯛を釣り上げても、結局のところダメなんだ。
鯛を釣り上げる力が身についていないのなら、その鯛に価値はない。
おじいさんの趣味ならいい。その鯛を魚拓にでもして自宅の壁に飾って、うまい酒を飲めばいい。

だけど僕らは、そして子どもたちは、そんな鯛に満足していてはダメだ。
そんな鯛は、取り逃がしちゃえばいいと僕は思ってる。心から。


手グセで弾いてしまうようないつものフレーズから、いつかは抜け出す必要がある。
ミュージシャンが新しいスケールを覚えるみたいに、料理人が新しい味に触れるみたいに、誰にだって前に進まないといけないときがある。一皮剝けないといけないときがある。



今日がTちゃんのその日だった。
Tちゃんはこの絵を、とても苦労して描いた。
何度も何度も写真を見て、頭の中にある景色とにおいを思い出して、たくさん考えて、たくさん悩んだ。
彼女の中に無い、新しい表現を探した。


「こういうときって、どうしたらいいの?」

めずらしく(本当に珍しく!)僕に質問をした。

「いい描き方、ないかな」


こうやって子どもたちがステップ・アップする瞬間に立ち会えることを、心から嬉しく思う。
そして僕は、子どもたちの針に鯛が引っかかったその瞬間を、決して逃しはしないぞ。
ぜったいに釣り上げる。

柔軟な釣竿に、大きな大きな網!
針が外れたら海に飛び込んででも掴みにいく。

Tちゃん、今日は本当によく頑張りました。
とても疲れたでしょう。

すごくいい作品ができたね。
大きな鯛を釣り上げた感触が、ジンジン、まだその手に残っていることだと思うよ。

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