【短編小説】博士の発明

その日、博士はえらく興奮していた。

「ついに、、、ついに完成したよ!!」

「博士、今度は何を生み出したんですか」

私は、いたって冷静だった。
博士は、鉛でできた4つの輪っかを見せてきた。

「なんですかこれは」

「これは、悩みが吹っ飛ぶ機械だよ!」

博士曰く、これを両腕と両足首につけると悩みが吹っ飛ぶらしい。

「うーん。それはまた、へんてこなものを作りましたね」

「いや、これはきっと、世紀の大発明だよ!だって考えてもみたまえ!これの効果が認められれば、、、」

それから博士は、彼の頭の中の妄想の世界について話し始めた。
うっとりとしながら、それはそれは楽しそうである。私の博士はこんな感じで、とてもお気楽者なのであった。

「しかし、完成したはいいものの、実験して、この機械の真正性を確かめなければならないな」

博士は少しの間、うーんと悩んだふりをして研究室を徘徊し、私の前で止まった。
これは、一旦考えた上で、それでも実験できる人が見つからなかったので、どうにかお願いできないかという博士なりの演出だと私は思っている。

「ところで山田くん。今現在悩みはあるかね」

「まぁ、私も人間ですので、悩みのひとつやふたつありますよ」

「そうか。なら、ぜひとも実験に協力してくれないか。もちろん報酬もつけよう」

「いいですよ。私は何をすればいいですか」

「君、運動は得意かね」

「そんなに体力がある方ではありませんが、博士よりは得意かと」

「ふむ。それじゃあまず、この4つの輪っかをそれぞれ、両手首、両足首にはめてくれ」

私は、博士に言われたとおり輪っかをはめた。
鉛をつけた手足は、ずっしりと重たくなった。

「できました」

「よぉーし!それでは行くぞ!山田くん、この画面を見てくれ。これからここに、キック、パンチなどの文字が出てくる。キックなら足を上げ、パンチなら腕を前に出すのだ。とりあえず、やってみよう!」

博士の「よーーい、スタート!」という声と同時に、スーパーの一角にあるゲームセンターのような、チープな音楽が流れ始めた。
画面には丸太がコロコロと転がるアニメーションが流れたかと思うと、突然、パンチという文字が出た。

「よし、今だ!パンチ」

ぶんっ。

私は思いっきりパンチをしたが、どうやらタイミングが合っていなかったようで、画面には「BOO〜」という文字が出た。

「もう1度!次はキックだ!」

博士の声にすぐキックをしたが、これまた微妙にズレたようである。
これはなかなか、タイミングが難しい。
そして、どんどんレベルアップしていく仕組みのようで、次の画面ではキック&パンチの文字が出てきた。

「はぁ、、これは、、、なかなか忙しいですね、、」

重たい鉛のせいで、体力がどんどん削られていく。
画面には、今まで出てこなかったクラップアンドターンという文字が出てきた。

「これが出てきたら、ジャンプしながら頭の上で手を叩いて、着地したらすぐにターンだ!」

こうなると、ほとんどリズムダンスのようである。

「ほい!もう1度!」
「ほれほれ!もっとだー!」

博士は、いつものお気楽とは違い、実験になるとなぜかスパルタになる。
そして、実験は1時間続き、私の体力は限界を迎えた。

「はぁはぁ、、、。博士、少し休憩を。これは、若い私でもなかなかハードです」

私は大の字になり呼吸を整えた。

「いやはや、クリアまではまだまだ遠そうだな」

ゲームオーバーした私に、博士は満足げな顔をした。

「なかなか複雑な動きが多いですね。忙しくて止まる暇もありませんし、これは普通の人には少し難しいのではないでしょうか」

「だからいいのだよ!」

「はい?」

私が輪っかを外して机に置いたその時だった。
輪っかからシューシューと音が聞こえ、モクモク煙を出したかと思うと、ボンっという音ともに、まっぷたつになってしまった。

「あぁああ〜〜なんてことだ!!」

「私の使い方が悪かったんでしょうか」

「いや、少し酷使しすぎてしまったようだ。
これはまた改善が必要だ〜〜!山田くん!今日からまた忙しいぞ!」

博士と私は、三日三晩眠らず改良に励んだ。

「はぁ〜少し休憩だ!山田くん、コーヒー淹れてくれるかい」

「はい」

博士はコーヒーを飲みながら、少しの時間、窓の外を眺めていた。

「そういえば、山田くん。君の悩みは、なんだったんだい」

「はぁ、はて、なんでしたっけ」




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