初海外はバリ島で。
もう6年前のことである。
「新婚旅行はバリに行きたい」と夫が言い出したのはいつからだったかとか、なにをきっかけにそう言っていたのかは覚えていない。
ただ、結婚式の打ち合わせや衣裳合わせにと忙しい中で気が付けばホテルと飛行機を予約し、現地のツアーをSNSを通してインドネシア人にお願いしていたようだ。私は海外旅行なんて行ったことがなく、どこに行きたいとかそういう欲もなかったので「バリか。まぁ物価安いしあったかいところならいいや」くらいに考えていた。暖かい、海が綺麗らしい、物価も安い、という3点拍子で逆に「いやだ」という理由もなかった。
出発までに近所のTSUTAYAに行き、「るるぶ」と「まっぷる」のバリ島を購入し、2人して連日読みふけた。
その情報誌曰く、バリは雑貨がお土産で人気らしかった。
現地通貨のルピアを日本円に換算すると「えっ、こんなに安いんか」というくらい安い。
私は行く前から色々買い込もうと意気込んでいたのである。
出発日は式の翌日。
結婚式は三次会までやってもらえたというか、知人友人がそこまで集まってくれて深夜まで私たちは終始ニコニコしていた。
人生後にも先にもあれほどカメラのフラッシュを浴びることもないだろうし、あれほどお世辞ではない(はず)の「綺麗」と言われることはないだろう。
三次会にもなると普通にカジュアルな私服を着ていた私は、頭はコテコテのヘアセットのままでおまけに花なんかつけていて、傍から見たら浮かれに浮かれたパッパラパーな新婦だったに違いない。若さゆえに成せた所業である。
翌朝は9時台の飛行機だったので、私たちは日付が変わるころには帰路についていた。
7時台には国際線に到着し、旅行会社の手続きを済ませ飛行機券を受け取った。空港までは車で10分ほどだったので、事前にタクシーは夫が予約済である。
朝からわざわざタクシーなんて乗ることもめったにないので、すでに自宅前から特別感が満載である。
海外用のwifiを借り、シンガポール航空でシンガポールを経由していざバリ島へ出発した。
国際線に乗るのなんて初めてで、しかも乗った初回がなんとあのシンガポール航空ともあって私は終始緊張と感動でいっぱいだった。まず客室乗務員が破格に美しい。漆黒の髪に赤いリップが皆よく映えていて、なんといってもあのサロンケバヤの制服がめちゃくちゃかわいい。ネットでポチろうか悩んだあげく、同じ柄のワンピースと布地のバッグをのちにシンガポールのスーパーで買った話はまたあとで書こうと思う。
シンガポールのチャンギ国際空港まで約8時間ほど、私は寝たり映画を見たり、客室乗務員が近づいてくればそわそわとしたりして過ごした。
デザートは確かハーゲンダッツのアイスが配られたような…
カチコチなので溶けるのを待って食べた。ハーゲンダッツのアイスだけでひどく感動した私はもう子供である。
あと1時間ほどで着くな、という頃になってなにやら前方の席が騒がしくなった。少し中腰になって前のほうを確認すると、自分たちより若めの日本人カップルが客室乗務員2~3人に囲まれて祝福されているようだ。
「誕生日かな」
夫とそう耳打ちしていると、そのお祝いムードはやがて自分たちの座席にまでやってきた。
英語でなんだか「おめでとう」的なことを言われそこそこ大きめなチョコレートケーキが運ばれる。
こういう時、本当に日本人の自分たちはなんてシャイなんだろうと思う。
「あっ、ハネムーンか」
と至極他人事のように呟き、へらへらと「てんきゅー」と日本語英語で会釈をするのが精一杯だった。
私たちはノリノリの客室乗務員たちが立ち去るのを息を潜めるようにして待った。
にしても、着陸までそれほど時間がない。
食い意地が張っているのと、貧乏性な私たちは着陸態勢に入るまでにこれを完食してしまおうと、早食いモードでチョコレートケーキを頬張った。
チョコレートケーキ好きの私にとっては願ってもないサプライズで「これタダ?」と田舎者丸出しで夫に尋ながら、あっという間にケーキを完食した。めちゃくちゃ濃厚で甘かったけども、シャンパンによく合った。
シンガポール航空のホスピタリティには本当に感服である。
そうこうしているうちに、東南アジアで有数のハブ空港であるチャンギ国際空港に到着した。
ここで一気に国際色が強まり、海外初勢の私は目を見張った。
とにかく広い。ガンガンに冷房の効いた屋内は天井高く、中心部は吹き抜けていてまるでショッピングモールみたいだ。
旅行会社に乗り換えの方法をざっくり聞いたいたけども(結局、チャンギ空港に着いてみないと乗り換えのターミナルがわからない)、当然私たちは「どこで乗り換えるんだ?」という状況に陥った。
しかし、ここはなんていったってチャンギ国際空港。航空券をATMのような機械にピッと読み込ませるだけで、乗り換えのターミナルまでの道順を示してくれる。
「おー」と言いつつ、なぜか夫はそこで「あの人に聞いてみよう!」と意気込み始めた。
―えっ、なんで。これ(機械)見たら道順わかんじゃん。ターミナル2に行けばいいんだって。
と、私が引き留めるが「せっかく海外に来たのだから、海外の人と喋りたい」という夫はずんずんと空港のサービスカウンターのお姉さんにカタコトの英単語のみで話しかけに行ったのである。
それでも「わかったわかった」と満足げに夫は戻ってきた。
「やっぱりターミナル2」とどや顔で言う。だからそう言ってんじゃん。
乗り換えまで2時間ほどあり、空港内を散策したり軽食を食べたりしてゆっくり過ごせた。
デンパサール空港までの機内食は一気に東南アジアっぽくなっていて、十分においしかった。
ごはんもあってパンもある。色合いはアレだが、日本人の好きそうな味つけにしてあり私は数分で完食した。
そうこうしているうちにデンパサールに近い、ングラ・ライ空港に到着した。
飛行機を降りるなり、ムッとした湿度の高い空気が押し寄せてきてむせそうになる。日本の11月の服装でやってきた私は余計に暑さを感じたが、長時間のフライト(フライトっていうとなんだか恰好いい)の疲労もあって、ベタついた髪も、汗臭いのも張りつく服ももうどうでもよかった。早く手続きを済ませ、横になりたくて仕方がなかったのだからハネムーンらしいテンションではなかった。
るるぶかなんかで見た、「乗るならこの色のタクシー(ぼったくられない)」というタクシーに乗り込んで、いざホテルを目指す。
タクシーの運転手は私たちにどこから来たのかとか、バリは何回目なのかを聞いてきた。ここで、夫が「How many times」を「何時にここに着いたか(おそらくtimesだけを聞き取ってトチった)」と聞き間違えてドヤ顔で「8 o'clock」と答えたのは、後々私によって他者に語り継がれるのである。
こういうのも海外旅行の醍醐味なのかもしれない。
宿泊したAYANA Resort & Spa Baliは空港から車で30分ほどの場所にあった。
東南アジアあるあるなのだろうが、街中の道路は原付バイク(しかも3人で乗っていたりする)がぎゅうぎゅうになりながら走っていて、バイク以外の車といえば、タクシーと旅行会社の大型車くらいだ。
クラクションを「そこ通るよ!」程度のテンションで鳴らすので、あっちこっちでクラクションが鳴りまくりという、日本では見ない光景があり私はさっそく土肝を抜かれていた。
ホテルに入る前にセキュリティチェック(車内とトランクを探知犬がクンクンする)を受け、私たちはやっとこさホテルにチェックイン出来た。
ロータリー前。
ここでタクシーを呼んでくれたり、ホテル内巡回トゥクトゥクがここに停まる。
ウェルカムドリンク。チェックインして手続き待ちの間に。
暑いし、疲れてたしで冷たいドリンク助かりまくり……。おそるおそる飲んだこのジュースはトロピカルな味だった。
昼間のロビー。あちこちにソファもあって、ここでアクティビティを予約したり、ツアーの待ち合わせ場所だったりといろんな人がいる。
もっと部屋の外の写真とか撮っておけばよかった…と今になって後悔する。お部屋はとにかく綺麗で、シャワーの水圧もなんの問題もなくアメニティも充分で満足。ビーチバッグもあるし、記念品と称した高級そうな手帳までももらったが勿体なくて今になっても使えていない。そして、この高々と積まれた枕は当然1個しか頭の下に収まらないので、朝方目覚めるともう1個は床に落ちていることもしばしば。
ルーム清掃に入るたびに、部屋に2~3種のフルーツを置いてくれたりする。
チップを置くとこんな芸術品が…。
チェックインした初日の夜はケーキも置いておいてくれた。
ここでもチョコレートケーキ。
もちろん食べました(またかよ)。夜中に食べるとは若かったんだな…。
バルコニーにはキャンドルと寝そべることが出来るチェアがあり、後日夕暮れ時にそこで読書&夕寝をして過ごした。
翌朝になってはりきって別途料金がかかるレストランに朝食を食べに行ったのだが、なんか満足度的に料金がかからないほうのレストランのほうが全然よかった…。それでも給仕係のお姉さんが英語でおすすめの場所とか一生懸命話してくれて、まともに英語喋れない日本人なのにそのおもてなしの心に感動した。
ここで私はインドネシアで人生初めてエッグベネディクトを食べたのである(おいしかった)。
ちなみに、無料の朝食バイキングは、豊富な種類のパンやフルーツ、おかずのほかに、なんと日本食もあった。夫はフレッシュジュースのおいしさに感動し何杯も飲んでいた。パイナップルジュースは生絞りである証拠に、灰汁がたんまりと浮かんでいる。
パンは3泊滞在していても食べきれないほど種類豊富で、全部おいしい。
結局、クロワッサンとかチョコパンばかり食べてしまうのだが。
オムレツを頼むために並ぶのって、なんであんなに緊張するんだろう。
スクランブルエッグとか、サニーエッグとかGoogle翻訳で単語を調べて食べたいものをドギマギしながら注文した。
屋外なので朝はとても気持ちがよく、すずめのような小鳥もパンくずを食べていたりと非日常感がすごい。
フロアスタッフがせっせとホットコーヒーか紅茶を注いでくれ、飲み干せば永遠に「おかわりはどうですか」と聞かれる。めちゃめちゃ広いフロアだけども、7時くらいに行けば全然混雑しない。
朝食を食べ終えると、ホテルを散策する。元気な人たちはもうこの時間帯からプールで泳いでいたりするものだ。当然私たちはあさイチのキンキンに冷えたプールなんてたまったもんじゃないので、ガーデニングを眺めたりあっちこっち写真を撮ったりして楽しんだ。
ホテルのスタッフの皆さんは早朝から庭の手入れや掃除を楽し気にやっていて、南国さながらの伸び伸びさが気持ちよかった。
どこをどう見て判断しているのか知らないが、韓国や中国のお客さんもいる中で日本人の私たちに「コンニチワ」と挨拶してくれて嬉しかった。
ここのホテルの目玉はなんといってもこのプールらしく、上から写真を撮るのがおススメらしい。あまり大人数は入れないので(確か大人しか入っちゃいけなかった)、ベンチが開いていればラッキーである。幸いにも、滞在中なんどかこのプールを楽しむことが出来た。
プールに浸かったり、景色の写真を撮ったり、お酒を飲んだりしてまったり過ごす。おなかが出てるとか、二の腕がどうとか、脚が大根とかここまでくれば誰も気にしないし、まず見てない。そういうのがいいのだ。アジア人にわりと写真撮ってーと頼まれたりもする。
ホテルのビーチもあるが、なんだか切り開いて無理やり作った感があるせいか、波が強かった。砂は日本の砂に近いかもしれないけど、日本より断然綺麗だったのだが、滞在中水温も低かったせいでバリ島ではビーチで過ごすことは少なかった。ちょっと小雨が降ったりして肌寒かったりもした。タイミング合わず。
日中はこうして散策とプール、ビーチを満喫しそのままホテル内で昼食をとった。街中のほうが断然安いので、ホテルで朝食以外を食べるのは余程疲れている時とかでいいかもしれない。
チキンライス、といえば日本では全くの別物が出てくるがこっちのチキンライスとえばこれだ。カオマンガイ、ともいう。一見、薄味をイメージしそうな色合いだが、この三種類のソースがどれもおいしいし日本人には合うと思われる。ごはんはタイ米のようで、ガーリックスライスが軽く乗っていてこれも美味しい。スープも断然おいしい。ホテルなので割高(2000円くらい)だが、街中の食堂で食べれば500円くらいで食べられるのではないだろうか。ただ街の食堂とかと違い、「おすすめ」と称して一番高い料理をしつこく勧められたりしない点はホテルのほうがいいのかもしれない。
そしてもうひとつの目玉はロックバーだ。日の入りの時間帯が大人気らしく、小さなゴンドラのようなものに乗ってバーまで行くのだが、行列が出来ていた。ここも幸いにして眺めのいいカウンターに座ることが出来て、バリ島の日の入りを見守ることが出来た。
お決まりのビンタンビール。
飲みやすいので、普通のビールをあんまり飲まない私でも飲めた。
ほかにも利用はしなかったがグランドゴルフなんかのアクティビティもあり、ホテルの敷地内で過ごしていても全然退屈しなくてあっという間に1日は過ぎていく。
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