【短編】夢で逢えたら
夢で逢えたら
~同士の君へ捧ぐ~
若津仰音・作
戦争が起き、そして終戦を迎えたのち、その戦争の勝利者側が、その戦争の正義について後世に語り継ぐことになる。敗者側から見た世界や正義は、そこである程度否定され失わていく。
戦争自体、正しい戦争などないのだが、「あの時の戦争の大義は、どちらが正しかったのか」という見解は、時代時代の価値観によって、変わってきさえする。
私が夢で見たもの、あれも戦争と呼ばれるべきもの、だったのだろうか。
私はその夢の中で、兵士だった。
まだ若かった。高校生くらい、十五、六といった年頃の見た目だった。
私はその夢の中で兵士であったのだが、服装や街の雰囲気が、今の時代・世界とは、だいぶ違った様相を呈していた。だだっ広い何も無い砂漠のような場所に、奇妙な建造物が点在していて、それらは土の色ではなく、なんというか、もしもおもちゃの国というものがあったのなら、そういう国にならありそうな、カラフルでチープな感じの建造物が、私達の目の前に広がっていたのだ。
「私達」と複数形で言ったのは、その夢の中で、兵士は私ひとりではなかったからだ。はっきり覚えている兵士だけでも七人、全員私と同じ高校生くらいの見た目をしていた。
だだっ広いその土地のおもちゃのような建物の屋上に身を潜めながら、私は遥か向こうから押し寄せて来る「敵」に向って、手の平から空気砲のようなものを発射しまくっていた。「音」のような透明な光線がその敵に照射されると、消えてなくなっていくのだ。
撃っても撃っても減らない敵の量に、私はちょっと茫然としていた。それでも撃つしかないので、私は手を休めることなく、空気砲のようなそれを、敵に向って打ち続けた。敵も一応私達のように、個体個体の身体を持っているようなのだが、その個体個体が合体して、一つの巨大な波のように動きながら押し寄せてくるので、やはり撃っても撃っても変化を感じ取れず、なんだか、死ぬほど、途方もない気持ちになっていた。
そのときだった。私の耳の後ろ辺りから直接的に、司令塔からの命令が聞こえてきた。
「直ちに帰還せよ、一時退散する」
上空に空母があるらしく、私達兵士は、建物の端に突如現れた上空へと続くエレベーターのようなものにとび乗り帰還を試みた。
私と同じエレベーターに乗ったのが七人あった。みんな黙っていた。疲れた表情をしていた。そのエレベーター内で、ある逞しい体型をした男の子が、敵に感染してしまっていることが発覚した。敵からの攻撃を受けるか、或いは敵に触れるかしてしまうと、その人も、敵に変異してしまうらしい。急いで然るべき手当をしなければならない。
狭いエレベーター内で、私たちは、同じ仲間であるにもかかわらず、彼に対して、敵とも味方とも付かない注視を向け、緊迫していた。
そのとき、私は、そのエレベーターの中で、一種の只ならぬ感情を抱いたことを、強く認識した。
虚無感。
それはひどい虚無感だった。
伝わるだろうか――何故戦うのかということから始まり、何故私達は、敵に侵された彼を、こんな気持ちで注視しなければならないのか――
そんな、虚無に満ちたエレベーターの中で、私はまた別のひとりの男の子と目が合った。彼は私のそんな感情を知ってか知らずか、私に、慈悲深く、笑いかけた。私もみんなも、只ならぬ疲労と緊張を覚えていた、そんな中にあっても彼は、ひとり優しく、憐れみの光を湛えて、そっと抱きしめるように、私を見詰めた。
あのとき見た彼の顔、あの深い眼差しを、私は未だに忘れずにいる。
あれは本当に「ただの夢」だったのだろうかと疑うほどに。
目が醒めて、ベッドの中で、私は泣いていた。
悲しくて泣いていたというよりも、たった数分の夢の最後で知った、一種の愛の在り方に、心底動揺して泣いたという感じだった。
あの夢の中で、兵士達は、何かを強く信じていた。
相手にもそれを求めたがゆえに、対立し、戦うことをさえ実行に移した。
でも、そこに、幸福感はなかった。
「何かを信じる」だけの世界に、「既にそれを心得ている」という世界を、加えていきたいと思った。
あなたと私は違っているという事実があるだけであって、それは嘆くことでも喜ぶことでもなく、「ただの、そういう、こと」、と言ってしまうと味気無いかもしれないが、それこそが、異常なまでに有り難いこと、有ることが難しいことなのだということを、心得ていたいと思った。
夢から醒めた今の私は、そういうことを学び始めている。
あの夢の中で、私に慈悲深く笑いかけていた彼は、そのことをもう知っていたのかもしれない。
そのことを私に、夢の最後で教えてくれたのかもしれない。
戦わなくてもよくなった世界に、夢で逢った彼らをいつか連れて行ってあげたい。
あの夢は、夢ではなく、私の別の過去の人生で経験した出来事だったのかもしれない。
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あとがき
眠った時に見る夢には二種類あると感じます。
単なる脳の活動に伴う自己再現的なものと
何処か別の世界で実際に活動しているものと。
「別の世界」というのは
ひとつしかないわけではなく
いくつもあると私は認識しています。
パラレルワールドだったり
過去世・未来世だったり
黄泉の国だったり
別の星・別の宇宙だったり。
私の見る夢は
四次元的な時間区域が
薄い(認識しづらい)ことが多いため
目が醒めると同時に
夢で見聞した異様な情報量に
驚かされますが
時間のない(薄い)夢の世界からすれば
時間に伴う制限の多いこの世の生活は
なんともまどろっこしいものに
見えているのかもしれません。
「実際に生きている」と
思っているこの瞬間も
実は誰かの
詰まらぬ短い夢だったり
するのかもしれません。
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