妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません！　第３話

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第３話　「妹が怖くておちおちAVも見れないなんて！」

　型枠工の父さんは大体朝早くから出勤して夕方くらいに帰宅することが多く、俺と顔を合わせるのは学校が終わってからになる。
　生活サイクルが根本的に違うので、親父とあまり会話することないのだが、今日に限って珍しくソファーでテレビを見ている俺の隣にすすっと近づいて来た。

「なぁ、忍。お前、明日麻衣をどっかに連れ出せねぇか？」

「は？何で……」

　母さんは調理師仲間達と明日から１泊２日の旅行に行くらしい。そうなると、野郎２人のご飯を麻衣が作ることになるわけだが、その麻衣を追い出してしまったらその日の夕飯が無いんじゃないか？と心配になる。

　まあ、あの母さんのことだから、俺達がくいっぱぐれないように完璧に用意してくれてるに決まっているが、親父の企みはそうじゃない、と目が言っている。ご丁寧に指まで振ってニヤニヤして。

「何？」

「ま～ま〜とりあえず、耳貸せ」



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　翌日──
　俺は早起きした。もしかしなくても、人生で初めてかもしれない。
　それもそのはず。昨日親父に囁かれた内容が衝撃的過ぎて興奮して全然眠れなかったのだ。
　早起きではない。ただの貫徹だ。何度も何度も寝返りを打ち、明日が楽しみだな～と思っていたらいつの間にか朝になっていたらしい。

　それなのに、隣の布団で眠っていたはずの麻衣が密かに学校に行く準備を着々と整えていたことには全く気が付かなかった。もしやあいつは忍者なのか？
　俺が大あくびをしながら枕から頭を上げている姿を見て、麻衣は小脇に抱えていたジャージの入ったバックをぼとりと床に落とした。

「あれ、兄貴が早起きしてる」

「おはよぉ麻衣。朝練ガンバな」

　俺が早起きしている姿を揶揄するわけでもなく、何故か麻衣は何だか気恥ずかしそうに顔を背けてキッチンの方をちょんと指さした。

「う、うん……パン、焼いたの置いてるから食べて。あとコーヒーも」

「いつもさんきゅ～。あと麻衣……」

「何……？」

　ちょっぴりちら見してくる麻衣の顔がほんのり赤くなっていて可愛い。いつもこうやってしおらしくしてくれていたら、俺も弘樹みたいに『自慢の可愛い麻衣ですっ！』って言ってやるのに……。
　まぁ、いいや。今日言いたいのはそこじゃない。

「今日って、部活遅い？」

「……うん。中体連近いから、先生と試合やってくる」

「そっか。ゆっくり頑張って来いよ？」

　にかっと歯を見せて笑うと、麻衣はうるさいっと言いながらバックを持って玄関の方まで行ってしまった。いつもより学校に行くのも２０分くらい早いのに、そんなに俺と一緒に居るの恥ずかしいのかな。

「さぁ～って、今日麻衣は遅いっと……親父にLINEしとこ」

　携帯を取りだし、俺はバッチリと短いメッセージを入力した。

　俺おたふくかぜになり、早３日が経過。耳の下のぼっこりした腫れは大分引けて来たが、まだ少しだけ微熱が残っている。
　しかも、この腫れが消えるまでは学校に行けないらしいので自宅療養となっている。
　勿論、抗体の無い人にはうつるので、軽い自宅内軟禁状態。正直、有り余った暇を持て余している。
　こういう時こそ勉強すりゃいいんだろうけど、俺は全くガリ勉タイプじゃないし、どっちかと言えば、身体を動かしていたい。

　中学までは麻衣と同じく羽球部（バドミントン部）だったが、ちょっと色々と諸事情があって引退した。

「ただいま～」

　夕方、やけに機嫌のいい父さんがいそいそと帰って来た。俺は待ってましたとばかりにソファーから慌てて身体を起こす。

「父さんっ！　待ってたよ。早く秘蔵ビデオ出して、出してっ！」

「へへっ……んなに焦るなっつの。寝室の布団のっかってるとこの上、ちょい押してみな？」

「え？　こう……ってうわっ！」

　言われる通りに押し入れの天井を押すとぼこっと抑え蓋が外れた。それを少しずらしてみると、黄色いプラスチックの箱に入ったビデオが山のように入っている。
　重そうなそれを俺は両手でゆっくりと引き下ろすと、大量に入っているいかがわしいジャケット写真に目が釘付けになった。
　思わず生唾を呑み込んでしまう。──１８禁って、結構過激だ。

「ははっ。知らなかっただろう。ボロアパートだから、隠し部屋なんてあるんだよそこ。まあ、ネズミは湧くけど、ビデオは食われてないから大丈夫だ」

　親父がひょいひょいとビデオをセレクトしながら俺にこれお勧めと渡してくれる。
　法律的に１８禁？　んなもん関係ない。だって俺は１７歳。あとちょっとしたら１８歳。ってことは別にオッケーでしょ？
　つぅか、周りみんな彼女作ってイチャイチャしてるってのに、俺と弘樹だけいつまでもDT（ドーテー）なんて嫌じゃん。

「マジ嬉しい。親父さんきゅ～！！」

「忍、念の為確認するが、この時間に麻衣は帰ってこないんだろうな？」

　やたらしつこく聞いてきた親父に、俺は首振り人形のようにこくこく頷きながら秘蔵のビデオを漁る。
　親父が秘蔵のものを持っているのは知っていたが、まさか天井にあったとは。そりゃあ部屋の中、どこを探しても見つからないわけだ。

　未だに彼女無しの俺と、ダチの弘樹はお互い妹に問題があって童貞のままだ。
　別にそれが恥ずかしいとか、今すぐどうにかしたいってことは無いのだが、俺だって性欲はあるし、友達の話を聞いたら女ってやっぱりいいのかな？とか色々妄想してしまう。

　妄想ばかりしていると生理現象で朝に大変なことになってしまうので、実際にビデオを見て、どんなもんなのか勉強したいと父さんに以前相談したのだ。
　今日は母さんもいない。麻衣は部活で遅い。──となったら、俺と父さんはハッピーデーじゃん。
　男だけの時間ってとても大事だと思う。俺は待ちきれずにひとつのビデオをいそいそデッキに突っ込んだ。

「ああ、忍。俺さあ、折角今かーちゃんいないから、ちょっと回してくる」

「うん。あまり無駄遣いすんなよ？　小遣い無くなるじゃん」

「へへっ。北〇の拳で新しい機種出たんだよ。ちょい行って来らぁ」

　スロッターの父さんはたまに暇を見つけると煙草を買うとか言ってパチンコ店に足を向ける。
　あんなにうるさい場所のどこが楽しいのか、大人の趣味はいまいち分からない。まあ、一緒にアダルトビデオを見ることにならなくて良かったわけだが。
　まさか、気を利かせて出てくれたのかな？　本当、俺のDT卒業に向けての教材をありがとう。

「しっかし……他人とのコレ見て燃えんのかなあ……」

　俺はおやつ棚に入っていたポッキーをかじりながら大人の女性の喘ぎ声ってやつを聞いて、物凄く冷めた目でそれを見つめていた。
　実際に触ってるわけじゃないから燃えないんだよ。やっぱお肉は触って感触を確かめてこそ！　だと思うんだよな～。
　でも触るっつーても俺が弘樹の妹に手を出すわけにはいかないし、麻衣に手なんて出したら間違いなく殺される。
　クラスの女子だってそこそこみんな彼氏持ちだし、母さんのぷよぷよの腹とか胸触っても……なぁ。

「はぁ～、なんか空し」

　ドサドサドサっ
　なんか、今背後でものすごい音がした。父さんではない。いや、この冷たい気配はやばい。

「は、ぁ！？」

「兄貴……何、みてんの……？」

　俺は親父がパチンコに行った後、玄関の鍵はかけたものの、チェーンをかけるのをすっかり忘れていた。
　相変わらず忍者のように何の気配もなく帰宅した麻衣が俺の方をケダモノでも見つめるような冷たい目で見つめてくる。

　や、やばい……。

　しかも、俺自身は結局AVに興味が無かったのだが、生本番。現在、お互い絶頂の場面だ。
　ただ、興味が無いと言っても身体は正直なようで、脳みそでは微妙と思っても下半身は熱く反応を示していた。

「ち、違うのよ？　麻衣ちゃん、これは、ですね……」

「…………はぁ……」

　わ～！　ヤバいよヤバいよ！　これは完全にドン引きされた！！！　マジでやばい。やばいよ、このままだと麻衣に捨てられる。
　慌てて電源を切り、ソファーから身体を起こす。既に呆れた様子の麻衣はキッチンに足を向けていた。

「あのね、麻衣。俺はさぁ……」

　そっと麻衣の肩を掴んだ瞬間、振り返った麻衣の手にはじゃがいもがしっかり握られていた。
　そしてそれを思い切り俺にぶつけてくる。

「この……っケダモノっ！！」
「はぅあ！？」

　見事超至近距離から繰り出されたじゃがいもボールは、俺の股間に直撃した。ころころフローリングを転がる可哀想なじゃがいもと、不意打ちの強烈な攻撃に身悶える俺。

「ま、麻衣……」
「折角じゃがいもでグラタン作ろうと思ってたのに……クソ兄貴っ！」

　麻衣はまだ本調子ではない俺の為に練習を切り上げて喉に優しいあったかいものを作ろうとしてくれていたらしい。
　その気持ちを踏みにじった俺が確かに悪い。悪いんだけど、頼むから急所突きはやめて欲しい。
　このままだと、俺は子供が作れない身体になるんじゃないかと本気で心配になる。

　俺はその夜、股間が腫れて痛み、また眠れない夜を過ごした。早くおたふくかぜなんて治して学校に行きたい……。

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