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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第17話
第17話 「玉ねぎって目に染みるよね」
翌日退院と言われていたのだが、医者から結構大きい手術になったので少し経過を見たいと言われ、麻衣は結局1週間入院した。
俺にはよく解らないけど、医者の説明によると、骨と関節を安定させるためにピンニングってのをしてるらしい。
写真も見せてもらったが、一部の骨が粉砕骨折状態になっており、手術の時に人工骨っていうやつも使用したとか何とか。
ってか、室内だってのにそれだけ柿崎ちゃんのスマッシュの破壊力が絶大だってことが分かり、俺は別の意味で背筋が凍りついた。
あの子を敵に回すと怖い。ただそれだけが俺の脳裏にインプットされる。
久しぶりの我が家に戻った麻衣はほっとした様子で部屋の中を歩いていた。あまり掃除してなかったから、綺麗好きの麻衣としては気になるのだろう。
「……兄貴、お父さんは今日遅いの?」
「確か、部下と一緒に新しい仕事の打ち合わせに行ってるから、今日は日付変わるまで帰ってこねーぞ?」
「そっか……」
タイミングの悪いことに、昨日から母さんの実家の親が具合が悪いとかで、母さんは俺達を置いて山梨の方に行っている。
まさか退院と重なるとは思っていなかったようだが、しっかりものの麻衣が自分で手続きをしていた。別に右手は動くし、自分の事は自分で出来ると母さんを説き伏せたのだ。
祖母だけではなく、芋づる式に祖父も倒れてしまったそうで、2週間くらい山梨で状態みるから家の事よろしくと連絡があった。流石に祖父母の対応は母さんしか出来ない。
それに、帰ってくるのが遅いとは言え、一応父さんも居るから夕飯が無いとかお金が無いとかで餓死する心配はない。
ただ、男2人、怪我人1人で暮らす上の問題は料理だ。
掃除や洗濯くらいなら俺でも出来るが、料理はそうもいかない。麻衣は利き手は右だが、包丁と箸は左なのだ。今回の骨折が我が家の台所事情をさらに苦しめた。
俺はそうだ! と手を叩き、いそいそとキッチンの引き出しを漁り、母さんが使っている白いエプロンをつけた。
「どうだ、麻衣! 今日は俺が料理作るぞ!」
「…………」
何という冷たい視線!
寝言は寝て言え、出来る訳がない。って完全にその目が言っている。
そ、そりゃあ俺が作ったことのある料理なんて──ないか。
調理実習でやった時は女子が殆どやってくれたもんな。でも今の世の中、男子も料理が出来た方がステータス高いだろ?
今がその時だ。多分そうに違いないっ……!
まぁ、俺が出来るスキルなんてレンチンくらいだが、これもまあいいスキルだと思う。
「よし、麻衣先生っ。まずは何をつくれば良いでしょうか」
「兄貴が、料理なんてできるの?」
「おう! 具材切るくらいなら出来るぞ」
とりあえず冷蔵庫の中身を確認する事から始める。大抵母さんが色々なものを買い置きしてくれているし、野菜と肉は冷凍庫に小分けにされて揃っている。
これにしようと決めたのはカレーだ。初心者が一番安心して作れる料理。
カレーって便利だ。3日は食えるし、記載されている通りに野菜切って煮込んで、ついでに気がむいたら隠し味的な。
箱のルゥも美味しいし、これを最初に世の中に作ってくれた人にまず感謝したい。
「えぇっと……じゃがいもは大きく。ニンジンはこんなもんか? 玉ねぎ……いってぇ」
「あ、兄貴、そのやり方だと目に染みるよ」
玉ねぎを切っていたら思い切り鼻につーんと来て涙が溢れてきた。
よくありきたりな光景だ。何だっけなぁこれ。玉ねぎって、どうしてこんなに涙が出るんだろ。
「あぁ、危ないよ兄貴……お肉は、それひき肉だから切らなくてもいいよ……」
包丁慣れしていない俺の姿は相当不安だったのだろう。しかも玉ねぎにやられて号泣している姿はかなり滑稽だ。
麻衣も手を出したいのだが、ギプス固定をしているので口しか出せない。
「もう…いいよ……玉ねぎ、私がやる」
「まいぢゃんむ”りだよ……やっぱいてえ~染みる」
「じゃあ、兄貴の手貸して」
仕方ないなぁ、と呟き、背後から抱きしめるような形で立つと、包丁を握っている俺の右手の上に自分の手を添えてきた。
「そのまま、包丁下ろして」
「お、おぅ」
麻衣の手が温かい。後ろにかなり密着してるし、首に麻衣のサラサラした髪がかかる。
あと、包丁が動く度に背伸びしている麻衣の身体もちょっと揺れて背中にあの、女性の象徴が当たるんですけど。
軽く身じろぐと異変を察した麻衣の鋭いツッコミが入った。
「……兄貴、変なこと考えてないよね?」
「へっ? い、いや。そんなことないですよ麻衣先生。俺は今、玉ねぎって辛いなぁと……」
「嘘ばっかり……」
麻衣はわざと胸を背中に押し付けているようだった。時折こうやって俺の理性を試す挑発的態度を取るくせに、こちらがそれに乗ると絶対に拒否する。
蛇の生殺しってこんな感じか。
あと1個! あと1個玉ねぎをカットしたら俺の戦いは終わる。そうしたらさっさと風呂に入って……!
最強の玉ねぎを切り安堵の息をつくと、麻衣が少しだけ残念そうな顔をしていた。
ルゥを入れてカレーが出来るまで待っている間も、手持無沙汰なのかキッチンの周りをうろうろしている。
そんな麻衣にちょっかいをかけたくなり、背後からきゅっと抱きついてみた。
「ダメ兄貴もやれば出来るでしょ?」
「……カレーなんて、今時小学生でも作れるよ」
初めての料理なのに麻衣様は何一つ褒めてくれない。わざとしょんぼりしていると俺の背後に再び抱き着いてきた。
今日の麻衣は何処となく積極的な気がする。
「……兄貴、栞さんのこと、好き?」
「へ? 何で……」
「別に……ちょっと気になるだけ」
気になる? どうして麻衣が栞のことを気にするんだろう……俺は正直に答えた。
「好きだよ、多分。まだそんなにいっぱいデートしてないからなぁ。誰かさん達が先回りして俺のプラン崩すから」
麻衣は俯いたままだった。俺に女の影が過ぎる事が気に入らないらしい。昔のように泣かなくはなったが、誰であろうと俺に寄る女が出没すると不機嫌になる。
「麻衣はさあ、俺のこと好き?」
「……兄貴のことは、嫌いじゃないもん」
「じゃあ、好きってこと?」
「う、うるさい……!」
お、デレた。
耳まで真っ赤になった麻衣はそれ以上栞と俺の関係について追及してくることもなく、勝手にカレーの火番を始める。
そんな麻衣の背中に俺はきちんと正直な自分の想いを告げた。
「俺は、麻衣のことが好きだよ?」
「……え?」
麻衣がかなり驚いた顔をしてこちらを振り向く。その眸は次の言葉を求めて僅かに揺れていた。
「だって可愛い妹だもんな。俺のこと好きだし?」
「う、うるさいよ兄貴は……別に、す、好きじゃない……さっさとお風呂行ってきたら?」
いつもそうやって明確な答えをはぐらかすが、栞と仲良くしている時に見せる不貞腐れや嫉妬は好意があるからだろう。
麻衣は可愛い。そのうちに、俺から離れていい男と付き合うに決まっている。
以前、「雪が俺に寄ってくるのは今だけだよ」と言った弘樹の考えが少しだけ理解出来る。
どうせこの執着も嫉妬も長くは続かない。それなら、今だけは俺もシスコンでもいいや。
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