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妹がツンデレ過ぎてまともな恋愛が出来ません! 第16話

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第16話 「ふーふーしてやるから、ちゃんと食えよ」

 翌日、母さんが仕事休みを取り麻衣は入院した。元々1泊2日というプランの手術であることと、症例件数がそこそこ多い事から早めの手術に踏み切ったようだ。
 それに長く放置していると、勝手に骨同士がくっついてしまうらしい。だったら早い方が治りも早いし、羽球をやりたい麻衣にとって他の選択肢は無かった。

 全身麻酔の手術に不安を覚えていた麻衣だが、手術自体は2時間ちょっとで終了したらしい。
 俺は学校が終わってからすぐに病院へ向かった。すると既に一般病室に移されていた麻衣が足に変な器械をつけられたまま穏やかな寝息を立てていた。
 朝から仕事を休んでいた母さんはいつもの老人ホームに食事を作りに行かないとダメなので、ここで俺とチェンジになる。幸い手術は無事に成功して、明日の午前中には退院出来るらしい。
 麻衣の手を握っていると、ガヤガヤと仲間達が見舞いに来た。これが個室だから良かったものの、多分大部屋だったら煙たがられるだろう。
 先頭の雄介が片手をあげて「これ見舞いな」と大きなカゴに入ったりんごの山をくれた。

「心配すんなって忍。手の骨折だろう?」

「そう言っても、麻衣は女の子なんだ」

 雄介の無神経な一言にむっとするが、来る前からずっと泣いている柿崎ちゃんのフォローもしなくてはならない。
 彼女は自分の所為で麻衣が怪我をして、挙句手術になったと思い込んでいる。
 そうじゃないんだ。
 あの時、俺と栞が隣のコートで羽球なんてやってなければこんなことにならなかったはずだ。

「うぅぅぅ……麻衣ちゃん〜〜〜」

「……ちょっと、柿崎先輩、重いんですけど……」

 まだぼんやりしているようだが、意識が戻った麻衣の身体の上に泣きながらダイブしている柿崎ちゃんを俺はあっさり引きはがした。
 麻衣は天井を見上げた後、手術が終わり部屋に戻ってきたことにほっとしているようだった。
そして皆んなの顔を確認して小さく頭を下げる。こんな状態だってのに律儀な子だ。
 布団の中で俺と手を握る麻衣の指がきゅっと強くなった。まだ治るかどうか不安なのだろう……女の子だもんな。

「──お前ら、みんなありがとな。麻衣は明日固定して退院出来るらしいから、1週間くらい休んでまた学校行くんじゃねえかな」

「麻衣ちゃん、お大事に。俺も昔柔道で同じ骨折やったけど、焦らず少しずつ動かせるから大丈夫だからな?」

 俺には手の骨折だろ、なんて酷いことを言っていた割に、雄介は最後にまともなことを言いどさくさ紛れなのか麻衣の頭をしっかり撫でて帰っていった。ついでにまだ泣いて落ち着かない柿崎ちゃんもきちんと連れ帰ってくれた。やっぱりあいつは頼りになる。

 そして弘樹達は俺が雄介らを見送って麻衣の病室に戻るタイミングで到着したようだ。

「麻衣ちゃんは?」

「今起きてるから喋れるよ。俺、明日の手続きとか、学校休んでもいいか母さんに電話してくる」

 俺が退席した席に交代で雪ちゃんがちょこんと麻衣の横に座る。

「マイちゃん、お疲れ様。えらいえらい」

「雪ちゃん……それはちょっと恥ずかしいな」

 麻衣の頭を微笑みながらなでなでする雪ちゃんは本当に可愛い。
 そのまま雪ちゃんを見つめていると、じろりと鋭い視線で麻衣に睨み付けられた。
 大体、何で俺が睨まれないといけないんだよと思うが、いつもの事だと諦めて母さんに電話をかける。



******************************



 弘樹達が帰った後も俺はまだ居残りしていた。別に何か話す事があった訳ではないが、父さんは昨日からまた出張、母さんは帰りが遅い。あの家で1人ご飯を食べるのが嫌だった気もある。
 夕食の時間になり、看護師さんが麻衣のところに食事を持ってきてくれた。まだ胃に優しいもの、という事でお年寄り向きの柔らかいメニューが提供されている。

「お粥だぞ、こりゃいよいよ麻衣も病人だな」

 軽く冗談で言ったつもりなのに、元気な右手で肘鉄をくらわされた。もう本調子じゃないかと疑いたくなるくらいの破壊力だ。

「いってえ……ほら、麻衣。食べれるか?」

「食べたくない……」

 何故か顔を背ける麻衣。確かに食欲はないのかも知れないが、実際は違う。
 麻衣は右利きなのだが、食事と筆記だけは左手で食べる癖がまだ治っていない。今回の骨折は左であり、勉強を始めとする日常生活に支障をきたす。
 俺はスプーンを手に取るとお粥を乗せて麻衣の口元へと運んだ。

「ほら、麻衣。ちょっとでも食えって。なんだっけ、麻酔が残ってたら吐き気が~とか言ってたじゃん」

「た、食べたくないから……いいよ、ほっといて」

 拒否されると流石の俺もどうしていいか分からない。じゃあ、と帰ろうとすると、麻衣は物凄く寂しそうな顔で俺を見つめる。
 まるで捨てられた子猫のように寂しそうな眸を見ると、俺は帰ることなんて出来なかった。
 夜勤の看護師さんから痛み止めの薬と、何だか飲み薬を処方されている。麻衣が少しでも口に入れてくれないと薬も飲めない。

「お粥が嫌なのか? それとも、俺にこうやって構われることが嫌なのか?」

「どっちも……嫌じゃない」

「難しいなぁ、麻衣は。ほれ、ふーふーしてやるから、ちゃんと食えよ」

 もう一度木のスプーンにお粥を掬い、何度か冷ましてから麻衣の口元に持っていくと、麻衣はちょっとだけ上目遣いになりながら口を小さく開けた。

 ぱくっ。

 頬を赤く染めて俺から視線を逸らしながらお粥を一生懸命はふはふする麻衣が無性に可愛く見えた。
 最初っから「俺に手伝われるのが恥ずかしい」とか、「別に一人で食べれるもん」的な発言があっても良かったのに。

 麻衣は俺に対して素直な一面を見せない。まるで空気で全て悟れと言わんばかりだ。
 慣れるとそんな麻衣も可愛いと思うんだけど──なんて。この俺の考え方は多分、弘樹と変わらない。やっぱりシスコンなのかも知れないと今更痛感した。

 ツンデレだったり、ヤンヤン(デレはない)の麻衣が可愛く見えてしまったら、彼女なんて作れない気がする。
 い、いかん、いかんぞそれは! 栞と、もうちょ〜っと進んだ関係になって、俺は誰よりも先にDT卒業するんだっ!!
 お粥のスプーンを握りしめながら俺は悶々と答えの出ない葛藤を続けていた。
 そんな俺の苦しみなど、無防備にお粥を可愛い顔でモグモグしているツンデレは知る由もない。

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