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case-3- 何故嫌われたのか理解できない


総文字2463




 私の看護師像だけを読まれるのは大変危険なので、私が患者さんに心底嫌われていた話も書こうと思う。

 定期的に入院している患者さんの人数や間取り?の問題で、時折女性部屋と男性部屋をそっくり入れ替える時があった。
 今考えると、部屋替えをする事は長く抗がん剤治療をしている人が次の部屋で見る景色が違うので、また新たな気持ちになるようやっていたのかもしれない。知らんけど。

(当時は○○号と○○号チェンジね!というお達しが唐突にきて、手の空いてるスタッフ総出で部屋替えをする)

 そこに入院していたカッパ頭のおじさん(△さんと仮名しておく)はいつも不機嫌だった。
 環境整備で部屋に入ると「そこは触るな!」「お前はあっちいけ!」と檄を飛ばす。

 てっきり、常に機嫌の悪いおじさんなのかと思っていたが、ある日、別のおばちゃんスタッフと楽しそうに談笑されていたのを見た。おばちゃんスタッフに確認すると「えー△さん普通に喋るよ? なんかあんたに緊張してたんじゃないの?」と笑われた。

 ところが、部屋持ちで私が部屋に入ると途端に顔が不機嫌になり、布団をかぶる。一応、血圧測定や点滴はしないといけないので、普通に会話しても一切返答がない。

 しまいには、夜勤で採血に行くと「お前にくれてやる血なんてない!」と突然怒り始めてとらせてもくれない。仕方がないので、そういう時は「△さんだけ採血お願いします」と先輩に頼むことが増えた。

 △さんは初回入院時に確かに私がアナムネーゼ(問診)で携わったがその時は普通に会話していた。小細胞がんで進行が早かったので、抗がん剤のクールも頻回。

 事実小細胞がんは進行は早いものの薬は効果出る。けどやはり抗がん剤だ、副作用は酷く、脱毛と味覚が狂い、家族に八つ当たりが増えて家族の面会が減った。

 後半の再入院の時にいつも来ていた奥様がぱったりと来なくなった。病気の説明の度に電話をすると「ああ、わかりました……」行きたくないな、という思いが電話越しでも伝わってくる。

 IC(インフォームド・コンセント)の時は医者の文字が汚過ぎて読めないので、大体私が即打ちでパソコンに記録していたが、もしかしたらそれも気に入らなかったのかもしれない。

 あれこれ何が原因で嫌われているのか考えたが、何も分からなかった。
 別にこの人だけ接する態度を変えたこともなく、私は基本誰に対しても情を入れることはない。
 弱り辛い部分が治療で吐露された時は全力で助けるが、中途半端な優しさは逆にだめだと思っているので会話もほぼ変わらない。

 もしかしたら、身長165の図体がデカくてメガネブスだから気に入らなかったのか?

 確かに、当時の呼吸器内科は私とベテランの主任以外ほぼ細身で綺麗か可愛いの人が揃っていた。同期は私と同じぽっちゃりだが、身長は141センチとチビちゃんでけらけら笑ってギャルっぽい喋りで実に愛くるしい。まさに若さ全面的にアピールだ。

患者さんも
「あの子新人よね?若いから血を取られたくないわ…(失敗されると嫌だし)あんたはベテランだから安心よ」と言う。
(すまん、彼女と私は同期なんだ。むしろ、彼女が大学卒業しているから私よりもスキルも頭も良いんだよ)



 私に足りなかったのは、やっぱり若さか……
(いやこの時23歳だったけど?)



 原因がさっぱり分からないまま、今度はモノ取られ妄想の被害にあった。

「あいつが俺のところにこそこそ来て色々盗んでいく!」
と同じ部屋の患者さんに吹聴し始めた。
 そもそも、私はこの人に嫌われているので基本日中の部屋持ちはしない。後輩のフォローの際に入るくらいだった。

 ただ、夜勤は避けられないので月8回は最低携わるが、別に血圧測って体調聞いて去るだけだ。
 薬も自己管理なので服薬チェックと、補充の時も携わるが「お前からはもらいたくない」と拒否られるのでわざわざ同じ薬を別のスタッフに依頼した。

 これほど悔しい事はない。

 別に相手は人間だから嫌われても当たり前。
 特に、私みたいなものは外見も内面も“生と死の漂う場所“では絶対に好かれるタイプではないので、こればかりは仕方がないと思っている。

 可愛い、は三文以上の徳をするが、ブスは生きるだけで損をする。虚しい現実を突きつけられてきた20代のあの日。

 自分なりに考え、仕事でやれるだけの事をやってきたのに、この人は何が気に入らないのか、何故私にだけ風あたりがきつかったのか、理解出来なかったのが悔しい。

 師長に相談し、私が△さんにかなり嫌われていること、仕事に支障が出ること全て報告した。この後、当時一時的にヘルプで来ていた女医が△さんの担当に変わったのだが、この女医も△さんに相当嫌われていた。

 私とこの女医の唯一の共通点、それは“厳しい“ことだ。

 女医は飯が食えない人に対して「あー、でも治療だから食べないとだめだよー、吐き気止め出しておくね」というレベル。
 報告が無意味だと、「そういう報告いらないからw」と普通に言ってくる。
(私もこの女医に報告する日は胃が痛かった)

 飯が食えない、データ的にも差し障りがある。そうなると「じゃ、体力落ちるから薬減らそうか?」と本人と相談してちゃっちゃと決めていく。果たして、私の△さんへの関わりはどうだっただろう。

🤔

🤔

…………。

わからん。

 本当に申し訳ないんだけど、原因がわかんない。確かに、抗がん剤の看護研究(1回目)をやった時に、別のスタッフがアンケートを取るためにこの人に話しかけている。
 だけど抗がん剤の看護研究は私が発案したわけではなく研究は4人連盟で記載。そして私はそもそも嫌われているから、この人にアンケートを依頼していない。

 言われた言葉を振り返ると「あっちにいけ」「くるな」「お前にくれてやる血はない」と言われたが、確か、『嫌い』とは言われなかった。または、いちいちそんな言葉を吐くのも嫌なくらい嫌いだったのかもしれないが。

 あの時に逃げずにもう少し関わっていたら、彼の想いが少しでも汲み取れたのかもしれない。

 ーーでも、23歳の。まして仕事に対して日々毎日奔走している時期に、人の心のさらに深掘りをするスキルなんて持ち合わせていなかった。

 結局、△さんは私のことが嫌いだったのか。

 私以外の先輩が彼を看取ったので、もう答えを知る術はないが、何が彼を頑なにあの態度にさせたのかは今もなお非常に気になっている。


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