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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-43話 交錯する思い6-人と屏風は直には立たず-

前話】 【最初から】 【目次

つばめヶ丘がおか神社の夏祭りに来ていた永遠とわみおと合流し、分社ぶんしゃにいる怨霊おんりょうの浄化に向かった。澪の能力によって怨霊を浄化したが、怨霊発生時に巻き込まれた人間には記憶がないことを失念した永遠は、蒼空そらに「大丈夫か?!」と声をかけてしまった。
「・・・あれ?永遠くん・・・あの熊は・・・?」
「お前・・・何があったか覚えているのか・・・?」
「え?覚えてるよ・・・?」
永遠の問いに、蒼空は不思議そうな顔をしている。
「あのお化けを見て覚えてる人は少ないんだ。だからみんなには内緒だぞ。母ちゃんにもな」
「ママにも?」
「母ちゃんは怖い思いしたんだから、言わないでおいた方が良いって」
「そっか」
蒼空は妙に納得した様子でうなずいた。
「永遠くんとはお話しても良いの?」
「あぁ、俺は良いよ。あいつらをやっつけるのが仕事だから」
「すごいね!永遠くんが倒したの?!」
「いや、俺じゃなくて澪くん」
「澪くんすごい!僕も澪くんみたいになりたい!」
「あ、俺じゃないのね・・・」
目を輝かせながら澪を見る蒼空に、永遠は乾いた笑いを出た。
「ねぇ、また永遠くんと澪くんと会いたいから連絡先教えて!」と言うと、蒼空はキッズ携帯を取り出した。
「蒼空、その歳でもう携帯持ってるのか・・・最近の小学生は早ぇな」
「うん!」と蒼空は嬉しそうに連絡先を登録した。
「母ちゃんは念のため病院に行くと思うからついて行ってやってくれ」
「分かった!」
「ちょっとここで待ってろよ」と言って永遠は立ち上がり、入江いりえの元に戻った。
「怨霊に襲われた親子の結界を解除しました。子供の方は怨霊の記憶があるみたいっす。一応話さないようにくぎは指しておきました。母親は念のため病院に行った方が良いと思うんすけど・・・」
「へえ、記憶持ってるのは貴重だねぇ。何歳くらいだっけ?」
「たぶん小学校低学年くらいっす」
「それだと巻き込むのは危険だし、今後フォローした方が良さそうだね。わかった。芝山さんにも共有しておくね。お母さんの方は軽傷だから通常の病院に回してもらおうか。たぶん美鶴みつるさんは澪くんの治療で手一杯だろうし」
入江はため息を吐いた後、無線機を取り出して通信を始めた。
「本部長、入江です。規制線の解除が完了しました。警察に現場を任せたら引き上げます。被害に遭った親子は母親の意識が戻らないので、通常の病院を手配します。子供の方は怨霊の記憶を留めており、今後もフォローが必要そうです。あと角端は病院に連れて行った方が良いので美鶴さんに連絡しておきます――はい。よろしくお願いします」
入江は一通り報告を終えると、永遠の方に向き直った。
「さて、俺はあの親子の引き渡しのために残るね。悪いんだけど永遠くん、澪くんを東雲しののめ医院にタクシーで連れて行ってくれないかな」
「俺は1人でも・・・」と澪が口を挟もうとしたが、「だーめ。自分が一番分かってるでしょ?」という入江の圧力が強く、澪は反論できなくなってしまった。
「入江さん、後は俺の方で対応しますね」
「駐車場を出た所にタクシーを待たせておくようにするからさ」
「はい、分かりました」
入江を見送ると永遠は澪に肩を貸した。
「橘さんすみません。ご迷惑を・・・」
「それは良いっすけど、澪さん本当に大丈夫ですか?」
「俺の術、藍眼あいがんは相手に幻を見せる瞳術どうじゅつです。系統としては聳弧しょうこ樹海じゅかいと近い。でも、藍眼は生気せいき錬度れんどを高めれば、幻を本物にすることができます」
「だから怨霊に幻を見せるだけじゃなくて、本当につぶしたってことっすか?」
「――そういうことになりますね」
「澪さんって、だいぶ無茶するんすね・・・」
永遠が唖然あぜんとすると、澪は何かを思い出したのか「索冥さくめいほどではないですよ」と悲しそうに笑った。
駐車場へ向かう道を歩いていると、周りをキョロキョロと見渡しながら吉川葵よしかわ あおいが歩いてきた。永遠たちに気づいたようで「あれ、たちばなくん!」と言いつつ駆け寄ってきた。
「補習振りだね!あれ、そちらの方は・・・」
「あぁ、澪さんっていって、アルバイト先の先輩なんだ。ちょっと気分悪くなっちゃって送るところ。澪さん、こっちは俺のクラスメイトの吉川っす」
「はじめまして」と澪は真っ青な顔で挨拶あいさつした。
「え!そんな時にすみません!大丈夫ですか?!」
「大丈夫ですよ」と澪は返事した。
「今日は一之瀬いちのせくんと茅野かやのさんと一緒じゃないんだね!なんか新鮮!」
「眞白と柊も一緒に来たけど、2人は先に帰ったんだ」
「あ!そういうことか!」と言い、葵はポンと手をたたいた。」
「吉川こそ珍しくないか?今日は大石と平沢と一緒じゃねぇの?」
「華奈は他に予定があったみたいで、美沙は地方の中学生の大会の視察で来てないの。私は中学の友達と来てたんだけど、急にお祭り中止になってはぐれちゃって・・・」
いわく、怨霊の出現の連絡があった直後に中止のアナウンスが神社内に流れて、急ぎ解散するように促されたらしい。
(柊が警察と連携して運営委員会に掛け合ったんだな・・・)
「それにしても、茅野さん良かったね」と葵がしみじみと言った。
「どういう意味だよ?」
「ほら、茅野さんって中学入学直前に色々あって大変だったって聞いてたし・・・」
「柊のやつ、中学の入学直前になんかあったっけ・・・?」
永遠は事情が飲み込めず首をかしげていると、葵が驚いた顔をした。
「え?!嘘でしょ!?私ですら知ってるのに、橘くんが知らないなんてことある?!」
「だから何のことだよ?」
永遠は思わず苛立いらだちの声を上げた。
「橘さん、タクシーが来ているかも知れません。そろそろ・・・」と澪が話を遮ったが、永遠は「吉川教えてくれ」と促すと、葵は恐る恐る口を開いた。
「・・・茅野さん、3年前にお祖母様を亡くしてるでしょ。中2で戻ってくるまで、親戚しんせきに預けられたりしてたみたいだし、転入してからも怪奇現象も起きたりしてたし・・・。私、美沙が暴走した時に止められなくて悪かったなって思ってたから、茅野さんが楽しそうで良かったなって思ってて・・・」
葵はバツが悪そうな表情をしながら永遠に打ち明けた。
「んだよ・・・それ・・・」
永遠は呆然ぼうぜんとして言葉を失った。
「え?!橘くん覚えてない?!茅野さんが転校したの、珠川たまがわ河川敷爆破事件の直後だったんだけど、茅野さんのお祖母様がその事件のせいで亡くなったっていう噂が七中にも流れてたの。てっきり直接聞いてるものだと思ってて・・・!ごめんね!これ、絶対私の口から言うことじゃなかった!」
「いや、吉川のせいじゃねぇから・・・さすがに訳があって話せなかったことも、俺が知らないって誰も思わねぇことくらい想像つくし」
「ほんとにごめんねぇぇぇぇ!」
「いや、大丈夫・・・。でも、分かんねぇ・・・あの頃のこと、全然思い出せねぇ・・・どうして・・・」
澪は永遠の表情をじっと見つめていた。


第二章 -自縄自縛- 完


【次話】 執筆1周年記念番外編 冴木夏都編 -埋もれ木に花が咲く-
4/19(金)22:00頃更新予定



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