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【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光-42話 交錯する思い5-人と屏風は直には立たず-

前話】 【最初から】 【目次

永遠とわしゅう眞白ましろと共につばめヶ丘がおか神社の夏祭りに訪れていたが、つばめヶ丘神社の分社ぶんしゃ怨霊おんりょうが出現したことを察し、怨霊を探していたみおと合流する。永遠と澪が現場に向かうと、分社の鳥居が見えたところで女性の叫び声と子供の泣く声がした。
澪は険しい表情を浮かべながら「急ぎましょう」と言って分社の鳥居をくぐっていき、永遠も後に続いた。
分社には気を失って倒れている女性と、その子供と思われる小学生低学年の男の子。そして、社の前には青の炎を宿したくまのような怨霊がこちらをじっと見ている。
「あちらの女性は生気を吸われているかも知れません。状態が気がかりですね・・・俺が怨霊の相手をするので、たちばなさんは女性とお子さんに小さな結界を張ってもらえますか?俺の能力は怨霊だけではなく他者も影響を受けますので、保護するためには結界が必要です」
「結界が必要なのは理解しましたけど、あいつは怨霊の強さランクでいうと上位の青の炎っすよ。それなら俺も加勢しねぇと・・・!」
「駄目です。万全ではない状態で対処できる相手ではありません。それに、俺が剣術を使えることをお忘れですか?」
そう言うと、澪は水晶のついた首飾りから太刀を出現させた。
「それは柊と同じ・・・!」
「俺の刀は五麟ごりんとしての武器ではありません。でも生気をまとわせれば、普通の武器でも怨霊に通用するんですよ」
「ガァァッ!」
地をう様な咆哮ほうこうと共に、青炎せいえんの熊が永遠たちの元に突進して来た。
「澪さん!!」
永遠が思わず声を上げるが、澪は怨霊を直前でかわして一撃をらわせた。
「ウゥゥゥ・・・・!」
「橘さん、早く!」
澪が一瞬永遠に気を取られている隙に、怨霊がその巨体で再び澪に突進して来た。刀一本では全て受けきれず、後方に転がっていく。しかし澪はすぐに立ち上がると、続けざまの攻撃を刀で怨霊のつめを受け止めた。
(すげぇ・・・あの巨体相手にやりよりの短い刀で応戦してる・・・ってそれどころじゃねぇ!天佑神助てんゆうしんじょだと内側にいる人間の意思で出れちまうから・・・)
「ママは、死んじゃったの?!」
小学生くらいの子供が永遠にぎゅっとしがみついた。
「大丈夫、お前の母ちゃんは死んでねぇよ。寝ちゃってるだけだから」
「ほんとに?」
「あぁ、本当だ。俺は永遠。お前、名前は?」
「・・・ソラ。蒼い空って書くの」
蒼空そらか。・・・蒼空、俺達はあの熊を退治しないといけないんだ。だから蒼空と母ちゃんを守るためのボールに入れる。そこで蒼空は母ちゃんを守ってほしい・・・できるか?」
「・・・うん!わかった!できる!」
「よし、偉いぞ蒼空。じゃあ母ちゃんにくっついててくれ」
蒼空が頷くのを確認し、永遠が「籠鳥檻猿ろうちょうかんえん」と唱えると、ボール上の結界が蒼空の母親と蒼空を覆った。
「よし、そこで待っててくれ」
永遠が澪のところに合流すると、怨霊の動きが明らかに悪くなっていた。太刀の攻撃を受けたダメージからぎこちなく動いている。
「あの親子は・・・?」
「籠鳥檻猿で結界に入れました。大丈夫っす」
「ありがとうございます。助かりました」
お礼を言いつつ澪は太刀を解除すると、「これで本気を出せますね」と言って永遠よりも一歩怨霊の前に出た。
いにしえの水の力よ、我、角端かくたんと共に闘わん」
澪が目を閉じて一拍置き、再び目を開けると澪の目は藍玉らんぎょくに輝いていた。
「澪さん、その目・・・!」
「俺の能力ですよ。藍眼あいがんと言います」
「藍眼・・・?!」
「早くしないと人が来るので、時間を掛けて居られません。俺の術は一瞬で勝負がつきます。橘さん、心のすきがあると術に当てられるので気をつけてください」
そう言うと澪は手で三角形を作った。
「は?気をつけろってどうやって・・・!」
「――藍眼」
澪の言葉に端を発して水が怨霊を取り囲み、そしてまもなく怨霊の全体を覆って宙に浮いていく。
「・・・星離雨散せいりうさん
澪が言葉と同時に両手の指を交差して握るようなポーズを取った。
――グシャ!!
怨霊を水圧で潰し、水が雨のように降り注ぐ。怨霊は声もなく、ちりとなって水滴と共に消えていった。
「嘘だろ、一撃で・・・?!」
永遠が驚いていると、澪が膝に手を付いてその場にうずくまったので慌てて駆け寄った。
「澪さん大丈夫っすか?!どこかに攻撃を受けて・・・?!」
「・・・大丈夫です。驚かせてすみません。今の術は少々反動が強いんです」
「反動・・・?」
永遠が事態を飲み込めずにいると、入江いりえがスキップをしながらやって来た。
「どうも〜☆お祭り楽しんでる?」
「入江さん・・・今はどう見ても祭りを楽しんでるっていうテンションじゃねぇっすよ・・・」
永遠があきれた様子で言った。
「澪くん、覚醒かくせい早々強い術を使い過ぎじゃない?術の使い所は考えないと」
入江はいつものへらへらしたテンションではなく、真剣な表情で澪に釘を刺した。
「入江さんはご存じだから、お見せする必要はないですね。良かったです」と澪は青い顔で言った。
「柊ちゃんがその姿を見たら心配するよ?」
「あの方にはいつ何時も心配されますからね」
入江の言葉に、澪は笑顔を作って返した。
「そうだ!蒼空と母ちゃんを結界から出さねぇと・・・!」
永遠は親子のいる結界に駆け寄ると、「籠鳥檻猿、解!と言霊を唱えて結界を解除した蒼空は母親と共に気を失っている。
「蒼空、大丈夫か?!――」
ここまで声をかけてから、蒼空に怨霊を含めた記憶が残っていない可能性が高いことに気がついた。
(やべぇ!俺と会話した記憶なかったら名前を知ってる不審者じゃねぇか!)
永遠があたふたしているうちに、蒼空が目を覚ましてゆっくりと起き上がった。




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