【連載小説】君の消えた日-二度の後悔と王朝の光- 29話 試される覚悟3-疾風に勁草を知る-
東櫻大学100周年記念祭で別館の警護にあたっていた永遠は、結界の張られた屋上で怨霊との戦闘を開始していた。
一方その頃、ホール2階を巡回していた澪は、異変を感じて思わず周囲を見渡した。
(この気配・・・人ではない・・・?!)
澪はホール1階を警備中の柊にすぐさま連絡を入れた。
「茅野さん、澪です。聞こえますか?」
ーーザァァァァ・・・。
ノイズ音がするばかりで無線機からは声がしない。
(まさか・・・)
澪は意識を集中して1階の気配を探った。入口付近で柊を見つけると、澪は急いで駆け寄った。
「茅野さん!そこにいたんですね」
「澪さん・・・!私も探してたんです」
柊は険しい顔をしている。
「・・・今、すごく嫌な気配がしたんです。茅野さんもお気づきかと思いますが・・・」
「えぇ、あれは怨霊だと思います。でも、今は感じない・・・」
ここまで言い終えると、柊はすぐに無線機で芝山に連絡を取った。
「本部長、索冥です。構内に怨霊が出現している可能性があります・・・応答してください、本部長・・・!」
ーーザァァァァ・・・。
「やっぱり連絡できませんね。先程、俺も茅野さんに連絡を入れたのですが、ノイズ音しかしませんでした」
柊はその言葉を聞くと、ホール出入り口付近の扉まで近づいていった。
「・・・結界が張られている」
「人を閉じ込めるタイプでも空間の中で能力を抑えるタイプでもありませんよね?」
「ええ。これは、外との空間を遮断する結界です。澪さん、手を伸ばしてみてください」
「あ、はい」と言って澪が手を伸ばすと、澪の手は結界をすり抜けた。手を戻すのも問題なくできている。
「怨霊は結界を張ったりしません。だとしたら神官が絡んでいる。怨霊の気配が今しないということは、怨霊もどこかの結界内にいるのでしょう。・・・永遠が巻き込まれている可能性は高いですね。私や澪さんが感じるくらいの気配です。永遠だけ気づかないと考えるのは不自然でしょう。今、炎駒として能力を発動している気配が感じ取れないことも・・・。
澪さん、敵の目的が分からない以上、私はホールにいる500名の人命の安全確保をしなければなりません。本館の警備室にいるはずの芝山さんにこのことを知らせてくれますか?永遠に危険が迫っている可能性もありますが・・・」
柊は奥歯をぐっと噛んだ。
「茅野さん・・・」
「私はホール内にいる警察と連携して、敵の急襲に備えてホール内の警備を強化します」
「・・・分かりました。芝山さんに伝えてきます」
「お願いします」
そう言うと柊はホール内、澪は本館に向かってそれぞれ走り出した。
**
(いってぇー・・・。普通、氷が炎をすり抜けるかよ・・・)
急所は外れているものの、永遠の手足には複数の氷の塊が刺さっていた。永遠は歯を食いしばると、右足太ももと左肩に刺さっている特に大きな氷塊を引き抜いた。
「ぐっ!!」
氷を抜くと血が服に染み込んでいった。服が体に張り付いて気持ち悪い。右手で左肩に触れるとベッタリと血がついた。立ちあがろうとした永遠は貧血で立ちくらみを起こし、咄嗟に朱槍を杖代わりにした。
(血ぃ流し過ぎた。これじゃ、外に出れたところで・・・)
ーー『まだ橘くんは命を天秤にかけたことはないと思うよ』
永遠の頭に冴木の言葉が反芻した。
(ああ、冴木さんの言う通りだな・・・ここに入江さんや千羽がいたら、俺は守れるのか・・・?)
永遠は首を振った。守れるかどうかじゃない。守り切らないといけない。それがたとえ、入江さんや千羽じゃなくて、知らない誰かだったとしてもだ。永遠自身、この数ヶ月で身内の人間が傷つくのを何度も見てきた。誰かが傷つけば誰かが悲しむし、苦しむ。
五麟として歩む道を選んだのは永遠自身だ。五麟であれば、怨霊や人を襲う神官から人々を守らないといけない。
永遠のやるべきことはただひとつーー1人でも多くの人間を救う。柊や冴木さんと肩を並べられるように。怖がって逃げてる場合じゃない。
ーー『気持ちの強い方が勝つんだ。自分が何のために闘っているのか、橘くんも見つけられると良いんだが』
永遠は左手の五麟の印をじっと見つめ、笑みを浮かべた。
そして覚悟を決めた顔で朱槍を構えると、怨霊に呼びかけた。
「お前は必ずここで俺が浄化する・・・来い!」
「グルルル・・・!!」
怨霊は身に纏っている青い炎をより一層燃え上がらせると、永遠に向かって突進して来た。それに合わせて、永遠も咄嗟に走り出した。
「火樹銀花!!」
永遠の言葉とともに朱槍を包む炎が何倍にも燃え広がる。怨霊が飛びかかろうとした瞬間、永遠は炎の刃で怨霊を一刀両断した。
「ガゥゥゥゥ!!」
咆哮とともに怨霊が塵となって消えていく。それと同時に、結界も徐々に亀裂が入り始めた。
「はは、やった・・・」
永遠は微かに笑みを浮かべるとその場に倒れ込んだ。血を流し過ぎたためか、地面に頬をべったりつけたまま起き上がれない。
微睡む視界の中で誰かが近づいて見える。五麟と敵対する神官に備えなければいけないと頭で分かっているものの、体が全く言うことを聞かない。瞼がどんどん重くなっていき、ついには目が開かなくなり、そこからはもう何も分からなくなっていった。
【次話】30話 試される覚悟4-疾風に勁草を知る-
※12/11(月)7:00頃更新予定
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