ミネストローネが冷めちゃうよ〜人の起こし方〜
15年以上も前の話だが、ある朝母親から、兄が起きてこないのだが良い起こし方はないか?という相談を受けたことがある。
当時、6つ上の兄は大学生で、僕は中学生だった。
大学生というのは赤ちゃんの次によく寝る生き物である、とどこかの誰かが言っていた。
規則正しい生活をする中学生の僕に対し、大学生の兄の不規則な生活は際立っていた。
そんな日常の中の一コマ。
リビングで朝ごはんを食べている僕に、母が「あの子、何回起こそうとしても全然起きてこないんだけど、どうしよう」と言ってきた。
そして、「何か良い起こし方はないか」と相談されたのである。
僕は母に、「ミネストローネが冷めちゃうよ」と言ってみたらどうかと提案した。
我が家では、食パンと目玉焼きが朝食の定番だったが、その日は昨晩の残りのミネストローネもあった。
実際、ミネストローネは子どもたちが食べるタイミングに合わせて母親が温め直してから出してくれていたので、遅く起きたからといって冷めた状態で置かれているなんてことはない。
でも、半分夢の中にいるであろう兄には「ミネストローネが冷める」ことを示唆することで、「今すぐ起きなければ旨いメシにはありつけない」という焦燥感を焚き付けることができると僕は思った。
その狙いは当たった。
2階の寝室で寝ていた兄に対して、母親が1階のリビングから「早く起きなー!ミネストローネが冷めちゃうよー!」と声をかけるやいなや、2階から兄のドタバタする音が聞こえてきた。
その数秒後には、兄はドカドカと階段を駆け降り、そのままリビングに飛び込んできた。
あのときの兄の初速は、ウサインボルトのクラウチングスタートの速さとほぼ同じだったと思う。
狙いが当たりすぎて、その起こし方を提案した僕自身が引いたほどである。
そんなわけで、「ミネストローネ」作戦で、青砥家には平穏が訪れた。
僕は常々思っているのだが、起きない人を起こすのって、結構難しい。
仮にこの世の難しいことランキングを作ったときに、「起きない人を起こすこと」は結構上位にランクインする。
ランキング内の立ち位置的には、ちょうど「英語をペラペラに話せるようになること」と「消えた靴下の片割れを見つけ出すこと」の間に入る。
相手の体を揺り動かしたり、「起きろ!」と声を張ったりするのも一つの手だが、それは起こす側の体力の消耗が激しすぎる。
起こされる側も、起こした側に憎悪の念を抱きながらイヤイヤ起きることになるだろう。
お互いに恨み合うことがないように、スマートに起こし起こされたいものだ。
普通に起こそうとしても相手が起きないときは、発想を変えて、別の角度から言葉を投げかけてみると、案外少ないエネルギーで大きな効果を得られることもあるので、ぜひいろいろ試してほしい。
相手の性格や好みからするとどういうアプローチが響くのかを考え、試行錯誤を続けるのだ。
おわり
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