スランプの治し方②

スランプ二回目のお話です。

スランプを一回克服した私は、「もう二度とスランプにはならないだろう」と謎の自信を持っていました。

ところが、やってきたのです。
二回目が。一年前ぐらいに。

ちょうど、受賞作書籍化のための改稿を行っている途中でした。
その作業のかたわら、私は趣味の小説も書いていました。公募に応募しているときは、応募用のを書くのに精一杯で、趣味の小説は書けていなかったので。

サイトに載せていた『西部の悪魔祓い』という作品は、一回目のスランプ脱出後に途中まで書いたものの、まだ未完のままでした。それを一気に書いて手元で完結させ、充足感でいっぱいでした。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894848976

そのあと、「Les Romans Français」というシリーズのリライトに着手しました。リライトというのは部分改稿ではなく、全面改稿……つまり一から書き直しなので、大変でした。なんとか一章分を書き終えました。
そして一ヶ月ぐらいは、リアルが忙しくなったので、執筆しないことにして、休んでいました。
今思うと、一旦休んだこと――これがスイッチだったのかもしれません。

そして、ある日。『ニライカナイの童達』の続きでも書こうかと、パソコンに向かったのですが、変なんです。文章が、上手くはめこめないというか。雲をつかむような感じ、というか。
この時期に書いたものを先日見直しましたが、とても不安定な文章でした。

そもそもモチベが全然上がらない。
これはだめだ……。一旦、休もう。
執筆を諦め、私は筆を置きました。
幸い、改稿作業はほとんど終わっていました。

今でも、理由はわかりません。
初めて「本を出す」プレッシャーがあったのかもしれません。出版社とのやりとりに、緊張して疲れたのかもしれません。「待ち」の時間の多さにストレスを抱えたのかもしれません。
思い当たることはいくつかあるのですが、どれも「かもしれない」程度のもので、やはり原因不明と言うのが正しい気がします。

今のうちにたくさんインプットしよう、と本を読もうとして愕然としました。
文章が、頭に入ってこないのです。
このあたりで、本がほとんど読めなくなりました。
読書に、普段の倍ほどの集中力を必要としました。映像も同じです。アマプラで、途切れ途切れにドラマを見るぐらいしかできませんでした。
読めないわけではない。観られないわけではない。ただ、とても時間がかかって疲れる。
疲れ切って、私は本から遠ざかりました。一ヶ月に一冊も読めないときもありました。

なぜか、ゲームも億劫になりました。ソシャゲのログインが途絶えます。
音楽も、自然と聴かなくなりました。音楽を聴くと創作のことを考えてしまって、辛いからです。
娯楽をほとんど楽しめなくなった私は、暇なときはテレビを眺めて過ごしました。

漫画をレンタルしにいっても、結局何も借りずに帰りました。
読む自信がなかったのです。

この時期は、とにかく早く眠っていました。
眠りの世界に逃げていました。ただ私は夢見がよくないので、眠ることも幸福ではありませんでした。それでも、「書けない」「読めない」「観られない」現実よりはマシでした。

そんななか、唯一、夢中になったものがありました。
「天国と地獄」というドラマです。
なぜこれだけ夢中になれたのか、今もってわかりません。(元来、海外ドラマ派ですし)
先の読めないストーリー、コミカルなやりとり、男女が逆転した演技、全てが刺さったとしか言えません。
とにかく、このドラマの放映中は毎週日曜日を楽しみにしていました。
偶然、二話の途中から見たのです。裏番組のバラエティを見ようとしていて、本当に偶然こちらを見て。一気に引き込まれたんです。

「天国と地獄」以外は、ほとんど物語に触れられない。
そんな生活が続き、(おそらく)転換点が訪れます。
ネットで話題になったDMMブックスの70%オフセールです。
ツイッターでも目にしましたし、親切な友達がラインで教えてくれました。

ラインで背中を押された気分になった私は、途中まで読んでいた漫画・一巻を読んで面白かったので続きが気になっていた漫画・既に読んだが手元に置いておきたい漫画を、買いました。
あっという間に100冊は超えました。超えた分は、50%ポイント還元のときに買うことにしました。

どうも、これがよかったみたいなんです。

膨大な量の漫画を読んでいくうちに、「読む」ことに抵抗がなくなっていった。
漫画は絵と字を追うからでしょう。「字を追う」リハビリになったのです。
ある日、図書館に行って、気になる本を借りました。以前のように文字が入ってこないということはなく、スピードが遅くても読み切ることができました。
これはいける、と思った私は積ん読をどんどん消化していきました。

ただ、まだ小説は書けていませんでした。

書きかけの習作があり、それを読み直して「一年以上前に書いた書きかけの習作読み直してたんだけど、これ結構お気に入りだな〜。暗いけど」とツイートしたところ、「読ませて」とツイッターのフォロワーさんが言ってくれたので、メールで送りました。感想をもらい、「続きが読みたい」と言ってもらえた私は背を押されるようにしてパソコンと向き合いました。

また、あの雲をつかむような感覚になったらどうしよう。恐怖と共に、キーボードを叩きました。
たぐるように、必死に、文字を綴っていきました。
何度も書き直しながら、1000字書くだけで疲れてしまいました。
でも、書けた! 前のような、上滑りするようなふわふわとした感覚はない。このままなら、書ける気がする。

最初は一日のノルマを1000字にしていましたが、もっと書ける気がしたので一日2000字のノルマを自分に課しました。
習作の主人公に感情移入しながら、一日2000字書いていきました。
これがまた、楽しかったんです。
ああ、小説を書くのって楽しかったんだな……と、思い出しました。嬉しかったです。
キリのいいところまで書けた(36000字ほど)ところで、また例のフォロワーさんに送りました。

並行して、短編も何本か書いていきました。
スランプだったとは思えないぐらい、前と同じ感覚で書けるようになっていたのです。

基本は2000字。多いときは4000字……そのぐらいの分量を、毎日書いていきました。

二回目のスランプは、こうして「(ちょっと言葉が強いですが)強制的に書く」ことで治ったのでした。一回目のように「自然と」書くようになったわけではないのです。
背中を押してくれたフォロワーさんには、感謝してもしきれません。
あと、二回目のスランプには大量の漫画摂取が影響したと思うので、これも治るきっかけのひとつになったと思います。

二回目のスランプは「物理的に」書けないような状態でした。一度目は完全に精神的な問題だと思いますが……。
脳がバグでも起こしたのではないか、と疑うぐらいです。

ただ、一回目も二回目も「どうやらインプットとアウトプットの不調は、ほぼ同時に来るらしい」ということがわかりました。
不思議です。

二回目のスランプを越えましたが、いつかまた三回目が来るかもしれないと思うと正直、怖いです。
スランプは、二回とも唐突に来て、原因不明のまま去っていきました。残念ながら、予防策は取れません。

どうか三回目のスランプが来ませんように。そう祈ることしか、できない。

以上、スランプについてのお話でした。
補足(思い出したことなど)があったら、また書くかもしれませんが、ひとまずここで終わりです。

読んでくださって、ありがとうございました。

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