FUDO-KI
今は古代。何かが起きる時代。国が起こる時代。
〈前回までのあらすじ〉
黍国東の外れ″氷川の丘″に「稗(ひえ)」国と「糠(ぬか)」国のヒヌカ連合軍が現れた。三輪支(みわき)、伊世李(いせり)、佐祁間(さじま)が率いている。
黍国も防衛ラインを張り、東では武将 牟羅(もうら)と崔泰烏(つぁいたいう)が防衛に成功。しかし西では石可児黄仁(いしかにこうじん)が敗退。
そして中央には伊世李が率いるヒヌカ本軍が現れる。佐々隊は鴛巳(おしみ)隊に敗れ、百千隊と富田隊は髭麿(ひげまろ)隊に敗れた。黍軍の総大将である楯築隊は動かないままである。八女隊が伊世李隊に襲いかかるが…。
~第22話 八女vs伊世李~
伊世李隊の強さは圧倒的である。地の利がある″山手″から攻めこんだ八女天主(やめあまぬし)と八女麻亜呂(やめまあろ)の親子。矢の雨を降らせ、敵に与えた被害を喜んだのは束の間の出来事だった。次の矢を構えようとした少しの時間に、伊世李隊から間を詰められた。
その後は波状攻撃を受け次々となぎ倒された。八女天主は生粋の武官でこそないものの、幾多の戦闘に参戦してきた。それでも全く歯がたたない。伊世李兵はレベルが違うようだ。天主の近くにも敵兵が迫る。
「ふぅーー。ここまでかーー。さぁ浦様の国に身を捧げようかー。」
覚悟を決めて刀を握り直した。
その時だった。味方兵の大声が聞こえきた。
「西より援軍だーー!援軍だーー!」
天主は目を疑ったが、確かに遠くに近寄ってくる一軍が見える。方角から考察すると新山城からの援軍だろうか。
しばらくすると援軍が到着し、そのまま伊世李隊の後方に突撃した。多数の伊世李隊に対し大きなダメージを与えることは難しい状態ではあるが一部の隊列が崩れた。
「おぉ!良い位置に突撃してくれた!どなたの部隊かは分からんが、なかなか戦慣れしておる。」
天主は指示を出す。
「西だー!西だー!援軍の方向に攻めよ!」
西へ移動しながら活路を開く天主は援軍と遭遇。援軍の将が現れた。
「八女天主殿とお見受けいたします。」
なんと援軍に来たのは片岡太練(かたおかたねる)である。天主は太練の顔こそ知っているものの面識はなく、良くない噂を聞いている程度だった。
「援軍、かたじけない。」
戦闘中なので短い言葉だけ交わした。
太練隊は戦上手。敵の隊列の奥深くまでは入らず移動しながら戦う。伊世李隊の足が止まり出した。
その時だった。
カーン!カーン!カーン!大きな鐘の音が鳴り響いた。伊世李隊の退却の指示のようだ。波が引くかの様に伊世李隊は引きはじめた。攻勢に出ようとしていた太練だが、追わずに距離をとるように指示を出した。
麻亜呂は戦の止まった少しの時間を使って隊列を整えている。天主は太練を探しだして話しかけた。
「ご助力ありがとうございます。片岡殿はナゼここに?」
太練は正対して答えた。
「西の石可児様の軍に配されておりましたが、敵の猛攻にあい退却となりました。我が隊は被害も少なくここに参った次第。それはそうと……。」
話が終わると明らかに天主の顔色が変わった。驚愕の表情だ。
突然、伊世李隊が動き始めた。髭麿の隊の方に移動している。天主たちの位置からすれば退却し始めたように見える。何が起きているか分からない。天主と麻亜呂、太練の隊は距離を保って追った。劣勢なまま追いかけるという奇妙な状態になっている。
その状態の伊世李隊に横から突撃する部隊があった。百千武主実(ももちむすみ)の隊だ。先ほどの苦戦が嘘のように息を吹き替えし、武主実を先頭に突き進んでいる。まるで無人の野のように進む。
武主実も完全復活である。鵜照と鷹照と共に進み、少ない兵で伊世李隊の中央辺りまできた。すると盾隊が現れて行く手を阻む。隙間なく並び壁のようだ。壁に囲まれるような形となると敵の将が現れた。
「ヒヌカ連合 総大将の伊世李だ!」
麻亜呂に負けない派手な、真っ赤な武具を身に纏っている。
「デカい男!お前が部隊長か?」
そう言って武主実の顔を見た伊世李は驚いた。大男だからでもなく鬼だからでもない。
「本当にいたか!しかも生きていたとは!」
言われた武主実はよく理解できていない。
「お前の父の名は『双角(もろすみ)』であろう!そして我が父の名も双角だ!」
敵にも味方にも衝撃が走った。ヒヌカ連合の総大将は、武主実と兄弟と言ったのだ!そして父はあの双角!
覚えているだろうか。阿宗の郷で聞いた話を。阿宗葉降、阿宗磐井、そして武主実の母アライアから聞いた話を。双角といえば確かに武主実の実父の名である。かつて麦国を蹂躙し壊滅寸前まで追い込んだ男として、この国では名前を出すことさえタブーなのである。