一人ぐらい友達に紛れ込んでいてもいい

人生で避け続けていた種類の人間と飲みに行った。

私はド真面目に生きてきた人間であった。
恋人もそういう経験もなければ酒もたばこもきちんと成人してからやった。
陰キャに近い真面目ちゃんで生きていた。
小学校・中学校では俗に呼ばれるスクールカーストの底辺に存在。
一軍・二軍の奴ら――陽キャ――との関わりを避けながら、時に先生に心配されながら、アホだバカだ頭悪い人間だと内心見下して生きていた。
高校は一クラスしかなかったうえ、陽キャといえども頭のいい人間ばかりなのでそれなりに付き合っていた。
大学も交流はそれなりに、多少自分と住む世界が違うなという人間と少人数で関わりを持っていた。陽キャといえども中身は文化学部所属の人間だから坂口安吾の話で盛り上がることもある。

そんな私が仕事の付き合いで、また一度用事で断った詫びもあって同期と飲みに行くことになった。
一人は見た目からギャル、男女店員問わず絡んでいくタイプの陽キャ。(以下A)
一人は見た目からは想像できないぐらいの恋愛まっすぐの人間。(以下B)名誉のために詳細は控えよう。が、真面目ちゃんの私は引く話しかでていない。ここまでくると、処女だの貞操だの考えてしまう私がただただ古い人間だけかもしれない。
ごちゃごちゃというのは止そう。
一言でいえば正反対の人間二人と飲みに行ってしまったのである。

一軒目はたまたま一緒になったBと先に飲みながら仕事がどうのとかたわいのない話をする。
遅れてAがやってきた。色々聞きたいことがあると言って距離を詰めてくる。大して仲良くない人間ではないが、人生の半分ぐらい付き合ってきたのかレベルの話を聞いてくる。別に隠してもない、どうでもいい私の話は小学校からの奴でも知らないんだが。
言ったことに対して、くっそ前向き理論で励ましたり言うてくる。
「現実しか見ていない」の誉め言葉はそれはそれは、私も気づいてなかったようで。
ついでに仕事の話になったので、Aの所属場所に居る無理人への呪詛を吐いておいた。
Aを育てたとかほんとはこういう人とか気にするなとは言われたが、そういうことではない。お互い様前提で、萎縮させてパフォーマンスを下げてほしくなかった……だけなんだが。私が客の前で声を荒げるほど、つまりよっぽどであるから。
さらにもやもやが募る。
くっそ、これなら当日おさらばする時に大衆の面前で丁寧な暴言スレスレで罵倒しておけば良かった。普段のおとなしさ全開を知っているなら鈍感でも気付く異常事態である。
用意されなかった個人面談で吐くつもりのことを呪詛として投げておく私も私であるし、当人から何一つ謝罪も来ていない、来るわけもないので。(来たら「これは一年目だから怖いもの知らずで言いますけどね……」と始まり同じ呪詛を吐いて終わらせるつもりである)
私の所属内でちょっと……ってなっている事実については伏せておいた。
……この事件については偉い人同士でどうにかなってかなり心配されたのでこれ以上は言うまい。

「終電には帰る」との約束にヒビが入った。
Aの「ダーツバー行こうぜ!」である。
絶対帰れないじゃん。ほらもう雲行きが怪しい。
二階に通されると大学生の男グループがいた。私より一つ年下である。
「おい地獄さ行ぐんだで!」
絶対違うが、頭の中に過ぎる。
いや、とても地獄だった。
私は完全なコミュ障でもなければ完璧な陰キャでもないので、それはそれは控えめだが後ろで静かに、聞かれたことに対する返事だけは返しておいた。
一軒目のマンゴーオレンジが美味すぎて3杯ルールをアッサリ破り、猛烈な頭痛と後悔に襲われている私に「水頼む?」など声を掛け、暇を持て余す私とちょこちょこ話していた。のだが……

いや、なぜ当日出会って名前も知らんような男に抱きつけるのだAよ。
いや、なぜ当日出会って名前も知らんような男の膝に座れるのだBよ。

なぜ当日出会った男とそこまで距離を詰められるのだ。
私には全く理解できなかった。

その後ろで「バーならミリオンダラーあるかなー」とメニューを見て、メニューにないカクテルを作れるか聞けるほど図々しくはないと、一人ぼんやり考えている私の慎ましさ。
やはり私は文学の人間であり、あの時代に影響された人間である。祖父母に育てられ、直接言われたことはないが自然と考え方や好みも古い人間に寄っている。そもそも自分に生きている異性への恋愛の心があるのかすら怪しい。
「全てを投げ出してしまうほどの恋」「100の愛を与えて1しか返ってこなくても好きなものは好き」
10貰った愛を1も返せない。私が良いと思う人がいなければ、私を良いという人もいない。同じ金額を私は私の頭脳に使いたい。だからと言って異性が無理なのではなく、お友達として喋ったり遊ぶ分には楽しいと思うことさえある。
となれば、自ずと答えが見えてくる。
「異性とお茶したり遊びに行ったりはするがお友達止まりで身も心も誰にも許さず、ただ一人の男(ご想像に任せる)に叶わぬ恋心を持ったまま一生を終えたい。」
これが、私が現時点でたどり着いた答えであった。

というか今すぐに帰りたい。目標時間も目前。
本来なら一軒目で終わらせて、翌日の文学講座に備えておきたかったんだが。つい先日のたにまち収穫のグラシンも巻き終わってないが。
調子乗ったツケもあり、明日も用事あるからと何とか終電4本前には抜け出した。
じい様のために買ってじい様の形見として冷蔵庫に冷えていた経口補水液を飲み、シャワーを浴びると、酔いは醒めた。
真っ赤になる割に一杯で倒れないのは受け継がれしものというべきか。
ちなみに経口補水液二本と私の肝臓が頑張ってくれたおかげか、二日酔いにはなっていない。

いきなり始まったダーツバトル、敗者へのテキーラで盛り上がっている間、Bと喋った。
Aの見た目を裏切らないガチ陽キャぶり、距離の詰め方、男への絡み方。
いつも見たままだと言う。私の人生で避けてきた人間フルコンボである。
でも別に嫌な気はしなかった。
むしろ、AとBがいなければ一生関わらない世界である。
私の人生に現れ交友を持ってきた人間は、そういうのには無縁であるから。
それはそれで面白いと思う。
だから言っておいた。

「一人ぐらいああいう人間が友達に紛れ込んでいてもいい」
Bは笑っていた。

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