深月杏

創作小説の本棚です 良かったら読んでいってください!

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記事一覧

『マスク』の裏に

 この世界には2種類の人間がいる。  素顔の人間か、『マスク』を被った人間か。  目の前の男が顔に手をかける。  それがぺりぺりと剥がされていくその音とともに、私…

深月杏
3年前
7

夜に滑る

 やわらかい夕陽色に染まった河原で、一人の男が水切りをしていた。  手近な石を拾っては投げ、二度跳ねては沈む。その繰り返しだった。  もう幾つ投げただろうか。  …

深月杏
4年前
1

回る双子

 ヒュウ…ゴオォ…。  橋を渡っていた。  この橋の上はなぜだかいつも、風が強く感じられる。  肩までの髪が顔にかかり、邪魔だなぁと思いながら手で耳にかける。  右…

深月杏
4年前
1

邂逅

 今日もあのひとがいつもの道を歩いている。  あれ、あのひとの前からおばあさんが歩いてきた。大きな荷物を抱えて、ふらふらと危なっかしく歩いている。それに気づいた…

深月杏
4年前
5

雨に打たれて

 雨が好きだ。  そう言う人は珍しいだろう。  だけど、私は雨が好きだ。  なぜって、私の頬に流れる涙が紛れるから。  傘も差さずに雨に打たれていると、涙とともに悲…

深月杏
4年前
7

平成「最後」の思い出

 明日から新元号、とテレビから声が聞こえた。今日で平成も終わりだと思った時に、ふと気が付く。  平成31年の5月から12月はどうなるのだろうか。  俺はその瞬間猛烈な…

深月杏
4年前
4

涼しい風に吹かれて

1  カツ、カツ、カツ。  ハイヒールを鳴らしながら一人の女が歩いている。  カツ、カツ、カツ、カツ。  やがてその音が二重になり重なり合う。  カツカツカツカツ。…

深月杏
4年前
5

『マスク』の裏に

 この世界には2種類の人間がいる。
 素顔の人間か、『マスク』を被った人間か。

 目の前の男が顔に手をかける。
 それがぺりぺりと剥がされていくその音とともに、私の中の何かが崩れ落ちていくのを感じた。

 彼も、ただ『マスク』を被った人間だったというだけなのに。

1 「うーん」
 目を覚ました私は大きく伸びをした。
 カーテンの隙間からは朝日が差しこんでいる。
 私は布団を脇によせ、起き上がる

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夜に滑る

 やわらかい夕陽色に染まった河原で、一人の男が水切りをしていた。
 手近な石を拾っては投げ、二度跳ねては沈む。その繰り返しだった。
 もう幾つ投げただろうか。
 男はまた石を拾うと、それを少し見つめた。
 跳んでくれ。
 そう願いを込めて投げた石は、
 トン、トン……
 二度跳ねて、
 ポチャン。
 落ちた。
 水面に広がる波紋を、男は死んだ目でしばらく見つめていたが、やがて諦めたようにため息をつ

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回る双子

 ヒュウ…ゴオォ…。
 橋を渡っていた。
 この橋の上はなぜだかいつも、風が強く感じられる。
 肩までの髪が顔にかかり、邪魔だなぁと思いながら手で耳にかける。
 右手の車道にはスピード違反ギリギリの車がビュンビュン走っていた。
 そうか、今日は一人なんだっけ。
 ふとそんなことを思う。
 だけどすぐにその考えは消えて、私はまた風の中を歩いていった。
 通学カバンをぶらぶら揺らしながら、ぼーっと橋を

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邂逅

 今日もあのひとがいつもの道を歩いている。
 あれ、あのひとの前からおばあさんが歩いてきた。大きな荷物を抱えて、ふらふらと危なっかしく歩いている。それに気づいたあのひとは、心配そうに声をかけて荷物を持ってあげた。二人は談笑しながら歩いていく。
 やっぱりあのひとは優しいなぁ。
 私は二ヶ月前、家の玄関でアイツに蹴飛ばされた。アイツは私を追い出そうとしたのだ。そうして道路に転がり出たところを、あのひ

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雨に打たれて

 雨が好きだ。
 そう言う人は珍しいだろう。
 だけど、私は雨が好きだ。
 なぜって、私の頬に流れる涙が紛れるから。
 傘も差さずに雨に打たれていると、涙とともに悲しみも紛れる気がする。
 大好きだった彼がいなくなった悲しみが。

 飼い猫のコタロウが亡くなったのは一週間前のことだった。
 猫はもともと自由な生き物だから、ふらっと出かけてふらっと帰ってくることもあるものだよ。
 飼いはじめる時、お

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平成「最後」の思い出

 明日から新元号、とテレビから声が聞こえた。今日で平成も終わりだと思った時に、ふと気が付く。
 平成31年の5月から12月はどうなるのだろうか。
 俺はその瞬間猛烈な睡魔に襲われ、眠りに落ちていった。

1

「新(あらた)、起きて!」
 母さんの声に起こされ、俺はもぞもぞと布団から出た。
 今日は休みだったような気がするのだが、と思いながらリビングのドアを開けると、食卓にはもう弟の元(はじめ)が

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涼しい風に吹かれて

1

 カツ、カツ、カツ。
 ハイヒールを鳴らしながら一人の女が歩いている。
 カツ、カツ、カツ、カツ。
 やがてその音が二重になり重なり合う。
 カツカツカツカツ。カツカツカツカツ。
 女が足を速めると、その音も速くなる。
 女は怯え、目の前の角を右に曲がる。
 続いて、右、右、右。
 その途端、不意に目の前に現れた女にぶつかり、二人はしりもちをついた。
「わあ!ごめんなさい、大丈夫?」
 突如

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