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ジャニーズが歌い継ぐ名曲「時計を止めて」から考えてみたこと

オスティアラでとびっ子(共に箱推し)のジャニーズ好き現場叩き上げ系アコーディオン奏者、安西はぢめと申します。さて突然ですが、「時計を止めて(原題 El Reloj)」というボレロの名曲をご存知でしょうか。初代ジャニーズのカバーはもちろんのこと、キンプリの平野紫耀さんも2019-2020のジャニーズアイランドなどで歌っていたようです。ラテン音楽のスタンダードとして今でも世界中で歌われている1957年リリースのヒット曲で、メロディも詞の内容もロマンチックで本当に素晴らしく大好きな曲です。私もライブや演奏仕事の最後の「さよならソング」としてよく弾いています。

私の中では、創唱したTrio los Caballelos(トリオ・ロス・カバジェロス/3人の騎士)」のイメージが一番で、60年代に活躍したグラシェナ・スサーナさんや菅原洋一さんの日本語カバーがそれに続くのですが、先日、調べ物をしていて、ジャニーズ事務所所属(当時)のあおい輝彦さんが、青井輝彦名義で1966年に吹き込んでいた事を偶然初めて知りました。カントリーやカンツォーネ、いわゆるオールディーズなどが日本語に訳されて盛んにカバーされていた時代なので、それ自体にはなんの不思議もないけれど、初代「ジャニーズ」のメンバーだった青井輝彦さん(現・あおい輝彦氏)がカバーしていることが意外でしたし、それが今でも歌い継がれていると知って我が耳を疑いました。あおい輝彦さんといえば「ジャニーズ」の名付け親ともいう存在。なんか色々とエモい流れです。あぁ、世の中にはまだまだ知らないことがいっぱい!そこで、「時計を止めて」を今も大切なレパートリーにしているジャニーズの皆さんが果たしている音楽的意義を考えてみました。

かねてから、ジャニーズのタレントさんたちについて個人的に素晴らしいと感心していることの一つが、世代を超えた名曲の数々を「歌い継ぐ」と言うことを実践していると言うことです。まだ持ち歌が少ない時に先輩グループのヒット曲をカバーして披露したりデビュー後も様々なイベントや特番などでグループメンバーをシャッフルしてレパートリーをシェアするというジャニーズお馴染みのことだけではなく、とかく世間的に「懐メロ」や「スタンダード」に属する曲をジャニーズほど「次の世代へ」手渡しているファミリーはないのではないかということがあります(例えば、ジャニーズ以外で今の世の中「三味線ブギ」や「お祭りマンボ」を耳にすることはなかなかありません)それは、誰もが知る一大グループの中で、創立者ジャニー喜多川氏の「命」が手渡されていることに他ならないような気がしてこの文章を書いてみました。

【ジャニーズファミリーが歌う「時計を止めて」はジャニーズだけのもの】

さて、冒頭に書いた「時計を止めて」というタイトルの曲についてジャニーズならではで興味深く面白いのが、青井輝彦さんの吹き込みはサビのメロディが原曲と違うことです。ジャニーズバージョンを初めて聴いた時は「知っている曲」として一緒に口ずさんでいたのに一番の盛り上がりで違う譜割り(歌詞とメロディの割り振りのこと)になっていて「え!?」とビックリして立ち止まりました。その後何回か出てきても、同じように異なったメロディラインで歌っているのでフィーリングで歌い崩している(音楽の世界ではメロディを「フェイクする」と言います。最近では界隈で主旋律の上で声を長く伸ばす、自由度が高い歌唱をフェイクと呼ぶことも多いみたいですがそれは音楽用語的には割と新しい使われ方だと思います)訳ではなくて、「意図的にそのように歌っている」あるいは「そのように覚えてしまった」のどちらかだと思うのだけれど、レコーディングに当たって覚え間違いをそのまま採用することは考えにくいので、明確なディレクションがあったと考えるのが妥当でしょう。いずれにしても、ともかく独自のメロディラインなのです(個人的にそれ自体は訳詞のハメ方の事もあるので「個性」と思って特に批判がある訳ではありません。ただ「原曲や他のカバーしている人たちと違ってジャニーズ独自だ」という事を指摘しているだけですので念のため。そして、これがジャニーズならではの「凄いコト」だという話しに繋がります)

面白い事を発見してしまったので、色々と調べ進めると歌い継いでいるジャニーズの皆さんだけが唯一このメロディで歌唱しているのです。布施明さん、倍賞美津子さん、菅原洋一さん、安奈淳さん…カバーした人は数々あれど、あれこそは「ジャニーズだけのメロディ」なのです。初代ジャニーズの青井輝彦さんが歌ったバージョンを現役ジャニーズの若い人たちがそっくりそのまま今も歌い継いでいる、きっとこの先も同じメロディで歌い継ぐ。凄いことだと思いました。リリースされてから50年以上経っている曲なのに何世代か経っても同じように受け継いでいる…これは立派に文化だし、芸能のある姿の一つをまざまざと体現している「証拠」だと思います。

馴染みがない方にはちょっと分かりにくい例えかもしれませんが、生田流箏曲(お琴の流派)で、同じ曲を弾いても伝えた人や地方などによって、宮城会ではこう弾くけど九州系では違うし、菊筋や富筋ではまたちょっと違うように弾く…などということがあるのですが、まさにこうした、神楽や能狂言ほか伝統芸能に起きている「伝承」と似ていると感じてしまった訳です。ちょっと的外れかもしれないけれど、様式美を代々引き継いでいる点に於いても、つくづくジャニーズは一つの「流派」なんだなぁと感じました。

余談・私が聞いた【ジャニー喜多川さんこぼれ話し】

既出の「三味線ブギ」の他にも「お祭りマンボ」や「買い物ブギ」を歌い踊ったり、「胸の振り子」(これも平野紫耀さんで聴きました。しかも三拍子で。正直たまげました!)のような昭和の歌謡界を代表する作曲家、服部良一先生のメロディを歌い継いでいることにも度々びっくりさせられて来ました。もう20年近く前ですが、当時よく服部メロディーを仕事で扱っていたことがあり、その関係で服部家の方とお話しさせて頂いた時に「ジャニーさんから時々電話かかって来るんですよ。そして、お話ししていると昭和の流行歌について語れる人が周りにいないし、事務所が大きくなっちゃってからは気軽に話しが出来る人が本当に少なくなっちゃって、寂しい気がするっておっしゃってました」とのことでした。きっと審美眼に優れたことで有名だったジャニー喜多川氏は、美しい曲の数々が時代の中で流行っては消えて行く運命を知っていて、自分の意志を継いでくれる舞台の上で、次の世代へこれらの宝物を手渡してくれているのかも知れませんね。そして、その願いと狙いは今でも脈々と生き続けている。これはジャニーズファンのみならず、多くの人の中で昭和の名曲が生き続けられるという点に於いて、日本国内外のエンターテインメント界に与えたジャニーズ事務所の存在の大きさとは別の項目を立てて日本の流行音楽史の中に特記するべき凄いことかも知れないと個人的には思います。

余談ですが、青井輝彦さんのレコードではC、ジャニーズアイランドではKey of Dで歌われていました。特にKing & Princeの平野紫耀さんがあの個性的な声で切ない情感をたっぷり籠めた名唱で観客を魅了しているのは、素晴らしい「芸の継承」ではないでしょうか。しかも平野さん自身、とても大切な曲として位置付けていると聞いた事があります。日本語の訳詞もオリジナルの訳詞と世界観を共有していて素晴らしいですが、改めてざっくり書くと;

時計よ、時を刻まないでおくれ 朝が来ればふたりの恋は 永遠に去ってしまうだろうから

チクタクの音が 救いがたい悲しみを覚えさせる だから、朝が来ないよう時を止めて 今宵を永遠にしておくれ

(注)訳詞でも "y tu tic tac" 「イ・トゥ・ティク・タク」とそのままスペイン語をカタカナにしてあるところは、時計を擬人化して「お前のチクタク刻む音が…」と語りかけているとこです。ロマンチックですねぇ(作曲者はアメリカツアーの最後の晩に別れ難い出来事があって、時計の音からインスピレーションを得て作曲したという逸話があります。実話からできた曲なんて、説得力が違う訳ですね

最後に私が演奏した「時計を止めて」を貼っておきます。前半をジャニーズのメロディに寄せて、後半をオリジナルのメロディで弾いています。ギターとは違う味わいを楽しんで頂けたら嬉しいです。貴方の心に届きますように。

そんな訳で、外からチラ見した私が「ジャニーズ事務所って凄いな」と思った事を思いついて書き記してみました。これからも、キラキラしたカッコ良いアイドルの皆さんが、数々のヒット曲・名曲でたくさんの人に喜びと元気を与えてくれることだと思います。そしてふとした時に、これからもこういう宝石が忘れ去られないように忍び込ませてあるなんてとても素敵だなと思ったので、皆さんとシェアしてみました。

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