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想定外の申し出


彼の突然の申し出に、ビックリして慌てた。

「それは嫌。私は、一人で住んでいたいから。」

「どうして?一緒に住めば、もっと一緒にいれるでしょ?」

「・・・そういうことじゃないでしょ。どうして私と一緒に住むの?」

「俺たち、恋人同士でしょ?」

「まだ、恋人候補よ。」

「Sexしたよ。」

「Sexしたからって、まだ恋人でもないし、一緒に住む理由にはならないと思うけど。」

Tは不満そうに黙った。

私はがっかりして、家に帰ることにした。

特に追ってくる様子はなかった。


何となく、Tに抱いた最初の印象が当たってしまったのかと残念だった。

やっと好きになれそうだったのに。

これからだったのに。

でも、心のどこかではっきりと「彼が恋人だ」と言えなかった理由はこれか、というのがクリアになってちょっと納得した。


その後、1週間ほどTから連絡がしばらく来なくなった。

やっぱりそうだったのか、とがっかりした。

が、以前の失恋した時のような、痛手を負った感覚はなかった。

どちらかというと「やっぱ、違ったか~」という程度の、むしろすっきりした感じで、気分的には軽かった。


1週間後にまたTから連絡が来て「仕事が見つかった。」と報告された。

私の気持ちの中ではとうに冷めていたが、一応彼の希望で会うことにした。

私の会社の近くのレストランで、仕事の後に会った。

Tは嬉しそうに私の手を握って、「この前はごめん。心配させたよね。」と言った。

「仕事決まったのね。おめでとう。早かったね。」

「うん、実は前の会社から戻って来てほしい、って言われて。」

・・・ちょっと眉唾で、あまり信じられない。

「そう。よかったね。それが一番いいよね。」

なんだか、私の中では既に「彼は、無いな」という気分になってしまっていたので、すぐにでも帰りたかったが、何とか食事を終えた。

「ごめんね。まだ仕事が残っているから、私は会社に戻るね。今回はお祝い代わりに、私に持たせて。」

レシートをもって席を立った。

何となく、彼も感じたようだった。

「・・・また会える?」

もう彼とは終わってしまっていたのを改めて、私の中で確認した。


最初の恋人候補は、こうして消えた。

もしかしたら、私はTに試されたのかな?と思った。

あの時、彼の申し出に従って同棲でもしていれば、彼とは続いてたかもしれない。

でも、何となく「いいカモ」的な、俗にいう”都合のいい女”になってたんだろうな、という気がする。

私にとっては、彼はそこまでしても一緒にいたい相手ではなかった、ということがはっきりしただけでも、いい経験になった。

そして、恋をする気持ちはまだ自分の中にある、ということが感じられて、少し自信ができた。


Tからはその後、何度かメールが来たけれど、深くは追ってこなかった。

取りあえず、私の会社や家を知っていても、近くで待ち伏せされたり、やってくることは無かったので少しほっとしていた。

やはり、国や文化が違っても、その人個人の持つ倫理観が似ていないとな、と改めて感じた。

その点、Tは最初からごく常識的だったし、プライドが高そうだった。だから、会ったのだけれど。


しばらくして、会社で「Mさんはあの彼と別れたらしい」という噂が立ったんだそうだ。(友人談)

ある時、あまり親しくない別部署の女性から、ランチに誘われたことがあった。そして、

「Mさんがあの彼氏と別れたなら、私に紹介してくれませんか?」

と、突然言われたのには驚いた。

・・・意外なところで、最初の噂の元が判明した。(苦笑)

もちろん、「元々単なる友人だし、もう最近彼とは会ってないので、ごめんね。」と断って、紹介はしなかったけど。


以後、デートはできるだけ遠くで、会社の近くで会うのは止めておく、という項目を、ルールに加えてみた。


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