読んだ本【2022.12】
死都日本
石黒耀 (講談社文庫)
全日本人読んだほうがいいです。
第26回メフィスト賞受賞作。九州でカルデラの噴火が起こったらという設定のディザスターノベル。
とにかくすごい。専門(?)の火山の話だけでなく、古事記や聖書の引用、あるいは政治や経済のことに言及し、車や軍事技術にも筆を走らせている。しかも本職は医者だという。どういうことなの……。
火山の噴火と聞いて想像するものなんて生易しいものだと認識を新たにさせられる内容だった。この規模の噴火は確かに地球の歴史のなかでは幾度も繰り返されているのだろうが、現代日本で起こったらどうなるかを描く。というかこの国にいる以上いつ巨大地震やカルデラの噴火が起こっても不思議ではない。そんなことはわかっているはずなのに、その想像の数十倍の規模の災害が描かれている。科学的にどこまで正しいのかは知らないが、描かれる災害にはリアリティがある。日本人はもっと火山について知るべきだと思ったし、本書を全日本人が読んだほうがいいと思った。教科書に載せてもいいレベル。
単なる災害小説でなんとか逃げ切れたよかった、で終わりではなくその後の二次被害三次被害についても言及がなされている点も非常に良かった。というかそれも火山の恐ろしさだと伝えたかったのだろう。火山の冬が来て世界的な食糧危機が起こるしリアルタイムで円は暴落するし東海、東南海、南海地震も引き起こされることも示唆されている。その中で、日本が物理的に人の住めない土地になるだけじゃなくて国際的に国家として滅んでしまう可能性を述べて、その危機に対する希望のあるアプローチを総理大臣の口を借りて描かれている。感動的ですごいんだけど、その点に関してはフィクションだと思った。というのもやはり作中の総理のような人物が実在するとは思いにくい。それにもし仮にいたとしても現政権にそんなことは任せられないし信用できない。だからこそ政治批判をし、新政権の新総理というキャラクタを生み出している。こんな災害の多い国なのに原発が多すぎるとか都市部に人口が密集しているのも危険だとか、国民や文明に対する警告もあって、様々な要素を含んだ素晴らしい小説だった。
小説という観点の話をすると、時系列ごとに出来事を描くから次から次と場面が切り替わる。九州での話の続きが気になる途中で東京の話に飛んで、次のページではまた九州にもどっていたりと慌ただしいが、リアルタイム性を、刻一刻と変化する状況を表すという点では良かった。それは応募原稿の時点でそうだったのか、編集からのアドバイスでそうなったのか、などと読みながら考えた。答えはわからない。あと、これだけのものを書いてデビューしてしまったら、もうこの先どうするんだって思ってしまった。これ以上ないだろという感想だ。他にも何冊か著作は出版されているみたいなので読んでみたくもあるが、そういう意味で不安もある。
この小説は舞台が九州で、自分には馴染みがない土地だと思っていたけれど、日本の市町村名を覚えるのを趣味にしているので(?)、出てくる地名がだいたいわかって(ああ、あの辺ね)と理解が深まる。地理とか地学をもっと勉強したいとあらためて思った。そして今回僕はこの小説を携えて九州に行ったのだ。行ったのは佐賀と大分だけど。
ゲームコンソール2.0
Evan Amos・著 フォーマルハウト・テクノ・ソリューションズ・訳 (オーム社)
ゲーム機の写真集。
分解して基盤むき出しの写真もきれいで面白い。
PSXが載っていなかったけど、あれはゲームができるレコーダーなのでいいや。どのハードも保存状態がよすぎてきれいな写真を見ることができる。とても貴重だ。
目の見えない人は世界をどう見ているのか
伊藤 亜紗 (光文社新書)
タイトル通りの本である。
いかに目が見える人が見えない人に対して偏見を持っているのかがわかる。点字を読める人が少ないというのも驚きだった。美術鑑賞するというのも。そうやって僕らは何も知らないし知ろうとしない。
視覚障害者に対する配慮、がそもそも偏見を生んでいる、壁を作っているという意見には納得である。自分の勝手な感情を相手に押し付けているだけである。もちろん実際には様々に問題があるし、向き合っていかなければならない。
誰かが見ている
宮西 真冬 (講談社)
第52回メフィスト賞受賞作。全員読め。
子供を産むこと、育てること、そして女性を取り巻く環境、それらに苦しむ人々を描く。非常に気持ち悪くて良いし、全然共感できなくて最高だった。
それぞれの主人公たちの様々な悩みはわからない反面わかる部分もあって苦しいけど、自分で選んだ人生やんと思ってしまう僕は冷たい人間かしら。自分で自分の人生を選んだと言える人生じゃないから自分を見るようで苦しいのかもしれない。この無意識の反発を共感と呼ぶのかもしれない。
21世紀にもなって旧来の価値観を押し付けるゴミみたいな社会は早く滅んだほうがいい。子供産んだらどうせ会社辞めるんだろとかいう終わっている会社の同僚とか、育児を母親に押し付けて誰が金稼いでると思っているんだとか言い出す終わっている男が出てくる。終わっている会社には、そんな会社を辞める口実ができて良かったと前向きに考えたいものである。でもなんで終わっている男と結婚して子供をつくるのか、これが全然わからない。世の中そんな人間ばかりで終わっているのはお互いかもしれない。そしてクソみたいな男社会だけでなく、家とかいうのも終わっている。嫁がどうとか、孫の顔が見たいとか、旧時代のエゴイズムを押し付けるのはやめろ。一人の人間を尊厳をもって扱え。その人にはその人の生き方があって人生があるのだから、他人が干渉する権利などあらない。僕はそう思っている。だが「家族」という概念に対して絶対殺す以外の感情をもっていない僕の価値観を押し付けるのも良くない。みんなそれぞれに悩みがあるし人生がある。
最後のオチは、そんなに現実は優しくないよって思ってしまった。もちろんそういった人々のすれ違いを作品を通して描いていて、誰もが思い込みで生きていて自分に都合の良い(悪い)解釈で他人を見てしまうのは人間のサガか。
終わっている人間を描けるのって才能だよねと思うのでその点はとても良かった。あと、話の本筋とは全然関係ないけど、カギカッコの中で改行するの気持ち悪い。
フレームアウト
生垣 真太郎 (講談社ノベルス)
第27回メフィスト賞受賞作。
面白かったけど、突き抜けた面白さはなかった。だからなんでこれが受賞作? となった。
創作する遺伝子 僕が愛したMEMEたち
小島 秀夫 (新潮文庫)
小島秀夫のファンになった。
本書は小島秀夫のエッセイである。
なにが小島秀夫をつくったか。彼が影響を受けた、映画や本などを紹介している。彼に限らず、その人を構成する要素として人生で触れてきた物語や芸術などは存在すると思うし、その感性をもった人が書いている文章だということが嬉しい。自分が本ばかり読んでいたり映画ばかり読んでいたりしていてもいいんだとどこかで肯定してくれた気がする。
そして、小島秀夫はもうすぐ60歳で、60歳! まじかよ……と思うけれど、冷静に考えてMSXとかでゲーム作っていたので、そらそうである。でもその年代ということは僕の親の世代なわけで、その年代の人が好きな本や映画について語っているのが感動だった。僕の親の人は本や映画なんてほとんど触れないし、教えてもらったこともない。なんならそういう娯楽に対して単なる娯楽だと切り捨てて否定する立場に近い。でもそんなことは絶対ない。娯楽は心を豊かにする。世界で絶賛されるゲームクリエイターに小島秀夫がなったのは、彼が触れてきた娯楽作品のおかげなのだから。幸運なことに我々は小島秀夫が育った時代とは違って、本や映画だけでなくそこにゲームも加わっている。それに影響を受けて次の世代が新しいものを生み出していく。そういうふうに文化は遺伝するというのが主題の本で、僕は深く同意する。
小島秀夫の作品は、PSのメタルギアソリッドしかプレイしていないけれど、あれはPSでも5本の指に入る名作だった。いつかしようと思っていた2以降もします。ポリスノーツも積んでいる。でもこの機会に改めて小島秀夫作品に触れたいと思った。
こうやって感想を書くことも、『人生のノベライゼーション』だという本書の言葉に救われる。くだらない文章かもしれない。誰も読まないかもしれない。それでもこれこそが2022年に僕が存在していた証なのだ。
まとめ
以上6冊。
2022年を締めくくるにふさわしい本を最後に読めて良かったです。
終
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