鷹月(ようげつ)

文屋。その他お絵描き・動画・ゲーム制作等々。 小説投稿サイトが使いこなせないので、メ…

鷹月(ようげつ)

文屋。その他お絵描き・動画・ゲーム制作等々。 小説投稿サイトが使いこなせないので、メイン活動の産物をここに置いておくことにしました。 怪奇小説が主なコンテンツなので、ホラー要素には注意。

最近の記事

未達の霊

「買ったばかりの家に幽霊が出る」。そんな相談を受けたのは、仕事中のことだった。  突然こんなことを言い出したのは―― 私の身分でこの表現を用いるのは、本来不適切なことだが―― 中堅作家、チャールズ・グッドオーク氏だ。彼とわが社との付き合いはまだ三年余りだが、そのあいだはずっと私が担当を務めている。あくまでも出版社の人間と作家の間柄だから、特別親しいわけではない。けれども愚痴を吐く相手としては適当だったのだろう。私が自分の仕事をこなすためにグッドオーク氏のもとを訪れると、彼は原

    • コクラン

       ロンドン・ジプシーのコクランと言えば、界隈ではそれなりの有名人だ。別にロンドン中の誰もが知っているような名前ではないが、少しでも彼ら根無し草に関心があれば、一度くらいは耳にしたことがある名前のはずだ。  コクランは「自称ばあ様」の若い女である。茶色がかった豊かな黒髪を持ち、歯が出っ張っているせいで少し間が抜けて見えるものの、愛嬌のある笑みになんとも言えない魅力がある。  彼女はどう年嵩に見積もっても二十五に届くか届かないかくらいにしか見えないのだが、自分のことは「老齢のばあ

      • 宿り木

        ◆ 宿り木 「妖精の宿り木をご存知ですか」  酔った私を揺り起こしたのは、何者かのそんな言葉であった。  酒の一、二杯目までは覚えている。それ以上は呑んだかどうかすらもわからない。旅の途中で立ち寄った酒場で、私は疲れからか酩酊していた。その日の酔いはあまり気持ちの良いものではなかった。変に意識は冴えていたし、胃が重かった。  気だるさにもたげていた頭を持ち上げてみれば、私が入ってきた頃にくらべ、店は随分と賑わいを見せるようになっていた。気づかぬうちに相当時間が経っていたら

        • 雨と風の獣

           ある晩秋の日の夜のことだ。流浪の身の私は寝床を確保することもできずに、森に沿った道をとぼとぼと歩き通していた。夜半に差し掛かろうかというころになって、急に厚い雲が月を隠し、あたりはすっかり真っ暗になってしまった。  私は旅のお供の古びたランタンに火を灯した。すると、それから幾ばくもしないうちに強烈な雨が降りかかってきた。その勢いたるや、まさしく曇天から無数の糸が吊る下がっているようで、総身たちまちずぶぬれになってしまった。しまいには風もごうごうと鳴り始めて渦を巻き、何百も

          猫と荷車

           とある旅人が、村から村へと続く道を歩いていると、真っ向から男が荷車を引きながらやってきた。  少なくとも、商人ではない。商人なら馬の一頭でも所有しているはずだし、品物を乗せて運ぶには、荷車はあまりにも小さく見えた。  男と荷車が近づいてくるにつれ、旅人は関心をおぼえずにはおれなくなった。男の引く小さな荷車に載っていたのは、一匹の老いた猫ばかりだったのだ。  男はそれ以外に何も載っていない荷車を、さも大儀そうに引いて歩いている。整備されていない道はよっぽど揺れるだろうに、猫

          冷笑

           アランはカルヴィンじいさんがどうしても好きになれなかった。  行きつけの酒場の隅、いつでも決まった席に陣取って静かに飲んでいるだけの老人の事情を詳しく知る者は、この町には居ない。  若いアランの知らない頃から、ずっと長いあいだこの町に住み着いていて、入り組んだ路地の先の古ぼけたお屋敷に住んでいる。  腰の曲がった小さなじいさんは相当な資産家のようで、本人曰く「体の具合がいい日」には、同席している連中に酒を奢ることがある。  アランも何度か相伴にあずかったことがあるのだが、