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はじめての旅はもう戻らない

26歳、はじめてのインド・バックパッカー旅。

ひっきりなしに聞こえるクラクションの音。
暑くて、埃っぽい空気。
大きなギラッとした目を向けながら近づいてくるインド人。

見るものすべてが珍しく、緊張でこわばりながら、インドの波に飲み込まれていったあの日。

あれから10年経った。

そして、ふと「ああ、はじめてのときのような、あのみずみずしさはもうないんだな」と、ちょっとセンチメンタルな気分になった。

何度もインドに行っていても、「はじめてのインド」は当たり前だけど人生で一度きりだ。

あの貴重な経験はもう二度とできない。

そう感じた出来事を書いてみようと思う。


未知の旅に憧れた20代前半

「未知の旅」に憧れた。

20代前半、『ガンジス河でバタフライ』のたかのてるこ氏や『深夜特急』の沢木耕太郎氏、その他多くの旅本を読み漁っていた。

言葉も通じない、自分の知らない未開の地。

旅本の主人公たちは、いつも冒険し、そして現地の人々と交流していた。

私にはそれがたまらなくまぶしくて「いつか私もこんな旅がしてみたい」と憧れていた。

と同時に、「誰も知らない海外に行って、本当にこんなふうに現地の人と友だちになったりできるのだろうか?」と懐疑的にも思っていた。

「現地の人と打ち解けるなんて、この本の人たちがコミュニケーション能力高いか、すごい特殊能力を持っているからじゃないか」

「凡人の私に、そんなことできるのだろうか」

そんなふうに思っていた。

疑問は消えない。行ってみないとわからない。そして、この疑問を明らかにするためにもインドへ行った。

行ってみたら、すぐにわかった。

インド人は、私たち外国人を放っておかない。

歩いているとものの数分で誰かしらに話しかけられ、会話をしたり、チャイを奢られたりする。

道を尋ねると「私もそこに行くから一緒に行こう」と言われ、おしゃべりしながら一緒に歩く。目的地に着いたあとも「ねえ、今から滝に行くんだけど、あなたも来ない?」と言われて一緒に遊んだ。

滝に行って、屋台でスナックを買って一緒に食べた。

食べ慣れない味に、私が「うえ~」と言っているのを、キャッキャッと笑う彼女たち。(途中でいつの間にか人数が増えている)

そんなことを、インドに着いて数日でたくさん経験した。

私は思った。

「本に書いてあったことは本当だった。私でも、あんな旅ができるんだ」

初インド・ダラムサラで出会った人々

初インドのみずみずしさ

なぜこんなことを思い出したのかというと、はじめてインドに行くという人のInstagram投稿を最近見たからだ。

その人はインドどころか海外もはじめてのようで、とても危なっかしく、ハラハラしながら見守っていた。

でも、危なっかしさもありつつ、旅ならではの偶然の出会いや引き合わせによるミラクルも経験していて、とても楽しそうだ。(こういうミラクルはインドに行くとよくある)

その人の旅は危うさもある中、「はじめて」ならではのみずみずしさにあふれていた。おっかなびっくり進みながらも、周りのインド人に助けられながら、次々にいい経験をしている。

「ああ、私もはじめてのインド、こんな感じだったな」

と思いつつ同時に、

「私には、もうこんな旅はできないんだな」

と悟った。

ちょうど私も数か月前にインドに行った。

インドに慣れているとは言え、はじめての南インド。知らない土地を旅することにワクワクしていた。

もちろん楽しかったし、素敵な出会いもあった。

けど、やっぱり「はじめて」のあのときのような感覚とは確かに違う。

インドにビビりながらも、ほふく前進で進むような、一歩進んで二歩下がるような。
そうやってビビりながらも、少しずつ進む中で偶然の出会いに心躍るような。

「はじめて」のときにしか感じられない、あの感覚は私にはもうなかった。

初インドの人の投稿を眺めながら、懐かしさと少しのさみしさに胸がキュッとなった。

二度と戻らない大切な思い出

とはいえ、別に悲観しているわけではない。

私は過去の自分を思い出しながら、あのときの経験は本当に貴重な、かけがえのない宝なんだと改めて気づいた。

あのドキドキワクワクは二度と味わえない。

そして、あの旅で得たものは私の人生を大きく変えたし、あれがなかったら今はどんな生活をしていたのか想像すらできない。

あのとき。

鬱一歩手前で、なにもかもに絶望していたあのときにインドへ行ったからこそ、感じられたことがたくさんあったのは確かだ。

26歳で一人でインドに行くことを選択した私を、褒めてあげたいと強く思った。

私はあのとき、あのタイミングで、一人でインドに行かなければいけなかったんだと思う。

すべては巡り会わせで、自分の意思とは関係ないところでインドに導かれていたような感覚があった。

今振り返ってもそうとしか思えないし、導かれてインドに行って本当によかった。

はじめてのインドの、あのみずみずしさはもう二度とは戻らない。

けれど、あの経験は私の中で大きな宝だ。

ラダックの子どもたちと

初インドの人の投稿をきっかけに過去を振り返り、私の人生においてとても大切で、かけがえのないものに改めて気づけたことに感謝する。

あなたにも、そんな忘れられない旅はありますか?

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