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"JOHN CUNNINGHAM"の事。

イングランドはブライトン近くのホーヴ在住のロック青年、Grant Lyonsと母親が自宅に小さなスタジオを作り、そこでレコーディングされた地元のアーティストを世に送り出したレーベル、La-Di-Da Productions。1988年から1992年の短い間だったけど、個性的で魅力的なアーティストを輩出してくれました。前回に続き、このレーベルからのご紹介です。レーベル唯一のソロ・アーティストになるのかな?シンガー・ソングライターのJohn Cunninghamです。同じくイギリスにJohnny Cunninghamというフォーク系のミュージシャンがいましたが、全くの別人です。

[Backward Steps] (1989)

John Cunninghamは、イギリスのイングランドはリバプール生まれですが、ブライトンの学校に通っていたそうです。この小さな海沿いの町のアート・シーンに魅了された彼は、この町を拠点に音楽活動を開始します。元Marine GirlsのJane FoxとThe Curtain Twitchersというバンドを結成しますが、音源を残すことなく解散、ソロのシンガー・ソングライターとしての活動へと移ります。最初のデモ・テープをLa-Di-Daに持ち込んだところ、Grant Lyonsが気に入り、即契約となっています。1989年に、そのデモテープの楽曲を中心としたデビュー・シングル"Backward Steps"をリリースしています。元The HousemartinsのStan Cullimoreがプロデュース、Grantがエンジニアを担当しています。Johnのギターとヴォーカル、サポート・ミュージシャンのリズム隊やオルガン、キーボード、ダルシマーやアコーディオンなどの多彩な楽器をフィーチャーした、シンプルでアコースティックで明るく温かみのあるサウンドと、デビューとは思えない程にクオリティの高いメロディが詰まったものでした。この作品は、La-Di-Daの6番目のリリースとなりました。

[Shankly Gates] (1991)

1991年には、デビュー・アルバム"Shankly Gates"をLa-Di-Daからリリースしています。レーベルのホーム・スタジオ「La-Di-Da 16 track studio」で録音、セルフ・プロデュース、Grantがエンジニアを担当、先のシングルに参加していたバック・ミュージシャン達のサポートを受けています。シンプルで温かみのあるメロディとヴォーカルはそのままに、軽快なリズムにピアノ、オルガンやトランペット、オーボエなどのアコースティック楽器が印象的に、カラフルに彩るサウンドが詰まった傑作アルバムです。彼の作品は、本国ではサッパリ売れなかったみたいですが、フランスでの人気は高く、フランスの音楽雑誌"Les Inrockuptibles"ではアルバム・オブ・ザ・マンスを獲得し、年間ベスト・アルバムに選出され、フランスの書店/CDショップのFNACでベストセラーとなっています。

[Bring in the Blue] (1994)

1994年には2作目のフル・アルバム"Bring in the Blue"を同じくLa-Di-Daからリリースしています。ほとんど前作と変わらないメンバー、セルフ・プロデュースでLa-Di-Da 16 track studioにてレコーディングされています。アメリカのバンドであるDifference Engineと契約したのを機会に、アメリカ向けの流通を目指して設立されたLa-Di-Da Americaの数少ないカタログには、Beatnik Filmstars、Earwig、そしてJohn Cunninghamがラインナップされ、アメリカでも発売されています。彼の才能をもっと世界で知って欲しいとのGrantの思いとは裏腹に、CMJでオン・エアされて概ね好評だったにも関わらず、思うようなセールスは上げられませんでした。同年にLa-Di-Daが閉業すると、Johnも活動を休止しています。そのブランクの間もブライトンで生活をしていたみたいです。

[Homeless House] (1998)

La-Di-Daは無くなりましたが、同じくホーヴにあるスタジオChurch Road Studiosで働きだしたと思われるGrantと、同じスタジオのJulian Tardoがエンジニアを務めた3作目のアルバム"Homeless House"を1998年にフランスの小さなレーベルLes Disques Mange-Toutからリリースしています。今作から、初期の弾き語りっぽい部分は薄れ、ブリティッシュ・ポップの良心と言える、抒情的でゆったりとしていて、どこか靄がかかった様な雰囲気の、切なくも懐かしくて美しいサウンドを核として、シンプルでアコースティックながら、ちょっとした遊び心も盛り込んだ演奏をバックに、以前よりも磨きの掛かった温かいヴォーカルによる珠玉のメロディを堪能できるアルバムです。今作も、フランスでは高く評価されました。その後、フランスのインディ・ポップ、Fugu名義で活動するMehdi Zannadと親交を深めたJohnは、Mehdiとの共同作業を開始します。その成果として、Fuguのアルバム"Fugu1"には、Johnがミックスした楽曲を収録しています。

[Happy-Go-Unlucky] (2002)

2002年にはJohn Cunninghamとして4年ぶりとなるフル・アルバム"Happy-Go-Unlucky"をリリースしています。プロデュースはStereolabのJoe Watsonが担当しています。前作同様に、ブリティッシュ・ポップの良心的な抒情的なサウンドを核としていますが、珠玉のメロディを歌うヴォーカルが益々深みを増し、それを支えるホーンやストリングスやピアノ、キーボードによるドリーミィなサウンド、エレクトリックな質感の遊び心を感じさせるサウンドや、多重録音によるコーラス・ワークなどには、確かな進化を感じさせました。時折挟まれるドラマティックなサウンドには、思わずハッとさせられます。盟友Mehdi Zannadがオーケストラ・アレンジを担当した楽曲も収録しています。この作品は、イギリスのRowrah Studiosでレコーディングされ、UKはBroken House、ヨーロッパはTop5 Records、アメリカはParasol Records、そして日本ではP-VINEからリリースされています。

[Fell] (2016)

その後は長く沈黙が続きますが、この期間に曲を書き溜めた彼は、「ひとりでもふたりでも聴きたいと思ってくれる人がいるなら」と思い立ち、レコーディングを始め、前作から実に14年の歳月を経た2016年にアルバム”Fell”で復帰を果たします。フランスのレーベル、Microculturesからリリースされています。このレーベルは、クラウドファンディング・プラットフォームを介してアーティストの資金調達などのサポートを行うビジネス・モデルを持ったレーベルで、フランスで人気の高かったJohnの復帰作品には資金が集まり、無事にリリースに至っています。今作は、セルフ・プロデュース、全ての楽器演奏、エンジニア、アートワークまでもJohnが担当しています。ストリングスには、スペシャル・サンクスでクレジットされているFuguのMehdi Zannadが関わっているのは明白でしょうけど。変わらない温かみのあるヴォーカル、天才的に人懐っこいメロディ、抜群にイノセントなコーラス・ワーク、シンプルで流麗で切なくって、ちょっとした電子楽器の遊びもある、過去から脈々と繋がる良質なブリティッシュ・ポップのエッセンスを最大限に取り込みながら、フランスからの新鮮な風も入れて仕上げた、パーフェクトでエクセレントな奇跡のポップ・アルバムとなっています。前作同様、P-VINEから日本でもリリースされています。

あり余る才能はあるのに、レコーディングの機会が得られなかったり、リリースができなかったり、不当な評価をされてしまうアーティストは星の数ほど存在する(あるいは存在した)訳で、このJohn Cunninghamという、一度は埋もれてしまったミュージシャンによる最高の作品を聴くことが出来るなんて、世の中捨てたもんじゃないと思います。

今回は、最新アルバムは最高なので必聴でお願いしたいので、個人的に思い入れのある、John Cunninghamの楽曲に初めて触れたデビュー・シングル"Backward Steps"やLa-Di-Daのコンピに収録されたこの名曲を。

"Another Photograph" / John Cunningham

#忘れられちゃったっぽい名曲


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