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「シンギュラリティ」か「オメガ・ポイント」か

暮れから正月にかけ、二つの出会いが相ついだ。
ひとつは6~7年ぶりの再会。この再会には「個」を超えた魂レベル(宇宙レベル)の深い意味合いがある。
私はこの人との再会の日を待ちわびていた。その人にもこの日の予感があったようだ。
だから、この久しぶりの再会は、ただ単に懐かしさの感情が満たされたということではなく、のっぴきならない事情で停止していた重要な物事が確実にリスタートを切ったことを意味する。この人は、およそ人間が経験し得るこの世でもっと深い悲しみから自力で立ち直りつつある。それは、マイナスがゼロに戻ることを意味しない。この人は、サナギからチョウへの一歩を確実に踏み出したのだ。
もうひとつは新しい出会い。豪華なおせち料理をご馳走になりながらの歓談。しかし、その話の内容にも深い意味合いがある。私たちは今、どれだけ厳しい時代を生きているのか・・・。この人も明らかに大切なサナギの時期を過ごしている。しかし、この世界はサナギからチョウへの「変容」(トランスフォーメーション)を妨げる要因に満ちている。

様々な意味でそれぞれに少しずつ事情の異なるこの二つの出会いに、あえてひとつだけ共通点を挙げるとしたら・・・「オメガ・ポイント」という概念。簡単に言うなら、サナギがチョウになる瞬間、ということだ。人間が一生の間に経験できるかできないか、という最終にして最大の「変容」の瞬間・・・実は、この最終・最大の瞬間を迎える前に、人は誰しもミニチュアのオメガ・ポイントを何段階も経験する。この二人はまだミニチュアのオメガ・ポイントの段階だろうが、それでも重要なポイントであることに間違いはない。

ところで、近い将来、AI(人工知能)が人間の能力を超えるだろうと言われている。その技術的な特異点を「シンギュラリティ」と言う。AIが様々な方面で人間に取って代わる。そうなったとき、私たちの生活は、仕事は、生き方は・・・?
AI技術にとっての、いわば極まった特異的なポイントがあるとしたら、人間にとっての(いわば進化の)極まった特異的なポイントこそ、ウィルバーがそう呼んだ「オメガ・ポイント」だ。誤解を恐れずに言うなら、人間の意識がもっとも神に近づくポイントである。
この異なる二つの「特異点」は、どのように影響し合うのだろうか。

「シンギュラリティ」は2045年あたりに訪れるとされている。一方、私たちはその気になりさえすれば、(誰の許可を待つ必要もなく)いつでも「オメガ・ポイント」を迎えることができる。
もし影響力の大きさとして、「シンギュラリティ」が「オメガ・ポイント」を上回るなら、そのときこそまさに人間社会が自分たちの創り出したものによって支配されるときかもしれない。もちろんその反対の成り行きもありうる。その決め手は、2045年までに、どれだけ多くの人が(ミニチュアでもいいから)「オメガ・ポイント」を迎えることができるか、という点にかかっているかもしれない。

明暗とりまぜて、様々な未来像が浮かぶが、ここではこれ以上議論を深めるつもりはない。
ただ、あえてこれだけは言っておこう。
「シンギュラリティ」の問題は、人工的なシステムと生身の人間との「進化」の追いかけっこではない。
もし近い将来、人間社会にAIをトップとする支配的なヒエラルキー構造が出来上がるとしたら、それはほかならぬ私たち自身がそれを許すときだけである。つまり、AIに何を学習させるか、という問題だ。これは、人間に何を学習させるか、という問題でもある。
もっと言えば、支配的ヒエラルキーはすでに存在している。それを存続させるのも、別のものに代える(変える)のも、あるいは単にトップを人間からAIに置き換えるのも、私たち次第ということだ。
ひとつだけヒントをご提供しておこう。支配的ヒエラルキーが存在するのは人間の社会だけである。自然界には支配的ヒエラルキーは存在しない。自然界に存在するのは成長型のヒエラルキーだけである。人間も本来は成長型ヒエラルキー・システムの中にある。支配的ヒエラルキーとは、実はその成長型ヒエラルキーが病理化したものにほかならない。

そこで、AIによる支配的ヒエラルキーの成否を問う前に、私はこの場で皆さんに比較的単純なテーゼを示しておきたい。
「シンギュラリティを迎えたAIが、この世でもっとも深い悲しみを味わった人を癒すことができるか?」
ナイフだってピストルだって、使い方次第では人を癒す道具にすることもできる。ナイフやピストルは支配欲の象徴かもしれないが、そうした道具に支配欲があるわけではない。私たちがそうした道具を勝手に擬人化しているにすぎない。AIも同じことだ。
「シンギュラリティ」に関して楽観論を唱えるにしろ悲観論を唱えるにしろ、AIとは私たちにとって何の象徴なのか、一度真剣に考えてみる必要があるだろう。

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アンソニー  K
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