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僕らは今、伊藤計劃さんのイメージした(に似た)世界に生きているのかもしれない。

「虐殺器官」
タイトルだけでグロテスクな内容を想起させる、伊藤計劃さんによる傑作SF小説。実際の本編は、グロさはほとんどなく、人間の在り方、社会、罪などについて問いかけてくる非常に深淵で読み応えのある内容になっています。


物語は9.11の同時多発テロをきっかけに、個人認証によるセキュリティー網が発展した世界が舞台になっており、主人公(クラヴィス・シェパード)は米軍内の秘密裡に暗殺を遂行する部隊に所属をしています。

その世界では、いたるところに生態認証のスキャナーがおかれ、犯罪者のトレーサビリティを高めることで計画的なテロ活動を抑止しようというシステムが構築されています。

いたるところにスキャナーが置かれている。
そう、それは様々な場所に設置された体温計が設置された現在の社会に非常に似ているのではないかと思うのです。

体温計が設置されているところを抜けることで、体調の悪い人がいない場所に入ったと認識すること。
体温計(スキャナー)をだます方法も存在していること。
スキャナーの存在は一定の効果はあるかもしれないが、本質的には別のこと――現実なら手洗い、作中なら・・・ネタバレのため伏せておきます――が抑止に非常に重要な働きをしていること。
類似点が色々あると思います。

そう、SF小説に出てくる世界は薄皮一枚で隔たれているだけですぐに現実を侵食してしまいうるということ。

虐殺器官の世界ではテロがきっかけで(ある種の)超監視社会に世界的に変化したように、現実はコロナ禍をきっかけに超衛生社会(今創った造語)になっていくのかもしれません。
その社会ではきっとマスクは当たり前で未着用だと非難されたり、建物の入り口などには殺菌用のUVゲートなんかができたり、濃厚接触者をいつでも補足できるように位置情報や誰と会ったかなどを中央管理システムに提供し続けたりするのかもしれません。

こうして具体的にイメージしたことで、世界の変化を強く実感しました。

「ありえないなんて事はありえない」、ってやつでしょうか。

社会がどう変化しようとも、自分は死ぬまで生きていくのだから、社会に合わせて自分や自分の行動スタイルを変えていくのでしょう。

伊藤計劃さんに興味を持った方はぜひ、映画版からでも触れてみていただけたら幸いです!
虐殺器官だけでなく、同じく伊藤さんのハーモニーも、僕にとって大切な作品の一つです。


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