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先輩医師の生き様を覗いてみませんか??医師のキャリア座談会 後半

司会:医師のキャリア座談会後半になります。前半では医局・専門科の選択、専門医とサブスペシャルティ(サブスペ)について伺いました。後半でも引き続きよろしくおねがいします。

大学院は研究という共通言語を得るために行く意味はあるが、臨床医には必ずしも学位は必要ない?

司会:後半ではまず、医師にとって足裏の米粒ともいわれる博士号(学位)についてお話を伺います。大学院に入学し、臨床から離れて学位取得を目指すことについては、皆さんいかがお考えでしょうか?

消化器外科医A(以下、消化器):私は大学院進学し基礎研究で学位も取得しましたが、同級生で学位を取得できなかった人もいました。指導教官が忙しい外科医では、研究はなかなか進みません。臨床医を続ける分には、学位自体にはあまり意味がないのかもしれません。

耳鼻咽喉科医B(以下、耳鼻科):私は大学院には行かず、助教の時に臨床と基礎を並行しました。その後海外留学し、論文で学位を取得しました。一方で留学を考える人にとっては大学院→学位→留学が王道ですので、学位取得を積極的に考えることが多いと思います。

呼吸器外科C(以下、呼吸器):私の大学では大学院に入学しない人が多いです。私自身は、オペができないことが嫌だったので、社会人枠として大学院に入学しました。臨床をしながらの研究のため思うように進められず、進捗が少し遅れています。ベッドフリーで大学院生になるのを選択したほうが良かったかもと悩むこともあります。

司会:学位自体は適当な臨床研究でもとるかもしれませんが、見る人が見ればちゃんと研究やっているかどうかは伝わってしまいますよね。海外留学を視野に入れると、研究をちゃんとやっていると共通言語ができる、という点も重要かもしれませんね。取得を考えている先生は、大学院に行く人が多いのか、みんな取れるのか、など戦略的に医局を選ぶ必要がありそうですね。

仕事と子育ての両立には両親の努力とコミュニケーションが重要

司会:皆様はお子様もいらっしゃいますよね。常勤勤務医をしながら子育てというのは大変じゃないですか?

呼吸器:1人目の子の時は休めず、子供と同じ部屋で夜の睡眠不足と戦いながらなんとか育児に関わっていきました。先日2人目が生まれ、教授からも了承いただき、育児休業を1ヶ月申請しました。ハローワークの育児休業給付金をいただいています。同僚の女性医師は時短勤務していますが、肺葉切除などの大きなオペに関われず、苦しい思いをしているようです。

消化器:私は配偶者も勤務医だったので、育児休業は取らず時短で働いていましたが、病棟雑務と外来手伝いばかりでした。回診やカンファレンスが勤務時間外に行われるので、自分の知らない間に色々決まってしまうこと、聞きづらくて情報をキャッチアップしにくかったことなどが精神衛生上良くなかったです。

司会:カンファレンスや回診が時間外に行われると、結果としてキャリアの格差に関係することもありそうです。

消化器:配偶者はいわゆる女性医師への配慮をうたう施設で勤務していて、男性医師に時間外や当直のしわ寄せがきてしまう傾向にありました。アンバランスな配慮って、将来的には女性の多い診療科では時間外をカバーできる人がいなくなってしまうかもしれないですよね。

司会夫婦共に定時で帰宅し均等に家事・育児、というのが本来のフェアな働き方だと思いますが、現実的には男性側が激務で帰れず、その分を女性側が仕事を減らしてカバーとなっているのでしょうね。

耳鼻科:私の場合、アメリカで妻が妊娠中かつコロナによる外出禁止令のため、すべての家事と子供の世話をしました。ラボに行けず、かといって自宅では日中はとてもPCに触る時間はなく、子供が寝た夜中だけが研究に割ける時間でした。世の中でよく言う子育てしながらリモートワークは、まったくの絵空事と気付かされました。研究が遅々として進まず、いったい私は何をやっているんだろうと悩みましたが、これって世の女性の方が感じていることかもしれない、といまあらためて感じます。苦しい時間でしたが、妻の信頼を得られたという意味ではよかったかもしれません。

司会男性側が育児メインの逆の立場になってみないと、なかなかどういう気持ちなのか想像しにくいのでしょうね。パートナーと一緒に納得して働けること、コミュニケーションをしっかり取ることが重要そうです。

教育には両親の判断力が求められるが、子供の成長を見られるのは貴重な体験

消化器:我が家では人を雇って、なるべく家事をやらない努力をしていますが、育児・教育はそうはいきません。受験は全部私が会場に連れていきましたが、さいわいあまり平日は休まずにすみました。常勤医師夫婦で中学受験を乗り切った知り合いもいますが、片方がパートになってしまうこともよくあります。

司会:受験にちゃんと付き添うとなると両親の時間的負担が大きそうですね。

呼吸器:受験は自分が中学受験からだったので子供もそうする予定です。しかし大学の勤務医を続けるなら子供ふたりずっと私立はきついですね。途中から奨学金とはいえ、医学部に行かせてくれた親に感謝です。子育てはとにかく怒らずしかる、尊重する、を徹底してます。いまのところ、楽しくやっています。

耳鼻科:我が家も小学校受験はしていません。お受験する場合は親のどちらかが専業でないと難しいです。上の子は幼少時にアメリカにいたので英語はなるべく続けさせてあげたいと思っています。一応帰国子女向けの塾に週1で通っていますが、正直英語力はどんどん落ちているのが現状です。英語への抵抗、海外への抵抗がなくなればそれだけで良い経験になると思っています。

司会子育てって、心構えというか、考え方自体も教えられているのだなあ、というのが勉強になります。

耳鼻科:子育てを通じて親の精神面が鍛えられます(笑)。家族で過ごすことの尊さ、目の前で人間が一歩一歩成長していくことのすばらしさを体験できる貴重な期間です。

司会:後半のまとめとしては、
・学位は研究や留学のために役立つので、取得したい場合は戦略的に医局を選ぼう
・仕事しながら子育ての環境は整備されつつあるがアンフェアな側面も残る。実情の把握が大切
・子供の教育はかけがえのない体験。親の判断と時間投入の覚悟が必要
ということでしょうか。

迷ったら自分が何がやりたいかを第一に考え、戦略的に行動しよう

司会:最後になりますが、若い先生方が人生の選択に迷った時にかけてあげたい一言をいただけますでしょうか?

呼吸器:キャリアに迷ったら、損しない道を賢く選ぼうとするより、大変かもしれないけどやってみたい方を選択すると後悔しないと思います。応援しています。

耳鼻科:私からはYOLO(You Only Live Once)、一番大事なものは何か決めて、やりたいことをやりましょう、と伝えたいです。海外留学は大変でしたが、家族みんなにとって良い経験になったと信じています。

消化器進路に迷ったら、とりあえず1番やりたいことを選ぶ、ということで良いと思います。特に自分の意思を伝えることは大事です。情報収集や、周囲とのコミュニケーションなど、自分のやりたいことを達成するために戦略を持つことが大事、とお伝えしたいですね。

司会:皆様ありがとうございました。

執筆:音良林太郎