「資金調達のハードルを下げたい」 ANRI投資家のVORTEXへの想いとは
2023年春よりはじまったANRI初の投資プログラム「ANRI VORTEX」。
今年10月には、第2期の募集を開始しました。担当であるANRIキャピタリスト 丸山太郎と榊原和洋はどんな想いを持ってこの投資プログラムを企画したのか。おふたりに話を伺いました。
起業家が選択できるプログラムへ
ー「ANRI VORTEX 2nd BATCH」とはどのようなプログラムなのでしょうか?
丸山:今年の春に初めて実施した「ANRI VORTEX」の第2期生の募集です。前回同様、ANRIのインキュベーション施設「CIRCLE by ANRI」(以下、CIRCLE)に希望すれば入居が可能なため、来年の2月入居を目指して募集を開始しました。まずは書類応募の期限を2023年11月10日までとしています。
今回の2nd BATCHの大枠は前回と同じで「ANRIの投資を体系化しプログラムに落とし込んだもの」となります。そのため、ANRIのキャピタリストが投資検討を行う通常の流れと殆ど同じ状態で検討をさせて頂き、採択が決まった後は、ANRIからの出資、CIRCLEへの入居、主担当のキャピタリストが支援するという流れとなります。
このようにプログラム化することによってベンチャーキャピタル(以下、VC)へのアクセスや相談のしやすさが向上し、前回のようにたくさんのご応募を頂けるのではと思っています。スタートアップのエコシステム全体に少しでも貢献したいという想いで企画・運営しています。
ー前回のVORTEXとのプログラム内容の違いはありますか?
丸山:まず一番の違いはプログラムを二つに分岐させてたことです。ANRIでは2017年より、ディープテック領域での投資に力を入れており、専門性が非常に高いキャピタリストが何名も在籍しています。そのため、今回のVORTEXではDeep Tech専門のプログラムを用意しました。担当者の榊原さんに、その背景をこの後じっくり話して頂こうと思います。
二つ目の特徴は、前回同様投資条件はフルオープンでの募集としていますが、条件に少しばかり変化を加えています。
まず通常のVORTEXでは、前回と同じく「J-KISS, Post Valuation Cap 3億円, ディスカウントレート無し」での投資となりますが、投資額は3000万円から5000万円のレンジで起業家が選択できるようにしました。
しっかりと仮説検証を行うランウェイを確保することが重要であることを考えると3000万円だと若干足りないビジネスもあります。ここは許容できる放出率・資本政策を踏まえて起業家が自由に選べるように改訂しました。初めての調達ですと、考え方が難しい部分でもあるので、迷っている方は遠慮なく選考途中などにご相談ください。
そして新設したVORTEX -DEEP TECH- のプログラムは上記とは若干条件が異なります。投資条件は「J-KISS、 Post Valuation Cap 3.5億円、ディスカウントレート無し、5000万円出資」の固定条件となります。研究開発型のスタートアップはとにかく時間がかかります。初回ラウンドで十分な額を調達して頂きたいと思い、Valuationを若干上げ、投資額は5000万円で固定しています。
新たな挑戦で応援の意思表明を
ーVORTEX -DEEP TECH-を新設した想いを聞かせてください。
榊原:本プログラムにVORTEX -DEEP TECH-を設計した理由は、シード期のディープテックスタートアップの背中を押す選択肢を増やしたかったからです。
ディープテックスタートアップの起業時における悩みはインターネット系のスタートアップと異なる部分があります。その中でも「CEOいない問題」は一番大きく、それ故に起業できないことや外部資金調達に踏み切れないケースは多いと思っています。
第1期もディープテックスタートアップも応募可能でしたが、別プログラムとすることで、ANRIとして研究開発型スタートアップ企業を応援する強い意思があることを表明したいと思ってます。「CEOいない問題」に苦しんでいたり、VCとのコミュニケーションに踏み出せないという方のきっかけになれたら嬉しいです。
ーVORTEX -DEEP TECH-の出資条件はどのようなものなのでしょうか?
榊原:今回のプログラムは、固定条件で開示され透明性を高くしており、VCとのコミュニケーションのハードルが下がるのではないかと思っています。
条件としては、「J-KISS、 Post Valuation Cap 3.5億円、ディスカウントレート無し、5000万円出資」です。そう言われてもピンとこない方もいらっしゃるかもしれませんが、「J-KISS」とはオープンソースとして無償公開しているコンバーティブル・エクイティを使ったシード投資のための投資契約書であり多くの情報が公開されています。必要に応じて説明いたしますので、心配をしすぎずにご応募ください!
ーどんな企業に活用いただきたいですか?
榊原:起業準備を粛々と進めているが、起業に踏みだせていないチーム、そして起業したけれど外部資金を入れて事業加速させるのを迷っている企業にご活用いただき、背中を押せるプログラムでありたいと考えています。
今は大学のGapファンドやJSTのプログラム(起業実証支援、D-Global)などで起業準備の資金を得ることが可能です。ノンエクイティで資金を得て、多くのデータを得ることは非常に有効だと思います。ただ、上記はアカデミアの領域での取り組みであり、起業し会社をスタートさせるには心理的なハードルがあると思います。VORTEXに対しては、意気込みと勢いで応募し、起業に踏み出すきっかけとしていただきたいです。起業前チームの採択の場合は、採択後スムーズに会社を設立いただき、出資という形となります。応募段階でも起業の意志は明確に求めさせていただきます。
アカデミアの先生が勢いをもって起業し、本当は経営者を呼び込みたいが、暫定的に研究者の方がCEOをしている会社に度々お目にかかります。もちろん、研究者の方が本格的にCEOをされることは全く否定しません。しかし、グラントを上手に取得し少ない人数で研究開発を進められているため、逆にどこで外部調達をすればいいか迷ってしまうこともあるかと思います。そういう時に、このプログラムを利用して、資金だけでなく我々VCの経験やネットワークを活用しながら事業加速を目指すという選択肢を持っていただけましたら幸いです。
VORTEXの変わらない想いと存在価値
ーVORTEXの狙いは「資金調達のハードルを下げたい」。この想いは変わらないのでしょうか?
丸山:はい、最大の目的は「エクイティ調達という選択肢を身近に感じでもらうこと」です。
必ずしもエクイティ調達をすることが正しいとは思っていません。事業によっては自己資金で伸ばしていく方が正しいものもたくさんあります。ただ、せっかく日本でもVCの数や資金額も年々増えている中、一度も投資家と意見交換せずに進めてしまうのも勿体無いとも感じます。そのため、「自分たちにとってVCを入れることは正しいのか?」それを確かめるためのご応募でも大歓迎です。それだけでVORTEXの存在価値はあると思っています。
前回の対談でも言いましたが、まだまだVCへのアクセスは気軽なものではないため、そこを変えたい想いが強いです。実は1期生で採択させて頂いたパブリックコネクトも「自分たちはVC向きではないが、せっかくなので最後にANRIに話を聞いてみよう」と考えてご応募頂きました。結果的に調達した資金を有効活用し一気に事業のスピードアップが可能となったため、個人的には「VORTEXを実施して良かった」と心の底から思えた瞬間でしたし、今回の2期生募集を行うモチベーションにもなっています。
ー特徴のひとつであるインキュベーション施設CIRCLEへの入居も可能な点、前回採択された2社はどのように活用されていますか?
丸山:パブリックコネクトもe-lamp.も採択後にCIRCLE by ANRIに入居頂きました。パブリックコネクトは大阪のスタートアップなので、3ヶ月だけでしたが毎日顔を合わせ、数歩歩けば話しかけに行ける環境だったため非常に良いスタートを切ってくれたと思っています。毎週定例MTGをし、事業の進捗を話し合ったりしていました。
e-lamp.を率いる山本さんとチームの皆さんも積極的に活用いただいております。下の写真は入居後すぐに実施したウェルカムパーティーです。
みんなでe-lamp ONEをつけて「ババ抜き」をしたら、信じられないぐらいに盛り上がりました!e-lamp ONEは、心拍に応じてイヤリングの色反応が変わりドキドキしているとわかってしまうので、どこにババがあるのか・・みんなで推理しながら楽しみました。
挑戦を続ける起業家へ
ー最後に、今回のVORTEXに挑戦しようと思っている起業家のみなさまに対してメッセージをお願いします!
丸山:起業すること自体が人生にとって大きな決断です。そして同等ぐらいに初期にVC調達をするかも悩まれると思います。エクイティ調達の意義は事業体や起業家によって意味あいが異なりますが、ぜひVORTEXというオープンなプログラムを通じてVCと共にシード期を戦うべきかどうかを検討してみてください。ANRIは創業時から一貫してシード特化のVCです。事業アイディアが煮詰まっていなくても、まだまだ悩みポイントが多かったとしても、全く問題ございませんのでたくさんのご応募お待ちしています!
榊原:起業してチャレンジをされている方、その準備をされている方皆さんを尊敬しております。そこに寄り添うVCとして、少しでも起業家の皆様を助けられる取り組みをしたいと考えております。本プログラムがすべてのスタートアップにとって適しているとは全く思っておりません。このプログラムの存在を認識したことをきっかけに、外部資金を入れてスタートアップとしてチャレンジすることを真剣に考えていただき、その選択肢としてVORTEXを活用できないか考えていただければ幸いです。
応募に関して
みなさまからのご応募をお待ちしております!
◼️プロフィール
丸山太郎
一橋大学商学部卒。新卒でパナソニック株式会社に入社し、事業企画部で海外事業の戦略立案・実行支援。2017年よりボストンコンサルティンググループに入社し、主にPEファンドの支援。2019年に東京オフィスを離れ、マレーシア・シンガポールオフィスに在籍し、同じく投資ファンドのコンサルティングに従事。2021年よりANRIに入社。担当投資先にfondi, Dreamstock, Turing, Pragtechなど。
榊原和洋 Ph.D.
東京大学理学部卒、同大学院で生物化学分野(RNAサイレンシング)の研究を行い、博士号取得。エムスリー株式会社で製薬企業に対する営業・プロモーション支援、CVC業務に従事した後、2022年8月にANRIに参画。バイオテックを中心に投資活動を行う。ANRIでの担当投資先にFerroptoCure, イーダーム。
Interview / Photo
ANRI 広報 興梠桂子