ANRIの宮﨑です。
先日、2022年の分子生物学会に参加いたました。会場が広すぎて、また、規模が大きすぎて、もう少し準備して臨めばよかったと反省しております。来年は神戸で分生が開催されるとのことで、そちらも参加してみたいと考えています!
さて、学会含めてお会いする研究者の方々とお話していると、どのタイミングで起業とか事業化とか考えたらいいのでしょうか、というお話によくなります。タイミングとかは非常に難しく一概には言えない、というところなのですが、いくつかの起業するパターンがあると感じているので、事例をピックアップしてご紹介してみようと思います。研究者が起業するタイミングや方法など、参考になれば幸いです!
大学院生・ポスドク・教授等の研究者自身が起業
まずは、わかりやすくもあり、インターネット業界の起業でも行われているように、技術やアイデアに精通している創業者達がコミットして起業するパターンです。手前味噌ですが、ANRI投資先でもあるStrand Therapeuticsさんが一つの例だと思います。創業者2人が出身ラボであるRon Weiss研で大学院生・博士研究員として研究開発していたmRNA x 合成生物学の技術を会社のコアとして活用して、起業しました。直近でシリーズAのエクステンションで $45Mを調達しています。
Strandの例が決して特殊なものではなく、HarvardのGeorge Churchの研究室では2018年の1年間で16社も起業が行われました。その内の1人である64x Bioを立ち上げたAlexis Rovnerは、インタビュー等でもChurch研を選んだ理由の一つとして起業するためとも回答しています。米国においては、若手研究者の1つのキャリアオプションとして、「起業」が入ってきているといえるでしょう。
教授職の方はアカデミアでの研究・教育がメインの仕事で、スタートアップには創業者・アドバイザーとして関わるのが一般的です。創業科学者と経営を分離するのは米国の方が通例的に行われています(これも過去の経験の積み重ね、コーポレート・ガバナンスの考え方の浸透じゃないでしょうか)。ただ、大学院生やポスドクの方がアカデミックキャリアではなく民間就職や起業を選ぶ例が出てくる中で、今度はAssistant Professor等のアカデミアのポジションからスタートアップにコミットする事例も幾つか見えてきています。
一例としてUCLAでAssistant ProfessorであったSri Kosuriが設立したOctant Bioです。彼自身もFlagshipというVCなのか製薬会社なのかという組織、そして、前述したGeorge Churchとも関わっており、アカデミックポジションに就く前からバイオテック界隈に触れていたのが伺えます。
次に、合成生物学のSenti BioscienceにTim LuというMITの教授が関わっている例です。共同創業者という立場だけでなく、CEOとして初期の資金調達から経営に携わっています。MITのTim Luの研究室で2017年にCellに発表した研究成果を活用したもので、2018年にシリーズAの資金調達をアナウンスしています。そして、2021年にSPACで上場をしています。
ここまで簡単に大学院生・ポスドク・教授との違い等はあれど、技術のコアな開発者がコミットして起業・経営している事例をご紹介しました。George Church研から1年で16社が出てくるように、米国ではそれなりによくある例としても自分でも見てました。そんな中で、博士課程の大学院生が自分の技術ではなくて、最初は他の研究者の技術を活用して起業する例を知りました。
是非、面白いので一読ください。
MammothのTrevorが博士課程在学中に個人の嗜好の変化とスタンフォードという環境も相まって、起業というオプションを選んでいきます。そしてTrevor自身の研究とは関係ないですが、ノーベル賞学者のDoudnaにCold mailをし、このMammoth BiosciencesをDoudna研で技術開発者であったJanice ChenとLucas Harringtonで立ち上げます。
ベンチャーキャピタル(VC)と共に立ち上げる起業
VCと一緒に立ち上げる例は、以前、イルミナとBob Nelsenの記事でご紹介しました。投資家であるBob Nelsen自らがBoard Directorとして参画し、イルミナを上場に導きました。
また、VC自体が技術を作ってしまう起業例もあります。過去にも取り上げたFlagshipのModernaのような事例です。よろしければ、参考までに記事をご参照ください。
これらのようなVCと共に立ち上げる起業パターンに関しては、またどこかでまとめて紹介をさせてもらいたいと思っています。
まとめ
今回は、研究者がコミットする起業をメインに紹介させていただきました。自分の研究を活用する起業というのもありますし、研究者自身が他の人の研究をコア技術としての起業も米国では起こっています。アントレプレナーシップやスタートアップというものが、圧倒的に身近にある米国の環境であるのも後押ししている一因なのでしょう。日本でも技術スタートアップの起業や研究がキャリアの1つの選択肢になる時が来ると思っています。2017年よりANRIでも研究者の起業支援を行っていますが、そのサポートなど、引き続きANRI全体としてもより力を入れて取り組んでいきたいと思っています。ぜひ、気軽な感じでスタートアップ等についてのご相談というか雑談もいつでもお待ちしてます!