Modernaの誕生から読み解く研究開発型スタートアップ投資の進化

こんにちは、ANRI 鮫島です。
これからANRIでディープテック領域を中心に投資しているメンバーが、日頃考えていることや注目技術領域についてバトンリレー形式で発信していきます。

鮫島 昌弘
ANRI ジェネラル・パートナー
東京大学大学院理学系研究科天文学専攻修士課程卒業後、総合商社、技術系ベンチャーキャピタルを経てANRIに参画。全国の大学や研究機関発の技術をもとにしたハードテック領域のスタートアップを積極的に支援。
主な投資先はCraif、GITAI、Jij、Jiksak Bioengineering、QunaSys、ソナス、ヒラソルエナジー等。

ANRIのディープテックスタートアップ投資

ANRIではこれまで40社以上の研究開発型スタートアップへの投資を実行してきました。独自の無線通信技術を基にインフラのDXを推進するソナス社や太陽光発電事業所向けにサービスを展開するヒラソル・エナジー社等のIoT領域、いちごの受粉・収穫を行うHarvestXや宇宙用汎用型ロボットを開発するGITAIなどのロボティクス領域、ALS等の神経疾患治療薬を開発するJiksak Bioengineering社などのライフサイエンス領域、高精度で心臓病の予測・発見を行うシステムを開発するカルディオインテリジェンス社などのヘルスケア領域、と幅広い研究開発分野でシード期からの支援を行なっています。いま日本で研究開発型スタートアップへの投資が盛り上がる中、僕らが何を目指しているのかModernaの誕生に絡めて話していきたいと思います。

Moderna誕生秘話:VC自らラボを構え、技術の蓋然性を検証した上で共同創業

一時期20兆円に迫る時価総額をつけ、世界のメガファーマと匹敵するレベルまで急成長してきて注目を集めるModerna社。Moderna社の新型コロナワクチンを摂取した方も多いのではないでしょうか?一方、Moderna社がUSのライフサイエンスVCであるFlaghip Pioneeringから生まれてきた事実はあまり知られていません。試しに同社HPのBoard of Directorsを見てみると一番上にいるのはFlagshipを率いるNoubar Afeyan氏で、ModernaのCo-founder and Chairmanと記載されています。

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(出典:Moderna's Board of Directors

Flagship社のHPにModerna社の誕生秘話が書かれていますが、注目すべきは技術のタネを見つけてからVC自らがFlagship Labsというプログラムで実験して、この技術のタネがモノになるかどうかまでを検証してベンチャーをまさに共同創業(オリジネート)している点です。FlagshipからModernaへ実行した約11億円の初期投資はおそらく今後も語り継がれる伝説的な投資となるでしょう。


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(出典:Flagship Pioneering Process

FlagshipのNoubar Afeyan氏はこちらのインタビューで、"通常のVCは複数の会社からwinnerを選ぶが、我々はゼロからwinnerを生み出すんだ"というFlagshipの特徴を強調しています。ちなみに、彼がこれまで何社のスタートアップを生み出してきたのかのクイズがあるので興味ある方は是非見てみてください。

このVCの進化の源流にはGenentech社の成功があると考えています。1970年代当時KPCBで失業中だったロバート・スワンソンがボイヤー博士に、組み替えDNA技術を基に商業化の可能性を打診し、Genentechを設立しました。
『ジェネンテック―遺伝子工学企業の先駆者』(サリー・スミス ヒューズ著)の中にも書かれていますが、ボイヤー博士からすると"目の前にいる熱心な若者は会社を設立して資金を調達する方法を知っていると主張しているが、それは大学の研究者にとっては禁じられた未知の領域だったのである”当時はVCが研究者に起業を提案すること自体に新規性があった訳です。
(動画で見たい方は以下"Something Ventured"ご覧ください)


日本でもModernaのようなVCオリジネーション型ベンチャーは生まれるのか?

このようにUSでは長い期間を経てVCが進化し、a16zのようにVCがマーケティング等を提供する機能型だけではなく、オリジネーション型が生まれて来たのだと思います。日本の今のエコシステムの成熟度(ヒト、資金量)を考えると、彼らと同じ事をやるのは難しいかもしれませんが、僕らANRIで取り組んでいることは大学の研究室を訪問して技術シーズを掘り起こし、外部人材を巻き込んでチームを組成してスタートアップの立ち上げを支援 / オリジネーションすることです。ケースバイケースではありますが、研究者が起業へのモチベーションを上げるまでに1-2年、さらに経営人材を見つけるまでに0.5-1年と、時間がかかり普通に考えれば資本効率が悪い。今のままでは確かに非効率です。しかし、これまでにANRIオリジネーションとして、尿に含まれるmiRNAから高精度なガンの早期診断を行うCraif社や量子コンピュータのソフトウェアを開発するQunaSys社など立ち上げに関わってきて、ある変化を実感しています。起業に関心のある研究者は増え、研究開発型ベンチャーで起業したいけれどもネタがなくて困っている起業家も増えています。彼らを融合させて化学反応を起こし、日本からも次のGenentechとなるような会社を生み出したい。こういった人材の増加に伴い、起業するまでに時間は短くなり、日本のエコシステムの成熟度は増すはずです。これからもこのANRIオリジネーションを尖らせて皆さんが驚くようなスタートアップの創出支援をしていきたいと思っています。
(今月、ANRIオリジネーションで革新的なスタートアップが1社生まれましたので、近いうちにご紹介できればと思っております)

最後に伝えたいこと

現場を回っている感覚としては日本にはまだまだ世界でも勝てる可能性のある技術シーズがあります。僕らはそんな種を抱えてますので、尖った研究開発型ベンチャーの経営に携わりたい起業家の方、そしてご自身の研究を事業化したい研究者の方も、ぜひお話伺わせてください!ご連絡お待ちしてます

これからバトンリレー形式で僕らが考えてることや注目領域についての記事などを発信していきますので次回もお楽しみに!

ベンチャーキャピタルANRIは、「未来を創ろう、圧倒的な未来を」というビジョンのもと、インターネット領域をはじめ、ディープテックやライフサイエンスなど幅広いテクノロジー領域の大学発スタートアップにシード期から投資を行っております。
資金調達や起業などのご相談は、下記お問い合わせよりご連絡ください!


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