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【特許から見る】IBMの顔認証事業の特許はどうなるのか?

IBMが顔認識事業から撤退することを表明しました。

知財サービスに従事している自分からすると、こういうニュースを見ると気になるのが

IBMの顔認証・顔認識関連特許はどうなるのか?

という点です。

本記事はあくまでも私個人の推測になりますので、本記事をベースに何らかの意思決定をされた上での損害等について責任は負いません。ライセンス先・売却先候補を探すための特許分析のアプローチとして参考にしていただければ幸いです。

IBMの取りうる手段は大きく3つ

1.特許群を放棄(捨てる)
2.特許群をライセンス
3.特許群を売却

になると考えます。

1.特許群を放棄(捨てる)」は、これまで顔認識・顔認証関連に投資してきた研究開発費用や特許出願・維持費用が回収できませんので、このオプションを取ることはないと思います。

2.特許群をライセンス」は、IBMとしては顔認証事業からは撤退するが、特許はIBMとして保有して、他社へライセンスしてロイヤリティで稼ぐオプションです。この場合、ライセンス先を探す必要があります。

最後の「3.特許群を売却」は手っ取り早くマネタイズするには良い方法です。「2.特許群をライセンス」と同様、「3.特許群を売却」の場合も売却先を探す必要があります。

以下では、2・3の前提に立ち、IBMの顔認証・顔認識関連特許がどこにライセンスまたは売却されるかを特許情報から探すための考え方・アプローチについて説明します。

ステップ1 IBMの顔認証・顔認識関連特許を特定する

最初にライセンスする特許群、売却する特許群(買い手からすればライセンスを受ける特許群、購入する特許群)を特定します(もちろんIBM社内の方であれば、どれがライセンス・売却対象か分かると思います)。

データベースPatbaseを使って、IBMの顔認証・顔認識関連特許について母集団を作成してみました(細部まで検討していないラフな検索式である点、ご了承ください)。

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本来であれば生きている特許(審査請求期間内、審査中、権利存続中)に限定するべきところですが、そこは端折っています。

トータルで1,317件(正確には1,317ファミリー)がヒットしました。

検索式中の記号の意味は以下の通り
FT:全文・フルテキスト
SC:IPC、CPCなどの特許分類
TAC:タイトル・要約・クレーム
TI:タイトル

ステップ2 ライセンス先・売却先候補のロングリストを作成

IBMの顔認証・顔認識関連特許群が特定できたら、ライセンス先・売却先のロングリストを作成します。

特許分析からロングリストを作成する際、最も簡単な方法は被引用情報を利用することです。被引用とは、以下のチャートのようにIBMの特許よりも後に出願されたC社やD社の特許に引用された出願です。

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引用・被引用については、特許を出願する企業(出願人といいます)が特許庁に報告する場合もあれば、特許庁審査官が審査の過程で先行技術調査を行って見つける場合もあります。

いずれにしても、IBMの顔認証・顔認識関連特許群に似たような出願であると言えます。この引用・被引用を活用できるのは特許情報分析の1つの大きなメリットだと思います。

先ほどのPatbaseの続きで1,317件の被引用特許を検索します(コマンドはCTF)。

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自社IBMの被引用も含まれますので、NOT演算します(8 NOT 2)。

今回はライセンス先・売却先抽出の考え方を示すので、2018年以降の最新の被引用のみに限定して、結果的に378件の母集団ができました。この378件の出願人ランキングを取ると、

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のようになりました(Patbaseの統計解析機能を利用しており、出願人名の名寄せは行っていません)。

トップのCAPITAL ONEはアメリカの金融サービス会社、それ以外にFAMGAからマイクロソフト、アップル、グーグルの名前が確認できます。

それ以外にはPing An Technology (平安科技)やMediaといった中国企業の名前もあります。

ステップ3 ライセンス先・売却先を精査

ロングリストが完成したので、ライセンス先・売却先を精査していきます。

精査する際には以下のようなマトリックスで検討すると良いと思います。

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第1象限:既に顔認証技術そのものを手掛けている企業
第2象限:顔認証技術そのものを手掛けているベンチャー・スタートアップ
第3象限:顔認証技術を利用したサービスをローンチしたいベンチャー・スタートアップ
第4象限:既に顔認証技術を利用したサービスを手掛けている企業

第2象限・第3象限はベンチャー・スタートアップには限定されず、これから顔認証・顔認識ビジネスに参入したい中堅企業・大企業も候補に入ります。

たとえばトップのCapital Oneであれば既に顔認証・顔認識技術をサービスに利用しているようなので、第4象限に該当します。

グーグルやFacebookなどのプラットフォーマーは、自社特許ポートフォリオを強化するために他社から積極的に特許を購入してきた歴史があります。最近では中国企業の特許購入の動きも活発ですので、今後の動向が注目です。

まとめ

この記事では、具体的にIBMの顔認証・顔認識関連特許群がどの会社にライセンス・売却されるかまで特定しません。あくまでも、特許分析から特許群のライセンス先・売却先を検討する考え方・アプローチについて参考にしていただければ幸いです。

あと、当然特許情報だけですべて完結するわけではありません。特許以外の企業情報やマーケット情報、規制情報などなど様々な情報を複合的に分析しなければならない点は最後に言及しておきたいと思います。

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