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末期癌患者が味わう医療の害悪

私のクリニックの末期がんの患者が、これまで治療を受けてきた大学病院に、もう入院での治療は受けたくないと伝えると、じゃあ今日を最後にもううちには来るなと言われたと。こちらには終診の連絡のひとつもなし。

治療の副作用に抵抗を感じていたことは事実だが、決して主治医との人間関係までを終わらせようとは考えていなかった患者は、あまりの唐突な言われ方に涙していた。ただ確かに化学療法の継続が自らの役割と認識し、その過程で時には入院を要する可能性をゼロにはできない大学病院からすると、自分たちが介入する意味が希薄になった患者をそそくさと切っていこうとする姿勢はシステマティックであり、病院業務の費用対効果、時間対効果を考えれば好ましいものと言えるのかもしれない。

しかし、それでも、言い方ってものがある。

患者が抱える病気だけでなく、患者の人生に寄り添う意識があるのなら、結論は同じでももう少し違う伝え方ができるのではないだろうか。

患者の命、人生には興味がなく、体内に巣くう癌細胞にしか興味のない医者は、残念ながら大病院の先進医療の現場に大量に生存している。癌の領域はステージ判定による治療方針の切り替えが明確に規定されているため、ステージの進行に伴う治療の分断と共に、医療者と患者の人間関係の分断も起きやすくなっている。

医療が極端に高度化してきている以上、役割分担は不可避なのかもしれないが、患者ひとりひとりにとっては自分の命は、自分の人生はたったひとつである。段階に応じてたらいまわしにするのではなく、多様な役割の医療者が共に、患者の病気と人生をセットにして向き合う体制が構築されなければ、いくら予後がのびたとしても、医療者はその延びた患者の人生の尊厳を傷つける害悪にしかならないと痛感する。

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