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秋の憂鬱

私は秋に恋をしている。
ふっと秋の風を浴びて肌寒く感じたとき思い出す。
椎名林檎が流れる車内で乱暴に髪を掴まれながら求められたときを
公園で痛いくらいキツく抱きしめられながら「愛してる」と囁かれたときを…
何度思い出しても最高だった。

私は夫を得て、恋を失った。
恋って言うのは、性欲だと思う。

脳内は麻薬に占拠され、強烈に惹きつけられて、
他のものがどうでも良くなってしまう。
この麻薬のおかげで、
私はどれだけのものを失ってきただろうか。

毎年、脳内で同じやり取りが繰り返される。

ああ、私はもう恋はできない。
仕方ない、夫のいない世界になんて今更戻れない。
夫が血の繋がった家族なら良かったのに。
そしたら、好き勝手に恋をして、
一時盛り上がって、傷付いて、
それを全部夫に話して
やっぱり家族が一番だって思いたい。

純愛ストーリーに涙して、
私もいつかこんな恋愛をしてみたいと思ってたけれど、
そんなの私にはできなかった。

ふと性欲が湧き上がったとき、
過去の記憶は何度も何度も何度も何度もコピーされ、
きっと都合の良いように書き換えられて、
所々かすれてしまったような映像で自分を慰める。
ここに新しい1ページを加えられたなら
どんなに良いだろうと思う。

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