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25年前の接客が教えてくれたこと。

海外に行けなくなって早一年、ストレスと同時にどこかあきらめの境地。
二度と行けなんではないかという感覚すらある。
ワクチンも進んで視界が少し明るくなったかのように見えるが、もとの世界に戻るという実感や確信までは持てない。
毎年のように訪れていたハワイも夢かのようだ。
仕事も、生き方すらリアリティがなくなり、麻痺してしまっている人も多いのではないだろうか。

25年程前、初めてのハワイ。
訪れたノースショアで一人の人物に出会いました。
大げさですが、その何でもない出逢いが今でもわたしに深く影響を与えている気がします。
波乗りをはじめて数年だったわたしにとって、ノースショアはあまりにも有名なサーフスポットであり、その地にいるだけで衝撃であったと記憶しています。
その日は、穏やかなコンディションでわたしのイメージするノースショアとはあまりにも乖離していました。
そんな溝を穴埋めするかのように、その人物は突然私の目に飛び込んできました。
掘っ立て小屋と呼ぶにも無理がある囲いの中で、その男はしゃがみながら漂流物と思われる空瓶を並べていました。胸まで伸びた長髪にはまだ水が滴り落ちていおり、海水パンツも同様にたっぷり水を含んでいました。

遠巻きからそんな姿を不思議にそうに思いながら眺めていましたが、数秒後には引き付けられるかのように彼のお店?の前に立っていました。

すぐさま、笑顔で話しかけてきた彼は、
「これ綺麗だろう」
とシーグラスのいくつかを朝日にかざしました。

これらは紛れもなく売り物であり、彼のお店でした。

片言の英語でやりとりをしたところ、どうやら、ウインドサーフィンをしているらしい。そして、波風がない日は朝から海に潜ったり、海岸をビーチコーミングしながら漂流物を拾って観光客に売っているらしい。
プロかアマかまではわかりませんでしたが、それでは生計を立てられていないことは明らかでした。

一つ一つガラスを手に取りながら何かを説明してくれているようでしたが、言葉のできないわたしには理解できません。そんな会話も楽しみながら、今度は小屋の脇にかかっている1枚のロングスリーブTシャツが視界にチラついて離れません。
どうみても彼の私物でしたが、とても魅力的なデザイン。
これも職業病でしょうか、次には彼に尋ねていました。
「これも売り物なの?」
一瞬、戸惑った顔をしながらも彼は笑顔で言いました、
「そうだよ。」と。
きっと早朝に羽織ってきたTシャツですが、それはそれで少しのお金になるならと思い、売って(譲って)くれたに違いない。

彼は使い古したコンビニ袋にTシャツを入れ、握手をしてくれました。

少し離れたビーチで、Tシャツを出してみると、それはノースショアで開催されるウインドサーフィンの大会のものでした。
それが大会参加者に配られるものなのか、入賞者にもらえるものなのかはわかりませんが、この時の何とも言えない感覚は今でも忘れられません。

私の体には明らかにぶかぶかなTシャツでしたが、
25年経った今でも宝物の一つです。

この経験は若いわたしに何か大切な事を気づかせてくれました。
その頃、休みもほとんど無く、かなり忙しい日々を送っていました。
この日も久々の僅かな休暇を過ごしていた最中の出来事でした。

仕事、お金、人生、・・いろいろな事が頭をよぎりました。

ただただ海が好きでこの生活をしている。
先のことなど考えず、明日も海に入るために瓶を拾う。
こんなに素直に生きることもできるんだ。
それは覚悟というより、頭で考えずに行動できることの素晴らしさ、そんなことへの憧れを感じた瞬間でもありました。


今現在起きていることも、きっと大したことではないんだよ。

そんな価値のあるTシャツ、
わたしが今まで受けた最高の接客、最高の買い物の話でした。


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