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シュワっち

勤め先のコールセンターは、従業員の出入りが激しい。つまり、すぐ人が辞める。鳴り止まないプルルルルルルに耐えきれなくなる大人が多いって事。もうすぐ勤めて1年が経とうとしている。お局だね。お勤めご苦労。フクロウ。服売ろう。
コールセンターは、運命を司る職業だと思う。顔も知らない人と、声だけでコミュニケーションをし、それきり二度と会うことがない。彼らとは街中で偶然出会っているかもしれないし、これからも何処かで見かけるかもしれない。私達はそれに気づく事もないのだけど。何だか不思議な関係性。数分間の声だけのコミュニケーション。まるで運命の渦中に居る、と思いながら今日も受話器を取る。

人は、電話越しのセールスマンの声で、無意識にその風貌を思い浮かべる。甲高い声で滑舌良くハキハキ喋る電話越しの主が、金髪で映画好きの美大生だなんて思っていないだろう。ウケる。

面倒臭そうな舌打ちも、無言の即切りも、うるせーよの怒鳴り声もみんな、あたしの事など記憶の片隅にも残らないだろう。そりゃ直接会ってないもんね。頭の中にセールスマン女性の像が数分間だけポッと浮かんでは消えていき、明日になれば声すらも忘れてしまう、そのくらいの位置に居るんだろうな。

そんなコールセンターに一年間勤めていると、面白い人間がうじゃうじゃいる。と言うか、何だろう、多分人間観察が何となく好きで、見逃してしまいそうな一瞬の出来事を何年も覚えていたりするもんだから、何気に楽しめている。

で、この前新しく入ってきたバイトの中で面白い人がいたので彼の話をしようかなと。勝手にしちゃって良いのかな。戦争かな。ニヤ。
学生バイトが多いこの職場に、中年男性が新しく入ってきた。ここで働いている人は(私を含め)驚きと言う感情が欠落している人間が殆どだから、中年男性と言うレアキャラが入ってきても然程驚かなかった。

事件が起こったのは、本日の勤務が終了して、バイトがゾロゾロ帰宅する時間。我々の会社は、郊外のビルの中に入っているのだが、ビルの入り口にはでっかいゴミ箱が設置されている。それはビル内に入っている幾つもの会社が共同で使用しており、勤務終了時刻になると、その日のゴミを分別して廃棄する場所だ。私はいつも通り、職場で唯一心を許している先輩Sとマックの苺大福パイが果たして本当に大福の味がするのかどうか議論しながら出口に向かって歩いていたら、例のでっかいゴミ箱の前で何やらガサゴソと物音が聞こえるのである。
ぴたりと全動きが止まった我々だったが、「バイト先からは1秒でも早く帰りたい」がモットーのSさんはずんずん歩き出した。(寧ろ前よりも早かったような)我々が見たのは、ビニール袋を持つあの中年男性。彼は、持っていた袋を、例のでっかいゴミ箱にガサゴソと捨てていった。ビニール袋には、カップラーメンや缶などがぎゅうぎゅうに押し込まれて、いやー明らかに家庭ゴミやんけーと言う感じ。見るからに。我々も面倒なことに巻き込まれたくないし目を合わせないように通り過ぎようとしたら「あ、お疲れ様です」と家庭ゴミ野郎が呟いた。すげーな。あの真っ直ぐな目はまるで、上野動物園で檻の中の動物達を上の方から眺めるカラスみたいな。なんて。嫌いじゃないよ。

Sさんはその後すぐ会社に報告し、その後どうなったかはまだ分からない。次の出社の時に確かめてみようと思う。







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