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ヨーロッパ企画の舞台「九十九龍城」を配信で見る

今年に入って、いくつか舞台やライブに行く予定を入れていたが、年が明けてからのコロナ禍の猛威の中で、流石に仕事に支障をきたす状況はまずいということもあり、全てキャンセルの措置を取ってしまった。幸いなことにチケット系はすべて他の方に行ってもらえる状況になったので、空席にならずに済んだことは良かった。

そんなキャンセルした内の一つに今回、配信で観劇したヨーロッパ企画の「九十九龍城」があって、久々の本多劇場!っていうワクワク感が下がってしまったのだが、今回配信ではあるけど観劇できるとわかったので、即チケットを購入に至った。

ヨーロッパ企画は本公演は二年ぶりくらいでしょうか。前回の「ギョエー! 旧校舎の77不思議」は本多劇場で見ましたが、普通に笑えるテンポの良い筋書きで面白かったです。特に後半に入ってからの幽霊たちの妙に冷めたテンションの関わりが面白くて、上田誠さんのうまさを感じます。さらにそのあとに外部公演になりますが舞台「夜は短し歩けよ乙女」が非常に良い舞台で、役者さんもそうですが、京都という街をなんとなく感じさせる雰囲気だったり、登場人物の真っ直ぐさだったりと、原作の面白さを十分に感じさせてくれる良いものでした。そして「ドロステのはてで僕ら」という傑作映画を見たことで、完全に期待値が上がって今回の作品を楽しみに待ちました。

結論から言えば、勝手に期待値を上げた自分を反省ということでしょうか。つまらなかったとは、決して思いませんが、すごく面白い作品でしょうか?と聞かれたら、そこまでの思いにはならなかったです。

九十九龍城というスラム街で繰り広げられる人々の生活と、そこでの犯罪含めた出来事を調べる警察と、そこから始めるストーリーの展開という流れですが、前半はコメディタッチを多く盛り込みつつ見せていきます。このあたりは昔の本公演「Windows5000」を彷彿させるもので、あの作品も変な住居に住んでいる人たちの様子を描いていました。前半は看板に住む住民のいい加減さとか、肉屋の主人と奥さんのやり取り、アイフォンならぬパイフォンという名前の電卓を作る人、更にぼったくり(というかスリ)のダンスバーの様子とか、そういうふざけた猥雑感を交互に見せていきながら話が進んでいきます。問題は後半からの話というか、このスラム街の状況を一転させるあたりから。実際にはこの舞台で見せられている状況が全て仮想空間の世界であり、登場人物は仮想空間内のキャラであるモブという設定。土佐さんが演じた怪しい住人は仮想空間内のプレイヤーで、そのゲーム内に出てくるキャラを倒してアイテムを集めているという話に移っていきます。ただこのキャラは課金していないユーザーなので、途中で退場になりますが。この仮想空間内の環境である九十九龍城は一種のバグで、あとで運営者が修正を加えて世界にリセットがかかるみたいな流れで終わっていきます。

個人的にはこの仮想空間内設定みたいなものが、いまひとつしっくり来なかったことが、ちょっと物足りないという気持ちになったかもしれません。

前半、二人の刑事が爆破事件の捜査のために魔窟であるこの九十九龍城をこっそり覗くっていう趣向は面白いし、二人の刑事「ヤン」「リー」の掛け合いもテンポよく進んでいて、面白い。住民の関わりの適当さも良くて、毎日の家賃を払わないと電動カッターで柱を切ろうとする大家とか、パイフォンを作る労働者の愚痴とか、それぞれの場面は楽しく見られる。この舞台ではあえて言えばリー役の金丸さんが主役に近い気もするが、だれか特定の人が中心というよりは、この劇団の作品らしく出演者たち一人ひとりにストーリーが上手く載せられた状態で話が進むので、バランスの良さと噛み合い方にさすが上田さんといつも思う。

このゲームにおけるモブという話だったり、龍が出てくるとかいう話から、世界が一変していきますが、だとしたらマトリックスみたいな感じで進む方がしっくり来たかなあ、、、、と思ったり。せっかくドロステであれだけ緻密な設定を作った劇団だけに、もう少しこの仮想空間における変化についてはもう少し説得力あるというか、ちょっと雑な感じは否めない。仮想現実に落とし込んで結局リセットかかるなら、このストーリー内の出来事にもどんな決着がついても、エンディングすぐに変わるってことだし。実際、マフィアが出てきてたくさん住民を殺していくけど、最後はスライムに殺されてリセットかかるっていう終わり方なので。おいおいここまでの筋書きが覆されて終わりか、、、、という感覚は多少なりとも残る。

仮想現実内のモブが自分たちの世界を認識するっていう状況も、正直変な感覚で、ゲーム内の登場人物が自分がゲームのキャラって認識する話と、どこが違うのか?という感じがしなくもない。

ドロステなんかを考えると、せっかくの面白い要素が散りばめられた前半と、緊迫感も含めて感情が上がっていく後半で、途中やや腰砕け感を自分は感じてしまい、そこがちょっと残念な気持ちになっているところです。

今回、劇団員として出演された藤谷理子さんがすごく新鮮さもあり、切れのある踊りや、力強い演技で非常に好印象でした。劇団の他のメンバーがキャリアや共有している時間が長い分、このタイミングで新しく入った本公演というは、外部公演ですでに接しているとはいえ、なかなか大変だったとは思います。そんな状況でも彼女の力強い台詞回しや、すっとした立ち姿はこれからのヨーロッパ企画の作品のなかでいろいろな世界を広げてくれる気がします。

配信で見たことに関しての、プラスマイナスがどの程度かな?と思ったりします。とくにこの劇団は映像を非常にうまく使うので。映像で見たオープニングからの夜景の映像とか、きっと劇場で見たらまた迫力含めて、かなり違ったのではないか?という部分もあり、このあたりはストーリーとは別に観劇体験における差異が生まれるだろうなあと。まあ、この話は以前からも書いているのですが、作品としての演劇はやはり「劇場という空間で感じるリアル」というものとセットで感じるものですね。

配信での舞台観劇であることから、劇場に足を運んだ方との違いも多いでしょうし、WEBで拝見すると大絶賛という感じが目立つので、自分の感じた部分はあくまで一個人としての感覚ということで、あしからず。

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