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平大典「大名古屋地下豪流府〈デカ・ナゴヤ・ヂカ・ゴルフ〉」

◆作品紹介

名古屋という街はどこかユーモアに満ちている。日本三大都市に数えられるにもかかわらず、常にどこか間が抜けており、バカバカしい要素を挙げ始めれば両手の指ではすぐに足らなくなる。愛嬌があるとも言い換えられる。文学史を紐解けばそんな名古屋に惹かれた作家もむろんおり、代表的なところで泉鏡花や小島信夫などが挙げられる。ほかにも、名古屋在住の現役SF作家である樋口恭介は、過去に「超越時空都市ナゴヤ」というSF小説(未発表)を書いており、そこでは過去・現在・未来に存在した/存在する全ての都市を、時空を超えた都市〈超越時空都市ナゴヤ〉が統合する。舞台は2050年のナゴヤ。異常気象により一年のほとんどが気温50℃以上の猛暑に見舞われるようになった超盆地都市が、暑さを避けるために地下街を発展させてゆく。地下深くに潜っていく過程でゆっくりと独自の科学文明を築き上げていった名古屋は、2300年代になると、時空を形成する全ての素粒子の組み合わせを人為的に操作する技術を開発する。ナゴヤの王〈たかし〉はその技術とナゴヤに事務所を置く巨大傭兵集団〈ヤマグチ・トライヴ〉の力を利用し、隣県の――これまた超盆地都市であった〈ギフ〉を侵略、これを併合し――直後にニホン国からの独立を宣言。むろんニホンはこれを認めず、ナゴヤはニホンに対して独立戦争を開始する。ナゴヤは独自に発展させた素粒子改変技術によってトロイやアトランティスなど、かつて存在した様々な都市や、実際には存在することのなかった架空の都市に姿形を変えながら領土を増やし、最後には〈全ての都市の可能性〉を統合する多次元超越生命体となって、宇宙の外に向かって拡張してゆく――。それによって多次元並行宇宙のつくりは名駅前のようにコンパクトになり、なんでも徒歩圏内にあるし家賃は安いし料理の味は濃くなり外壁は金箔で塗り固められ、良いことづくめになった、というわけだった。本作「大名古屋地下豪流府〈デカ・ナゴヤ・ヂカ・ゴルフ〉」は、そうした名古屋文学の系譜に位置づけられる、最先端の傑作である。(編・樋口恭介)

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