平大典「【対東京《バーサス・トーキョー》】Versus Tokyo」(4)
Ⅳ
八月、真夏に開催された東京の宵は最悪だった。
拾得が便所で用を足している間に、人通りの少ない路上を独りで歩いている中肉中背の犬耳酔漢を発見した。
両手に匕首を持っていたが、背中はがら空きだった。千鳥足だったことから察するに、飲酒して酩酊状態だったのだろう。好機と意気込み背後から忍び寄って、持っていたようなもので殴ろうとしたが、躊躇してしまった。ふと、どこを殴ればよいのかわからなくなったのだ。後頭部を殴ってうまくいけばよいが、失敗したら両手の匕首で反撃を受ける。かといって殴打するのは右手か左手か。どちらがよいのかが判断できなくなってしまった四苦八苦しているうちに、酔漢が俺に気付き全力疾走で逃走された。直後に突発豪雨を喰らい、惨めな気分で帰宅した。
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