パネル

タイトルについて(第十三回)

 もはや誰も読んでいないような気がするが、やりかけたことは最後まで。

 さて、今回はタイトルの話です。実は小説を出版するとき、もしかすると一番難しいのは「タイトルを決めること」かもしれません。

 これまでの作品でも、タイトルが簡単に決まったことはほとんどありません。「あの日~」が出るまで最新作だった「俺たちはそれを奇跡と呼ぶのかもしれない」は、完成までは「因果」という題名だったし、現段階で一応代表作という評価を頂いている「プラットホームの彼女」は、もともとは「始発電車の彼女」という名前でした。そもそも、新人賞を受賞してデビューとなった「ゴールデンラッキービートルの伝説」は、「虹の切れ端」という題名で応募したものです。

 そう考えると、自分にはタイトルを決める才能がないのかと思わざるを得ないのですが、どちらにしてもタイトルがすんなり決まるということは、ほぼ、ありません。

そして「あの日~」も、その例にもれず、元は「ラブストーリー」という題名でした。

 これは、前作のタイトルがあまりに長かったことや、「恋愛小説というものの、単純な恋愛小説ではなくなってしまったので、このタイトルでバランスを取っておきたい」という思惑から名づけたもので、実際に校了の直前までこのままで進んでいたのですが、そこで営業サイドから、「あまりにも地味」「売り場の中で沈んでしまう」というご意見を頂きました。

 そこで、改めてタイトルを考える必要に迫られたわけですが、しかし、これまで「ラブストーリー」だと思っていた小説の名前を、急に変えるというのはこれは非常に難しい。

 たとえば「山田」だった友達が、ある日突然「青山」になるようなもの。「え、山田じゃないの? 青山? なんかしゅっとした名前になっているけど、いやー、山田っぽいけどな、お前の顔」というような感じです。

 とはいえ、本を名無しの子として送り出すわけにも行かず、どうしようかなー、と思っていたところ、編集イワサキ氏から提案があったのが、現行のタイトルである、

「あの日、あのとき、あの場所から」

でした。

しかしこのタイトル、「あの」がうるさいだけでなく、あまりにも「小田和正」。いや、小田和正が悪いわけではないのですが、どうしても読者層が限定されてしまう可能性があります。

そこで水沢が考えたタイトル案がこちら。

・あの約束の場所で
・ここから、はじまる
・Re:スタート
・日々

 いかがでしょうか。

 結果、現タイトルになったのは、イワサキ氏の「これでいかせてください!」という猛プッシュと、今まで自分で好きにつけてきた本があんまり売れなかったことなどが主な理由です。

 ここまで読んできてうっすらお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身は今のタイトルがあまり気に入っていません。しかし面白いことに、「このタイトルだから良かった!」というご意見も伺っております。
 もしかするとこれは「小説は誰のものか?」という内容にも通じる話かもしれません。

 どちらにしろ、タイトルを付けるのはいつまで経っても難しいものであること、そしてもしこの本が十万部売れたらイワサキ氏は胸を張り、売れなかったら「ほれ見てみい」という話になることだけは間違いないでしょう。

 今のところ、話は「ほれ見てみい」に転んでいるようですが、先のことは誰にも分りません。


この記事が参加している募集

推薦図書

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?