生きるしかない

クリスマスイブに、YouTubeである曲がおすすめされた。再生してるとなんか聞き覚えがある。少し記憶をさかのぼると、1月ほど前、弟がカラオケで歌っていた曲だと気づいた。

あの日深夜の街に1人残されたぼくは、たまたま近くで飲んでいた弟と合流し、カオスでなんの店なのかよくわからないがカラオケが自由に歌える店にいた。そこで弟が歌った知らない曲だった。素人が歌ったのを聞いただけでさすがにいい曲とまで思わなかったけど、言葉遣いがなんか幼かったり不思議だなという印象を残した。弟はずっと前からその曲が好きらしいということも同時に感じた。

人の頭って変だ。あいまいな記憶しかなくても、流れてきたときに「あの曲だ」とわかる。「あの曲」と心にひっかかったのは、カラオケでたまたま弟が歌ったのを聞いていたからだ。その後それがきっかけで繰り返し聞いた。偶然の再会は印象を強く刻み込んだりするものだ。2007年にリリースされたフジファブリックの「若者のすべて」という曲だった。

この曲を作詞作曲した志村正彦は2009年12月24日に亡くなったと知った。2019年のクリスマスイブにおすすめされたのにはわけがあったということか。偶然にも彼はぼくと誕生日がとても近い。ぼくはこの曲を知らないまま、もう彼より10年長く生きたのか、と思った。

この曲を聞いていると、花火ってきれいで高まるけど切なくもなるね、という気持ちが引き出されたり、心配や願望のような、でも恋のような言葉は、明かされないから意味深だけどなぜか自分のことに思えたりした。弟にとっては彼女と花火を見に行った夏を、いっしょに過ごした曲なのかも知れない。志村がかつて感じて抽出し歌に込めたものが、10年以上の時間と場所を超えてぼくの中に感覚を立ち上げる。それが歌というものの神秘的な力であり、魅力だろうか。

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