「自由に撮ってください」と書いた"写ルンです"を鴨川デルタに放置するとどんな写真が撮れるのか
人がたくさん集まる場所にカメラを置いておくと面白そう
仕事を辞めた2024年の夏。永遠の夏休み、布団の上でゴロゴロしている時に、ふと面白いことを思いついた。
「自由に写真を撮ってください」とメモをつけたカメラを人がたくさん訪れる場所に置いておくと、どんな写真が撮れるんだろう?
思い立って即行動を開始。とりあえず百均でメモを書くための色紙とカメラを入れる袋を買いに行った。
色紙と袋を買ったはいいものの、肝心のカメラを何も考えていなかった。
これが無職が発揮する無駄なやる気の良くないところ。
学生の頃から趣味で写真をやっているのでカメラ自体は持っている。
しかしカメラはシャッタースピード、絞り、ISO感度など意外と設定をしないとうまく撮れない。もちろんオートモードもあるが、誰かが誤ってモードを変更したら写真が真っ黒になったり、逆に真っ白になったりする。ましてや盗まれたらどうしよう。
そんなふうに悩んでいる時に、Y2Kが流行る今、思い当たるカメラがあった。
写ルンですだ!!
写ルンですは所謂インスタントカメラって奴で、シャッタースピードやISO感度、絞りなどなにも設定せずにシャッターを切るだけで写真が撮れるフィルムカメラ。おそらく日本人なら1度は使ったことがあるはず。
写ルンですであれば、カメラを普段触らない人でもフィルムを巻いてシャッターを押すだけ。さらに普通のカメラと違って怪しくないし、手に取ってもらえそう!そして、仮に盗まれても約2,000円の損失で済む!(高くなりましたね…)
そしてメモをつけてくださいと言わんばかりにカメラの側面に紐を通せる穴がある。極めつきに小さい!
これです。あなたを待っていました。
設置場所は鴨川デルタ一択やな
鴨川デルタは、京都の左京区にある。
賀茂川と高野川が合流して京都のど真ん中を流れる鴨川になるのだが、その2つの川の合流する地点がギリシャ文字のΔ(デルタ)に似ていることから「鴨川デルタ」と呼ばれている。
鴨川デルタは、近くに京都大学や同志社大学などの京都を代表する大学があり、学生の多い街に位置する。
また、学生のみならず、音楽家が楽器の練習をしたり、読書家が本を読み、哲学者は物思いに耽り、写真家が写真を撮り、サッカー少年が夢を追う、そんな市民に愛されている場所である。
さらに、『けいおん』(あずにゃんが大好きだった)をはじめとするアニメや『四畳半神話大系』など文学作品の聖地でもあり、昼夜問わず人が訪れ、市民のみならず他府県の人々にも愛されている場所である。
そして、
これをやるのは鴨川デルタしかない!!
そう思ったのだ。
なぜなら私は鴨川デルタに並々ならぬ思い入れがある。
というのも私自身が京都の左京区出身であり、学生時代は毎日最寄りの出町柳駅を利用していた。そして学校の帰りに彼女と鴨川デルタの飛び石をキャッキャしながら飛び跳ねたり、祇園祭の帰りに夕暮れの鴨川デルタで彼女と…そんな記憶があったかもしれない。
あったと思う。あった気がする。あってほしい。
東京から鴨川デルタへ
普段は東京のコンクリートジャングルで生活をしているが、永遠の夏休み中でもあるので、久々に京都の実家に帰省した。
東京で写ルンですを買い、行きの夜行バス(社畜時代は優雅に新幹線を利用していたが、永遠の夏休みにはそういったマイナスの面もある)の中で写ルンですに「自由に撮ってください」と書いたメモを取り付けてウキウキした。
7時半、鴨川デルタ到着。
平日の朝というのにすでに音楽家が音楽を奏で、読書家が河川敷で読書をしている!
これぞ東京にはない、セーブポイント・鴨川デルタである。
余談だが、設置当日の天気予報では京都市は最高気温40度だった。日本はどうなってしまうんだろうかと恐れる声もあるが、そんなことより私は、国保の請求の方が怖い。
盗まれないかな、そもそもこんな怪しいカメラで写真を撮ってくれる人がいるのかな、など一抹の不安を抱えながらも鴨川デルタの松の木の下に設置する。ついでに国保の保険料、下がってくれと願いながら。
芸術派の汚い字で「自由に撮ってください」とメモをつけた写ルンですの設置が完了し、あとは撮影されることを願うだけ。というわけで、鴨川デルタから少し離れようとしたその時!
鴨川デルタの飛び石を楽しそうに渡るカップルが!
あ、学生時代にこんな記憶はなかった!!いつも一人だったわ!
というわけで、カップルを眺めつつその場を去った。
日を跨いで設置すると「不法投棄だ!」と炎上するかもしれない配慮社会に配慮して、16時ごろに写ルンですを回収しに再度、鴨川デルタへ。
果たして、写ルンですはあるだろうか…?写真は撮られているだろうか…?
写ルンですありました!
ありがとう、鴨川デルタに集まる皆様。ありがとう、京都の街。ありがとう、写ルンです。
さらに、なんと残り枚数はゼロ!
ただ写ルンですはご存知の通り、ディスプレイなんて便利なものはないので、現像するまでなにが写っているかわからない。そのドキドキがあってこその写ルンですなのである。
急いで東京の家に戻り、新宿のカメラのキタムラへ。
しかし現像代とデータ化でなんと1,830円。無職の私にとって大きな痛手であった。本体が2,000円するので、計4,000円。写ルンです一本我慢すると安い焼肉が食べられる。
しかし!この写ルンですに一体どんな写真が記録されているんだろうかという好奇心の前では私の財布はガバガバに口を開けて、3,000円を支払い、1,170円のお釣りを受け取った。
かなり引っ張ってしまったが、写真を見るまでワクワクするこの感じを皆様にも味わって欲しく、あえて暗い学生生活を仄めかすような内容を長々と深夜3時に書いた。けども、鴨川デルタで淡い青春を送りたかったというそんな私の気持ちも理解してほしい。
皆さんにもワクワクを味わっていただいたところで写真をお見せしたい。ちなみに私は皆さんより数週間先に写真を見ている(謎のマウント)。
写ルンですとはいえ、露出調整がうまく出来ておらず、真っ黒だったり、真っ白だったらどうしよう、と思っていたが…
そこには鴨川の夏が写っていた!
うおおおおおお!!!
夏が写っている。懐かしい京都の夏が。兄とチャリンコで松ヶ崎のTSUTAYAに行ったあの夏が。けいちゃんとドブ川でザリガニを乱獲した、あの京都の夏が。
私は京都を離れて、すっかり大人になってしまったが、大文字山はあの日から今も確固として京都の街を見守り、毎年送り火で精霊を送っていたのだろう。
※ちなみに松ヶ崎のTSUTAYAは、私が東京で社畜をしている間に閉店してしまったらしい。
そしてやはりここは鴨川デルタである。おそらくお昼時に撮影されたのであろう、鴨川で遊ぶ人々が賑わう写真が記録されていた。左端には簡易テントだろうか、ピクニックをしている人がいるのがわかるし、飛び石にはたくさんの人が集まっている。平和すぎる。
人が少なくなった時間だろうか、にぎわいは少ないが、これは私の知る京都の鴨川である。キラキラと輝く高野川が眩しい。
同じような写真がいくつかあったが、そりゃ撮りたくなるよ。
全く別の人がカメラを持ち、全く同じ景色を綺麗と思ってシャッターを押した、そう考えると素敵すぎる。
鴨川デルタの写真なんて何枚あってもいいですからね。
鴨川デルタの素敵な皆さん
どんな人が、どんな思いで撮影したのだろうか?写真を一枚一枚眺めながら、想像を膨らませる。
しかし、その答えも記録されていた。
様々な人が訪れ、年齢や性別だけでなく、国境、言語を超えて1つのコミュニティが形成されている。鴨川デルタは、全ての人が、平等に京都の夏を楽しむことができる場所なのだ。
こちらの写真は私にとって最も印象深い写真だった。鴨川デルタをバックに手を掲げ、力強さやパワーを感じる。
後日、InstagramにてDMがあり、この写真は、日焼けをし、腕時計の跡がくっきり残っているのが面白くて撮ったそうだ。
写真は撮影者である写真家の手元を離れると独り歩きし、本来あったはずの意味とは異なって人に伝わることがある。しかしこの写真は、私の心を揺らした。
写真にはそういう力もあるのだ。
夜の鴨川デルタは一味違う
実は後日、もう1つ写ルンですを購入し、夕方から夜の鴨川デルタも撮影していただいた。そこには、日中見ることのできない鴨川デルタが記録されていた。
夕暮れに黄昏れ、あるいは友人と花火を楽しむ学生、普段別々の場所にいる人々がこの瞬間、鴨川デルタに集まる。それぞれ自分たちが思うように鴨川を楽しみ、同時に存在する。そこに社会的地位などの一切の優劣はなく、一人の人間として存在できる。どうしてこんなにも素敵な場所なんだろう。
もちろんミスショットも多くあった。ただこれは紛れもなく鴨川デルタの写真。鴨川デルタに訪れ、偶然このカメラを見つけてシャッターを切った、そんな瞬間が記録されている。
写真は存在の記録である。
最後に2枚。
夜の鴨川デルタを撮影した写ルンですは時間の関係上、残り2枚のところで回収し、東京に戻る前に私が残りの2枚を撮影した。
京都で生まれ、京都で育った私は、いろいろな事情で今、東京にいる。遠く離れてはいるが、私がこうnoteをせっせと綴っている今も、鴨川デルタには人々が訪れて、それぞれの過ごし方があるのだろう。
そして言語は違っても、写真というツールによって、コミュニケーションをとる事ができると知った。
きっとこのフィルムは2024年の夏、鴨川デルタに集まった人々の一瞬の思い出を永遠に輝くものにするだろう。
ふと思い立ったこの企画は、これからも東京で生活をする私に、ワクワクしながら写ルンですを設置した思い出と感動を与えるものになった。
ここまで読んでいただいた読者各位にも、この煌めきの写真たちが何らかのパワーになることを願う。
中村 正行
Instagram @annpann001
YouTube なかむフィルム
鴨川デルタの皆様、ありがとうございました。
また、ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました。
永遠の夏休み中の私は、YouTubeを始めて、そちらで設置している様子やその他、鴨川にて撮影されたすべての写真を公開しています。よろしければご覧ください。また、機会があれば、またどこかで写ルンです放置したいなと思っています。資金的に厳しいので、YouTubeのチャンネル登録、Instagramのフォローをして応援してください。焼肉我慢して写ルンです買います。
また、私は過去に廃墟マニアだった頃もあり、もしこの投稿が好評であれば廃墟マニアだった当時の写真やエピソードも綴っていきたいのでnoteのフォローもしていただけると幸いです。
※また、飲食店を経営している方や、人がたくさん訪れる施設を管理されている方など、写ルンです設置していいよ!という心優しい方がいらっしゃいましたら、InstagramのDMにてご連絡ください。
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