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ふしん道楽 vol.7 住まいの香り

オリンピックが延期になったが正直どうでもいい。
問題はその後の経済的影響と対応策である。
このような危機的状況のなかで不謹慎と言われてしまうかもしれないが、住まいの香り好きとしては見逃せないブツを発見してしまった。

それは読者の皆さまにもおなじみかと思われる、ドイツが誇るルームフレグランスの雄、リナーリから東京2020オリンピックを記念して日本限定品として発売された、その名も「GIAPPONE」。

モダンでシャープな印象のリナーリのボトルにはあまり見られないマットグレーのボディはとても落ち着いていて、お寺の石庭に置いてあっても小さめの地蔵かな?と思うようなデザイン。

ボトルのデザインもさることながらこの香りが素晴らしく良い。
カラブリアンベルガモットとグリーンリーフのトップノートの先に、ジャスミン、ローズ、フリージアのフローラル御三家が待ち構えており、控えのピーチ、ベースにシダーウッドとサンダルウッドなどのウッディ系。

幻のオリンピックの記念限定品という数奇な運命も相まってか、材料が良いためか、ほかの商品に比べて頭一つ抜けて高い値段設定だけど、できたら(通常価格で)定番化してほしい香りである。

ところで海外の香水やルームフレグランスは買った現地で嗅ぐのと、日本国内に帰ってきて嗅ぐのでは香りが違う。
湿度の違いが大きいと思われるが、とにかく日本だと香りのバランスが変わる。

たとえば現地だとほど良く調和していたフローラルの中のラズベリーだけが、急ににょっきりと飛び出しておやつ感だけが残る香りになっていたり。
うまく統合されていた香りの要素がばらばらになって、水に沈んだようになっていたりする。

海外の香りものの複雑さ、濃厚さを愛する民としてはそこらへんも予想しながら使用するのが癖になっていたが、もしかしてこの「GIAPPONE」などはそうした日本の気候風土も計算に入れてつくられたのであろうか。
だとしたらなおさら素晴らしい。

普段家で使うものは、竹ひごみたいなのが刺さってるタイプのディフューザーに加えて、場所によってはルームスプレー、線香などを使い分けている。

ルームスプレーは即効性があるけど持続しないので、味噌汁のにおいなどが廊下にまで広がって、あと5分でお客が来るときなどに使う。
ほんのりにおうくらいの場合は効き目があるけど、強く残っている状態で使うとフローラル味噌汁、みたいなカオスなことになるので気をつけなければならない。

家に入ったときに一番最初に感じるのは玄関の明るさやインテリアの雰囲気に加えて「その家の香り」だと思っている。

それがたとえばおいしそうな料理のにおいであれば楽しげなお家だなと思うし、いろんな要素が複雑に混ざった香りなら奥行きのある人々(もしくは人)だな、と考える。

なのでまぁ別に料理のにおいが混ざっていても素敵なんだけど。
家のにおいの正体は人間や動物の皮脂や分泌物が付着したまま酸化したものだと思うので、基本は掃除をしっかりやる。これに尽きる。
香水などは、知られているように中世フランスで体臭に上乗せしていくスタイルからの進化で、その人のにおいと混ざって独特の香りが生まれるのも良しとされているが、家のにおいはある程度抑えてから乗せたほうが良いと思う。

ところでせっせと掃除をしてクリアになった空間に解き放ちたくなるのは、不思議と昔ながらの線香だったりする。
ディフューザーやスプレーなどと違って線香やアロマキャンドルというのは香りそのものだけでなく空間への演出力、みたいなものがある。
煙や炎の動きがそうさせるのかゆったりした気分になったり、落ち着いたり、灯や煙のある空間に影響されて気持ちが変化する。

なので寝室には据え置き型のディフューザーは置かないでキャンドルや線香を使うことにしている。
キャンドルは大抵ディプティックで、寝室で使うのは「Feu de bois」か「Freesia」。
お香はアスティエ・ド・ヴィラットが多いけど、日本の薫玉堂やジュットクのものや、老舗紅茶店であるマリアージュ フレールの出しているお香も大好きでよく使う。
特に好きなのは「朝霧のお茶-Thé sous les nuages」。
アスティエはたくさんの種類を出しているが、そのなかでも特に日本をイメージした「AWAJI」とアーツ&サイエンス別注の「AOYAMA」がよい。

お香は朝に焚くことが多く、キャンドルはやはり夜だ。
朝日のなか立ち上っていく煙はすがすがしく、夕闇のなかのろうそくの炎はほんのりと温かい。

部屋に似合うかどうかも重要で、日本家屋や和室で使うのは歴史を感じる静謐な和の香り。
逆に洋室だとその和の部分が浮いてお仏壇感が出てしまう。
ほど良く華やかな海外のお香は現代の日本住宅に非常にマッチする。
液体のものだと香りのバランスが崩れるのに反して、お香だとその華やかさが抑えられてちょうど良いというのが面白い。

面白い、と言いながらも一切の笑いなく真剣に書いてしまっているが、香りに関しては私は毎回こうなってしまうのだ。
香りには笑いの要素がないからだろうか。
嗅ぐと大爆笑してしまうような面白い香りとかないものね。

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