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ふしん道楽 vol.4 コンセント

新しくウォーターサーバーを入れることにした。
もう随分長いことペットボトルを買ってただ消費する生活を送ってしまっていて、毎回ペットボトルを捨てるたびに「なんとかせねば」と思いながらも思い切りがつかないでいたのが、amadanaのウォーターサーバーを見てこれなら良いかな、と決心したのだ。

以前使っていたものは例によって水色に輝くボトル装填部分、白いボディーに謎の銀色ライン。
水の出てくる場所はわかりやすいよう水色と赤に塗り分けられていた。
ウルトラマンか!
ウルトラマンがそっと控えてるリビングなどメフィラス星人が現れたらどうしよう……と心配でとても落ち着けない。

半年で解約し、浄水器を付けたことを思い出す。
シンプルでインテリア性の高いウォーターサーバーならそんな心配は無用だ。
今回はリビングに隣接したキッチンにはテーブルと同じ黒いのを、寝室には違和感のないよう壁と同じ白いのを設置すると決めた。

が、しかしである。
ウォーターサーバーには電源が必要であることをすっかり忘れていた。
温かいお湯や冷えた水を出すためには電気の力が必要なのだ。
私が想定していた場所にはことごとくコンセントがなかった。

コンセント。
それはリノベーションや注文住宅を建てた人なら、一度は悩まされるものではないだろうか。
いや、悩まずさっさと建築の方にお任せで決めてしまうかもしれないが、私は最初コンセントの場所を設定できる、ということすら知らなかったので驚いたことを覚えている。
え?自分で決めて良いものなの?と。
それまで意識すらしてこなかったのだ。

初めてリノベーションしたのは原宿の仕事場だった。
その前の仕事場ではアシスタントさんの机にそれぞれトレース台とライトが必要だったりで、いつも机の下がカオスになっていた。
机の上を片付けても下ではコードが束になりトグロを巻く大蛇みたいになってる。
しかもそこにほこりや消しゴムのカスが絡まって日々成長していくのである。
新しい事務所ではオロチを育成するわけにはいかん!

それを踏まえてデザイナーさんと相談し机を置く場所をあらかじめ決め、床に押すと飛び出すタイプのアップコンセントを付けてもらった。
掃除機用に部屋の真ん中にもアップコン。
コンセントの設定に目覚めた私は「ここにはフロアスタンド置きたいから」とか、「マッサージ機置くかもしれないから」とやたらコンセントを付けてもらった。

そう、私はコンセントの鬼となったのだ……。

だが、それらの大量のコンセントは後で写真で見てみると割と目について、仕事に追われている様を内装で表現したかのようだった。
利便性だけを追求するとコンセントだらけの部屋になり美しくない。
仕事をする場所も美しくしたいとこのときに思い、それは今も変わらない。

鎌倉の家では昭和前半の雰囲気を壊さぬよう家電全般にはいろいろ注意していたので、当然コンセントにも注意を払った。
伊万里焼の渦巻いてる模様のやつとかカントリー調のものとか、いろんなプレートがあるのに驚いたがカントリー調だけは避けた。

昭和住宅にカントリー調を混ぜると「嫁に行った40代の娘が実家にいたころおしゃれにしようと頑張った部屋」になるのである。
表現がやけに具体的で申し訳ない。

紆余曲折を経て結局、真鍮のプレートに収まった。
本当はスイッチも徹底して硬い感じの黒いものにしたかったのだが見つけられず、白いスイッチにした。
位置も難しく1センチ単位で調節するので非常に面倒だった。

柱や幅木など木の部分と壁の漆喰とのバランスには正解があって、それを見つけるまで少しずつずらしてみたりして場所を決める。
面倒なあまり怒りまで覚え始めたので、コンセントの数を減らすというやり方に切り替えた。
鎌倉では暮らし方も掃除機を使わないで雑巾掛けしたりと、「昔の暮らしコスプレ」に凝っていたので案外不自由はなかった。
なきゃないで困らないなとそのときは思ったものだ。

そんなコンセント人生を送ってきた私だが、この度リノベーションした新居はそれらのコンセント観をいかんなく発揮して、数を最小限に留めてしまった。
なるべく見えない場所になるべくそっと。

フロアスタンドやスピーカーの設置などを考えるとアップコンを仕込むべきではあったが、最初から貼り込まれているヘリンボーンの床を剥がしたくはない。
そのようななかで、コンセントたちがお行儀良くぽちんとある部屋に満足していたのだが、ここに来てのウォーターサーバー設置である。

近場のコンセントに挿して使うことはできるが、長々と引っ張っているコードほど嫌いなものはない。
懐かしのオロチ復活!懐かしくないし絶対に嫌。
せっかくコンセントを絞ったのに、コードが床を這っていたら本末転倒である。

考えた結果、ウォーターサーバーは最初に想定した場所に置いた。
そして電源を入れなかった。
よく考えたら水は常温で飲む派なので冷やす必要はないし。
お湯を使うときはちゃんと火で沸かしたものを飲みたい。
電源を入れずに使い始めたが、特に困ったこともなく問題は解決した。

残されたのは「やっぱりコンセントは必要なのか問題」。
今のところ、もう少しあっても良かったのかなと思っている。

191114_illust1c_04 グレー

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