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12月22日スープの日

「お母さん!なんで起こしてくれなかったのよ」

 朝からキーキーと口を尖らせて怒る娘に、私は諭すように答える。

「お母さんは何度も起こしたけれど、あなたがまた寝ちゃうんでしょう」

 私の言い方が感に触るのか、またも怒って返す。

「起きて立ち上がるまでするのが『起こす』でしょ!」

 そんなに怒って言うものだから、さすがに母親でもイラッとするもので。諭す言い方が感に触るのなら、このまま続けて返します。

「それを言うなら、あなた、2回は『起きた』わよ。立ち上がって再び布団に潜り込んだのはやっぱりあなたでしょう」

 やっと冷めたご飯を詰め詰め、お弁当が完成した。蓋を閉め、ハンカチで包む。夫の分と娘の分。

 それと、あとは。

「はい、スープ」

 私がそう言ってダイニングテーブルにスープボウルを置くと、どこか気まずそうに娘が席につく。つられるように、夫も席についた。

 我が家の朝はスープで整う。

「オニオングラタンスープだ、やったね」

 夫は無邪気にはしゃぐようにしてスプーンを手に取る。今度はそれに娘がつられてやったぁと小さく呟くように言った。口にして、しまったと気付いたらしく、慌てて口を尖らせた。

 尖らせた口は、ふぅふぅとスープを冷ましながら飲むのにぴったりである。だから、娘が慌てて怒ったふりをしたのか、それとも単にスープを飲もうとしたのか分からない。

「あぁ、温まる」

「お気に召しましたか」

 私が茶化すように言うと、少しだけ照れながら「ごめんね」と言った。


 思えばこの子が小さなときから同じような朝を過ごしている。大きくなるにつれて穏やかな時間となるかと思えば、私の手出しが少なくなったくらいで、結局手伝ったりしているのは変わらないから、やっぱり同じような朝だ。

 朝が弱い娘とマイペースな夫。2人の朝食とお弁当を用意する私。

 この、「私」の位置は娘と夫が無くては成立しないポジションである。だから私は毎朝キーキーと怒られても娘を起こすし、夫がわぁい!と喜ぶ機会が増えるようにちょこちょことメニューを変えて朝食やお弁当を用意する。

 私の場所。

 ここに無くてはならないのは、やっぱりスープだった。娘は小さな頃から朝に弱くなかなかすっきりと起きなかった。起床が遅くなればなるほど朝食を食べなくなる。おにぎりもパンも、コーンフレークも、寝坊をした日は食べられないのだ。だからせめてと、スープを出すようにした。コーンスープにミネストローネ、味噌汁のときもあれば今日のようにオニオングラタンスープ。もちろんインスタントと多いです。

 さっと飲めてお腹も膨れる。暑い夏には冷製スープでさっぱりと。寒い冬にはお腹の中から全身を温めて。おにぎりもパンも食べられなければもう仕方がない。でも、必ずスープは飲んでいくようになった。それで充分だ。

 小さな椀の中に、私の気持ちがどれだけ詰まっているだろう。それを、きちんと平らげて彼らは外へ出る。

 きっと明日もスープを出すし、明後日もちゃんと飲んでくれる。

 そうして、私は空になった椀を水で洗って、静かに温まるのだった。

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【今日の記念日】
12月22日 スープの日

日本のスープ業界の発展を目指して、1980年にスープ製造企業などにより結成された日本スープ協会が制定。スープに関する話題を提供することで、より多くの人にスープへの関心を持ってもらい消費拡大を図るのが目的。日付は温かいスープをより美味しく感じることができる冬であり、12と22で「いつ(12)もフーフー(22)とスープをいただく」という語呂合わせから12月22日としたもの。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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