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8月10日 ハーゲンダッツの日

「はい、おみやげ」

 夫が買って来てくれたのは、ハーゲンダッツだった。それも私の好きなマカデミアナッツ。

「ありがとう!どうしたの?何かいいことあった?」
「いや、特にないけど」

 そう言って夫は洗面所に向かい、お風呂に入ってしまった。

 何の記念日でも、何のよいことがあったわけでもないのに、ハーゲンダッツを普段に買ってきてくれる夫にちょっとキュンとしたのは内緒にしておく。

「パパ、お土産買ってきてくれたの?」
「うん!アイスあるよー」

 私がそう言うと2人の娘はワーイと喜び、台所にやってきた。夫から受け取った袋を見ると、ハーゲンダッツではない箱アイスも入っている。

「あ、こっちのアイスがいい」

 箱とハーゲンダッツを両方見た長女がハーゲンダッツを指さすが、今回は丁重にお断りする。

「ごめんね、今日はこれ、大人の分なのよ」
「えー残念。また今度買ってね」

 すんなりと引いてくれたので助かった。それは買ってきてくれたハーゲンダッツが彼女の好きなクリスプチップチョコレートじゃないからかもしれない。それだったらきっとこんなにすんなり引き下がらないだろう。
 子供たちにアイスを与え、歯磨きをさせ、寝かしつける。寝静まったことを確認し、私はそっと寝室を抜けた。

「アイス、いただくね」

 私はそう言って冷凍庫からそれを出す。夫はようやく今が夕飯だというのに。お先にデザート、いただきます。
 カップを両手で持ち、じんわりと少し温めるようにして手で包む。そのひんやりとした冷たさが心地よい。ほんの少しの柔らかさを感じたら、蓋を開けてスプーンで掬う。そろそろアイスクリームスプーンを買おうかなと毎回思う。
 一口目を口にした。

「あ、やっぱりおいしい」

 そうなのだ、分かっているのにおいしい。毎回、毎度そう思う。美味しいことは知っているし、私の好きなマカデミアナッツの味もしっかり記憶していて分かっているのに、やっぱりおいしい。濃いクリームの味、ごろごろ入っているナッツ。併せて口の中で食べるそれは幸福なのだった。

「ちょっとしたご褒美とか自分の幸せを得ようと思ったらハーゲンダッツは最強よね」

 私はしみじみと思い、夫に言う。彼も早く食べたくなったのか、まもなく夕飯は完食のようだ。

「そうだね、食べて絶対幸せになれるものがスーパーやらコンビニやらに売っているのは本当にそれこそ幸せかも」

 そう言いながら彼は食器を片づけ始めた。台所から戻ってきたその手にはハーゲンダッツを持っている。彼はバニラ。

「何か記念があって食べるのもいいけどさ、日常の何でもない日に食べることも贅沢だなと思って・・・・・・買っちゃった」

 ああ、やっぱりおいしいと何度も言いながら彼は食べ進める。買って正解だったとも言った。
 日常の何でもない日に食べるハーゲンダッツの幸せ。

 私はメッセージアプリから『ギフト』を開き、最近会えていない妹にやっぱり何の記念日でもないけれどハーゲンダッツクーポンを送ってみた。

 驚くことに送った私も幸せになるのだった。

 世界がハーゲンダッツで溢れればいいのに。

 こんなことを願っても許されるのが『何でもない日常』である。

 ごちそうさまでした。

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【今日の記念日】

8月10日 ハーゲンダッツの日

高級アイスクリームブランドで知られるハーゲンダッツジャパン株式会社が制定。日々の生活をちょっとステキな日にランクアップしてくれるおいしいハーゲンダッツのアイスクリームをさらに多くの人に味わってもらうのが目的。日付は同社の創業日(1984年8月10日)から。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jpの許可を得て使用しています。

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