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9月13日 お父さんの日

    いつからだろうか、『お父さん』が何か少しかわいらしい『生き物』として時々話題に上がるようになったのは。特に若い女性の間で聞くことが多い。当方、女子大生である。

 たとえば少しぬけっぽい上司や、PCなど新しいデバイスに弱い年齢高めの男性に向かって放たれる「もー、しっかりして、お父さん」と言ったセリフ。今日び、お父さん世代だってPCや最新スマホなど、使える人はわんさかいるはずなのに。

 『お父さん』なる可愛らしい生き物は得てして若い女性のことをあまり理解していないのだと、当人たちが笑って言うこともままある。そこには「お父さんだからしょうがない」と言ったニュアンスが含まれていることが多いように思う。

 ではなにか、世のお父さんは一種類しかいないとでも言うのだろうか。

 そしてそのすべてが可愛らしいとでも?

 もしそうであるというならば、うちの父は差し詰め新種かなにかだろう。

 寡黙も寡黙、全然しゃべらないのだ。笑顔というものも、久しく見ていない。

「めっきり元気がなくてねぇ」

 母がそう言ったのは初夏の頃。父の表情があまり元気そうでないというのだ。ここ2年、感染症の影響で外出自粛が続いており、父の仕事も在宅が続いている。そのせいか人と接することもこれまで以上に減り、気持ちが落ち込んでいるのかもしれない。私も県外に出ており、両親ともに会えていないのだ。

 せめてと思い、効果が高いと評されている乳酸飲料を定期購入で届けてもらうよう手配した。

 そんな父から今、いつぶりかにビデオ通話が来ているのだが、なにがあったのだろう。

「もしもし、お父さん?見えてる?」

「ああ、見える」

 お互いの画面に顔が写ることを確認し合う。

 ・・・・・・そうして1分ほど過ぎる。

「ちょっと、お父さん」

 母が横からつついてくれているようだ。父はまた、ああと言って話し始める。良かった、何の見つめ合いかと思った。

「ヤクルトありがとう。続けて飲んでいると調子が良い気がする」

「ああ、効果あったんだね、良かったよ。もうしばらく飲み続けてみてよ。なかなかそっちに会いに行くこともまだ出来そうにないからさ、帰省みやげの代わりに」

 私がそう言うと、相変わらず凛々しい顔つきで、ありがとうと頷く。心なしか、その声は優しい。

「会えないのは寂しいけれど、ありがたくもらっておく」

「え」

 父はそう言って、言葉通り少し寂しそうにしながらも眉尻を下げ、口角を少し上げた。

 父の口からこんなセリフが出たことは無いし、父が笑うのを私は久々に見た。

「じゃあまた」

 そして唐突に電話を切られた。

「ええっ」

 一体なんだ。

 ツンデレなのか!?ツンデレツンなのか!?

 私が混乱していると、母からメッセージが届く。

『お父さん、昨日、今のセリフ鏡を見ながら練習していたみたいよ。でも恥ずかしくなってすごい勢いで電話切っちゃったみたい笑』


 なにそれ。

 お父さん、可愛いじゃないの。


 離れて分かるのが親の偉大さでも大切さでもなく(それもあるけれど)、父の可愛さって一体どうなのだろう。

 でもまぁ、それも良い。


 元気でいてよ、可愛いお父さん。

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【今日の記念日】

9月13日 お父さんの日

毎日働いて一家の大黒柱として頑張っているお父さんに、月に1回、感謝の気持ちを表す日をと株式会社ヤクルト本社が制定。「人も地球も健康に」とコーポレートスローガンに掲げる同社の、お父さんが健康にとの願いが込められている。日付は13で「お父(10)さん(3)」の語呂合わせから毎月13日とした。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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