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3月1日未来郵便の日

 今日は3月1日で、確かに切手の消印もそうなんだけれど、届いた絵手紙の裏に押されたスタンプは10年前の日付になっていた。

 これは10年前の私が書いた絵手紙なのだった。

 私はポストから取り出した手紙や封書の中からそれだけを抜き取ると部屋に向かった。

 絵手紙をよくよく見ると2011年3月1日のスタンプが押されている。思い出してみれば、そのスタンプを押したのは私なのだ。はがきに書かれたイラストを見ると女の子らしき2人が描かれている。絵の近くにはそれぞれ”今”と”未来”とあり、きっとその2人の女の子は今の私と未来の私なのだろう。満面の笑みの2人の横に添えてある文章はこうだ。


『20歳の私へ
 ずっとなりたかった小説家になれていますか?
 大人になって幸せですか?
 毎日は楽しいですか?』

 子供の純粋さと言うのもは文字にしてもなお光り輝くものなのかと驚かされる。ピュアとは斯くも眩しい。

「小説家にはなれていませんよっと」

 私は小さい方の私の絵を人差し指で撫でながら言う。

 ごめんね、小説家にはなれていません。

 この4月からは会社に入って社会人デビューするんだよ。文壇デビューではないんだよ、残念ながら。私は頭の中で弁解のように言いながら思い出す。そうだ、10歳の時に考えていたのだ。10代のうちに小説家デビューしたら、若年デビューできっと有名になれる。そう言う目論見でなんだか色々計画していたなぁ。それは一体この10年でどこに行ってしまったのだろう。残っているのは、応募をしても2次選考で落とされてしまう両手で余るほどの作品だけである。真剣に取り組んだのかと言われると胸を張ってはいとは言えない。だから、私にはこの絵手紙が眩しすぎて直視できないでいる。

 10年前の自分は、今の私を見て失望していることだろう。大人になれて幸せですかと聞かれても、幸せなときもあるしそうでないときもあるよ。毎日楽しいですかと聞かれても、楽しい日もあればそうでない日もあるんだよ。

 ごめんね、もしかしたら私は10年前から何も変わっていないのかもしれない。

 少しだけ、涙が出た。


 絵を撫で、絵手紙の隅を見るとまだ何か書かれている。ペンのインクが滲んでしまっているが、ゆっくり見ればちゃんと見えるのだった。

『もし、途中の場合にはまた絵手紙を書いてください。頑張ってください』

 私はハッとする。10年前の私は、10年後の今をゴールだと思っている訳ではないのだった。その先の未来をずっと見続けている。

 私は10年後、今度は30歳になっている私を想像して絵手紙を書くことにした。10年前の私の思いを引き連れて、10年後に願いを託す。もしかしたらそのまた10年後にも託すかもしれない。
 未来とはそれは自由な願いである。

 さて、私はもう一度物語を紡ぐ。自分の過去と未来のために。
 未来は追い続ければ続くのだ。
 今日、ここから1歩目をいこう。

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【今日の記念日】

3月1日 未来郵便の日

未来に向けて発信し、5年後、10年後の指定した日に届く未来郵便制度を発足させた長野県下水内郡栄村の栄村国際絵手紙タイムカプセル館と、その運営を手がける絵手紙株式会社が制定。日付は3と1で「みらい」と読む語呂合わせから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。



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