見出し画像

7月10日 ウルトラマンの日

 どうしよう、トイレに行きたい。

 おねしょをする前に目が覚めたところまでは良かったけれど、ここからが問題だ。トイレには行きたい、行きたいけれど行けないでいる。

 トイレに行くまでに、怖いおばけに捕まってしまったらどうしよう。そう思うともう行けないのである。これも、眠る前にウルトラマンタロウで見たあの怪人「オニバンバ」のせいだ。鬼のような、鬼のおばあさんのような風貌のそいつが、もしかしたらトイレまでの道のりに隠れているかもしれない。もしかしたら、寝室のドアをあけた瞬間に飛び込んできてしまうかもしれない。そう思うとトイレに行けないし、扉も開けることが出来ない。

 でもどうしよう、もう限界だ。

 でもきっと僕がウルトラマンタロウに出てくるZATの隊員なら、トイレになんて怖がらずに出て行って、もしオニバンバが出てきても戦って勝てるようでなくてはならない。いや、そもそもオニバンバがこの家にいるのなら、ウルトラマンタロウを目指す僕がパパやママ、妹を守らなくてはならないのだ。

 この家を守るのはウルトラの僕しかいないのだ。

 でも、やっぱり怖い。

 こんな恐がりな僕はウルトラマンタロウになんてなれないかもしれない。どうしよう、どうしよう。

「ねえ、ゆずる。起きてる?」

 隣で眠っていたはずのママが僕に声を掛けた。僕は小声で返事をする。

「うん、起きているよ」

「ママ、おトイレ行きたいんだけど、ちょっと怖いから、ゆずるも一緒に来てくれる?」

 それを聞き、僕は心底ほっとした。ママのトイレについて行くついでに僕もトイレに行けばいいんだ。

「もちろん!僕が一緒について行ってあげるよ」

 そう言って僕とママはそっと布団を抜けて扉に向かう。

 扉の向こうからはなんだか、ずぅぅんと重い空気を感じたけれど、僕はそれを押し返すようにしてぐいと開けた。

 オニバンバはそこにはいなかった。

「夜はなんだか怖いよねぇ」

 つないだママの手をぎゅっと握り返した。

「大丈夫だよ、ママ。僕は一緒にいるんだから」

 そう言ってトイレにたどり着く。僕の我慢もそろそろ限界である。この扉の先に、やっぱりオニバンバが潜んでいたら・・・・・・。そう思うとなかなかドアノブに手が出せない。

 いや、でも僕はウルトラマンタロウになる男だ!こんなところで怖がっていられない。

「よし、トイレ行こう!」

 ぐっと手に力を込めて扉を開ける。

 やっぱりオニバンバはそこにはいなかった。

 良かった。安心すると同時にもう、我慢の限界が来た。でも、ママがトイレに行きたいと言っていたのだから、ママが先に。

「ゆずる、先にトイレする?」

「うん!!!」

 僕は勢い良く答え、急いで準備した。

 そうして何とか間に合ったのだった。

「ゆずるがついてきてくれてママ、助かったよ。夜のおトイレは一人だと怖かったのよ。さすがウルトラマンタロウのゆずるだね、かっこいい!」

 母はそう言い、僕はなんだか誇らしかった。

「うん!またいつでも言ってね!僕がタロウになって守ってあげるから」

 僕の胸にはいつだってタロウがいる。そう思いながら布団に戻る。

 そう言えば、ママはおトイレしなかったなぁ。 

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 

【今日の記念日】

7月10日 ウルトラマンの日

世代を超えて愛されるウルトラマンなどのさまざまなヒーローやキャラクターを生み出し、ウルトラマンシリーズの制作を手がける株式会社円谷プロダクションが制定。日付はウルトラマンのテレビ初登場が1966年7月10日であることから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?