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8月11日 きのこの山の日

「あれ、日曜日にも食べていなかったっけ?」

 予備校の帰り道、公園のベンチに座って大好きなきのこの山をぽつりと食べていたらば、同じクラスの近藤空に声を掛けられた。

 日曜日にも食べていたことをなぜに知っているのだ。と思うが、そうだったそうだった、日曜日には模試があったのだ。

 ・・・・・・いや、模試の時にも会ってはいないのだが。

「日曜日は8月8日で、今年に限ったきのこの山の日だったから」

「そうなんだ。で、今日は?」

「今日が本来のきのこの山の日だから、その」

 そこまで言うと、なるほどと言った表情で小さく頷き、まるでそのつもりだったかのように隣のベンチに腰を掛けた。私の隣ではなく、隣のベンチ。私は立ち上がり、きのこの山を差し出してみる。

「た、食べる?」

「うん、ありがとう」

 屈託なく笑うその顔に、私はくらりとする。

 私はずっと、近藤空が好き。

「うん、サクサクだよね、きのこの山のビスケットは」

 しみじみとそんな風に言い、もう一つと言っては箱の中に手を伸ばす。箱ごとどうぞと思いつつも、私も食べたいのでそうは出来ない。

「いっぱいどうぞ」

「あ、あと5個しかない」

「ぜ、全部どうぞ」

 私は彼の手を取り、広げた手のひらに向けて箱を傾けた。フチに引っかかっているのかなかなか落ちてくれない。トントンとすると、くすくすと笑い声が聞こえる。

「高峯、もしかして眠いの?手がめちゃくちゃあったかい。子供みたいだ」

「あっ!ご、ごめんね」

 慌てて彼の手を離す。その反動でコロン、と一つのきのこが落ちてしまった。それを彼がもう一方の手でうまく受け止めた。

 手が暖かいのは恥ずかしいからで、眠気などみじんもない私である。

「危ない危ない。はい、どうぞ」

 彼はそう言うと、そのきのこのビスケット部分を指で摘み、私の口に運んだ。私の口の中、もとい全身が熱くなっているせいか、きのこのカサは一瞬にしてとろけてしまった。

「お、おいしい」

「さっき食べたのと同じでしょう」

 彼はまた小さく笑い、私は恥ずかしさで目を瞑る。するとチョコのおいしさとビスケットのサクサクが口の中で絡まり、やっぱり美味しいではないかと思う。

「日曜日の模試の帰り道でさ、高峯がここで今日みたいにきのこの山を食べているのを見て、思わず帰り道に買っちゃったわけよ」

 私はうんうんとうなずいてみる。

「で、一週間もせずに今日もまたきのこの山を食べているんだよね。俺、たけのこの里派なんだけどね、最近たけのこの里食べてないな」

 これじゃあどっち派なんだろうと言うので、思わず私は口を開く。

「大丈夫!私も3月10日のたけのこの里の日にはたけのこを食べるから!」

 言ってから、どういう理屈でいったいなにが大丈夫なのか、自分でもわからず大きく後悔した。

「ふふ、それどう大丈夫なのよ。まぁ、たけのこときのこの何かしらの均衡は保てるのかな。でも、うん、一緒に食べてくれるのね、たけのこの里の日」

「え、いや一緒にとは」

 私が否定するより強く、満面の笑みで彼は笑った。

「じゃあ、来年の3月10日は一緒に食べような」


 こんな奇跡が起こるなら、年に何度だって記念日作ってください、明治さん。

 とりあえず、残りの4つのきのこをシェアします。

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【今日の記念日】

8月11日 きのこの山の日

チョコレート菓子「きのこの山」を発売する株式会社明治が制定。1975年に誕生した2種類のチョコレートとサクサクしたクラッカーの絶妙な食感が人気の「きのこの山」をさらに多くの人に味わってもらうのが目的。日付はチョコレートの部分を縦に2つ並べると「8」に、クラッカーの部分を2つ横に並べると「11」になることと、国民の祝日の「山の日」に合わせて「山」の名前がつく商品に親しんでもらいたいから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jpの許可を得て使用しています。

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