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5月3日 くるみパンの日

「桃ではないよね」

 私の作ったくるみパンを、もっくもっくと美味しそうに頬張りながら(ありがとう)、相川誠は否定した。

「えー、でも中国の『胡』とか言う国だか地方から日本にきた『桃』みたいな実だから『胡桃』って言うらしいですよ」

 私はきっと少しドヤ顔でもしていたかも知れない。ふん、と鼻息荒く言い返してみた。相川誠はそんなこと知っていると言った顔つきで、やっぱりくるみパンを食べ続けている(ありがとう)。でも美味しいとは言ってくれないのだった。

「それもあれだろう?諸説ある、的な」

「そう言われるともう、私には何も言えないのですが」

 と、言う心の声をそのまま口に出し、私の反論は終わる。

「うん、まぁでも、どちらにしても、これは桃ではないよね」

 念押しのように彼がそう言い、私も仕方なしに頷いた。

 本日、5月に入って、来る3日はこの相川誠の誕生日だった。

 彼は半年前に始めたバイト先の先輩である。彼が19歳、私が17歳なので年齢的にもバイト歴でも先輩だ。どこかひょうひょうとしているような不思議な雰囲気の彼は意外に人気者なのだった。先週くらいから、彼がバイトの同僚やお客さんからプレゼントを受け取っているのを見ている。私も渡そうと考え、他の人と違うものは何だろうと考えた結果、くるみパンとなったのだった。

「僕は桃が好きと言ったのだけれどね」

「はい、だから別の人からは桃のケーキやゼリーをもらっていましたよね」

 そうなのだ、以前、彼に好きなものを聞いたら桃だと言った。おそらくは他の人も同じように彼に好きなものを聞いて、その結果、桃のケーキやゼリーをプレゼントしているのを見たのだ。

 同じものはおもしろくないなと思い、桃にちなんだ何か変わったものを渡そうと調べた結果に行き着いたのがくるみパンである。

「さっきお話した理由から、私は桃が好きな相川さんにくるみパンを渡したわけです」

 そうですか、と言って彼は2つ目のそれを手に持った。

 美味しいとかそうでないとか教えてくれないけれど、2つ目を食べてくれると言うことは美味しくなくはないと思っていいのだろうか。私は胸の中でそわそわとしていた。

「アーモンドとかカシューナッツは苦手なんですよ」

 ほう、ナッツは苦手なのか。私は思惑がはずれたのだと思い、さっきまで感じていたそわそわが少しずつ消えていくのを感じた。

「でも、くるみは好きかも知れない。初めて知ったな。硬いのに柔らかい」

 そう言われ、私の胸の内はまたも急にそわそわする。不思議な言い回しで分かりにくいが、どうやらくるみを気に入ってくれたようで安心した。

「くるみ、体にもいいみたいです。くるみに含まれる成分の代謝によって幸せホルモンが出るらしくて、それで」

 私が興奮気味に話し始めると、彼は笑った。

「君はあれだね、僕がくるみを好きだと言う、新発見をプレゼントしてくれたんだね」

 その笑顔に、胸がきゅうっとなった。

 私は慌ててプレゼントしたはずのくるみパンを一つもらい口に入れた。咀嚼し、味わう。くるみの香ばしさとパンのふわふわがおいしいと自画自賛をしておいた。

 なんだか少し幸せを感じているのは、これもくるみの成分のせいなのだろうか。

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【今日の記念日】

5月3日 くるみパンの日

日本におけるアメリカのカリフォルニア産のくるみの最大の用途が製パンであることから、定期的に「くるみパン」に親しんでもらおうと、カリフォルニアくるみ協会が毎月3日に制定。日付は「毎月来る3日」を「毎月来るみっ日(か)」と読み「くるみ」にかけて「くるみパンの日」としたもの。くるみはビタミンやミネラルなど健康に過ごすための栄養成分を多く含む食材として知られる。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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