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5月22日 たまご料理の日

「私、たまご料理屋さんになる!」

 まるで海賊王になる!と言う決意の顔つきで娘は言った。目の前には娘用に購入した、小さめのたまご焼き器と言う名のフライパンがある。その中に、ふんわり厚みのある焦げ目がおいしそうなたまご焼きがあった。

 ここ最近、彼女は自分でそれを作ることに夢中である。

 私がそばにいることを前提条件に、料理することを許可したのは彼女が5歳の時だった。一番最初に作った料理がたまご焼き。最初は卵を割るだけだったり、それをかき混ぜて卵液を作ってもらうだけだったりしたが、いつからかすべての行程を彼女が行うようになっていた。もちろん私は横で見ている。

「うん、なれるかもね。だって今日のもすっごく上手にできているよ」

「でしょう!私の作ったたまご焼きが一番おいしいと思うもん!」

 彼女は小さな鼻息をふんっ!と出し、自信満々で言う。

「あ、もちろんママの作った料理も一番おいしいけれどね」

 私への気遣いも忘れないところが素晴らしい。

「ありがとう、でも本当に上手に作るようになったよね」

 今度は照れくさそうに笑った。

 隠し味と言うか単なる調味なのだが、醤油とマヨネーズを入れて卵液を作る。その分量なども最近は彼女が決めて作る。チーズやカニかまを入れたりしてアレンジをするのも彼女の案だったりする。その焼き加減もほとんど私は口を出さないので、それらは完全に彼女の作品なのだった。

「翔くんも、ねぇねの作ったたまご焼き大好きだよ」

 4歳の弟も絶賛すると、彼女の鼻は高くなる一方だ。

「ママ、翔くん、いつでも作ってあげるからね!」

 その言葉を毎日言うものだから、この3日間、夕飯の1品には必ず彼女のそれが並んだ。今日のこの後の夕飯を入れれば4日連続になる。

「うん、おいしいもんね。また作ってね」

「明日も作る!」

 意気込む彼女に私は卵を入れているトレーを見せて説明する。

「ちょっと卵が足らないんだよね」

 もう残り1つしかないから明日はお休みですと分かってもらいたかったのだが、それはまだストレートに伝わらない。

「1つだけで作るよ」

 まかせて!とばかりに言うので、せっかくなら今日までのようにふんわりしたたまご焼きがいいと私はお願いした。

「ああ、そうね」

 意外にあっさり引き下がった。が、今度は別の依頼が飛び込んだ。

「じゃあ、あれ作る!ママが時々作ってくれるたまごかけごはん!」

 ああ、それはいいねと私は快諾した。割って味付けして混ぜるだけだし簡単だ。火の危険にハラハラせずに済む。

 けれど、彼女はどこか難しい顔をする。

「でもどうかなぁ。私にはまだ難しいかな。あんなにおいしい料理だもんね」

 眉間にしわを寄せ悩んでいる。そんな彼女があまりに可愛く、私はちょっと笑いそうになるのを堪えた。料理を見ただけで過程が分かるほどにはまだ大人でないことに安心したりする。

「難しいかもね。でもさ、たまご料理屋さんになるんだったらいろんな料理が作れるようにならなきゃね」

 私が言うと、決意を新たにヨシ!と気合いを入れていた。

 では私はTKG用のだし醤油でも買ってこようかな。

 小さなたまご一つで子供の夢や満点の栄養、お腹も膨れるのなら、いくらだって私は応援したい。


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【今日の記念日】

5月22日 たまご料理の日

埼玉県さいたま市に本拠を置き、全国の飲食店向けに「うまいもん認定」事業を行っている一般社団法人全日本うまいもん推進協議会が制定。料理の基本と言われるたまご料理をとおして、食についての衛生と安全を啓蒙する機会の提供。また、たまご料理の食文化の振興という願いが込められている。日付は5月の05で「たまご」、22日を「ニワトリ ニワトリ」と読む語呂合わせから。


記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。


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