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7月31日 ビーチの日

「これ、『たかし』って誰??」

 3組の大山隆史君かなぁと言って小首を傾げたのは小学校2年生の娘だった。

 白い砂浜に木の枝か何かで書かれたそれは『たかし 大好き!』とある。どこかの恋人同士の彼女が書いたのか、それとも青春まっただ中の女子が思いの丈を砂浜に綴ったのか。

「萌子も書いてみたら?好きな子の名前」

 私がそう言うと、萌子は分かった!と言って付近をきょろきょろと見回した。手頃な棒を手に取り砂浜に書く。

「せなちゃんと、あかねちゃん。あとはこうすけくんも好き!」

 ゆっくりと大きく字を書き、書いている最中もそれら友人のことを思い出しているようで、嬉しそうに笑っている。好きな子と言われて仲良しの友達の名前を挙げる彼女が愛しい。そんな彼女を見て気づく。

「あれ、萌子、なにで書いているの?」

 私はてっきり近くにあった木の枝で書いているのだと思っていたが、それは明らかに黒いプラスチック素材の細い棒だった。

「なんだろう、落ちてたの」

「そっか、何だろうね。でもプラスチックだからこっちのごみ袋に入れようか」

 私はそう言ってゴミ袋を差しだし、娘はその棒をそこに入れた。


 自由研究の貝殻ネックレス作りの為に海に連れて行ってくれと懇願されたのは夏休みに入ってすぐだった。幸い家の近くに海があり、小さな砂浜に降りることも出来る。週末に行くと約束して、今日やっと来られたのだ。海水浴は今年も難しいようなので、せめて夏らしさを感じさせてやりたいと思っていたこともあり、人の少なそうな早朝に私と娘の2人でやってきた。

 砂浜にはいろんなものがある。少し悲しいことだけど、たくさん落ちている。彼女の探す貝殻ももちろんあるし、さっき見つけた恋人たちのメッセージ(落とし物ではないけれど)、プラスチックの棒、発砲スチロールの欠片、ペットボトル、お菓子の袋。貝殻を探すついでに砂浜に不要なものを片づけることにした。

「あ、このお菓子、萌子も好きな奴だ!」

 彼女が好きなお菓子の袋を見つけると、次に私が見つける。

「見て、これは萌子が好きなジュースのパックだよ」

「すごいね、おやつセットが落ちてる。誰かここでおやつタイムにしたのかな。いいなぁ、海を見ながらおやつ食べるなんて気持ちよさそう」

 うらやましそうに言いながら片づけていく。きっと頭の中ではここでおやつを食べている場面を想像していることだろう。

「おもしろいね、いろんな人がいろんなことをしているのが分かるね。ほら、これはさ、貝殻をこの瓶の中に集めたんだよ、誰かが。きれいだから集めたのかな」

 彼女は落ちているものを見てはその光景を想像しているようだった。いろんなものを探して拾い、私に教えてくれる。その想像力は果てしない。

「私、自由研究変えようかなぁ」

「何にするの?」

「砂浜に落ちているものを写真にとって観察する!そしてそれを片づける」

 なるほど、一石二鳥である。自由研究の宿題も出来るし、砂浜もきれいになる。私はいいねと言って、拾ったものを選びながら写真に納めていった。


 観察記録の最後には、何も落ちていないきれいな砂浜を写真に収めておきたい。今年のきれいな夏の思い出に。

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【今日の記念日】

7月31日 ビーチの日

特定非営利活動法人日本ビーチ文化振興協会が制定。海に囲まれた島国の日本は古来より海の恩恵を受けてきた。その海と陸の境目であるビーチ(砂浜)が通年で利用され、活性化につながるように、ビーチの大切さを多くの人に知らせるのが目的。日付はビーチは波によって砂が形成され浄化されることから、7と31で「波(73)がい(1)い」と読む語呂合わせから。

記念日の出典
一般社団法人 日本記念日協会(にほんきねんびきょうかい)
https://www.kinenbi.gr.jp の許可を得て使用しています。

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